ベンゼン環の核磁気共鳴:NMR分析
ベンゼン環のNMR
薬では、ほとんどの化合物でベンゼン環をもつ。そのため、ベンゼン環でのNMRのピークの出方を知ることは、とても重要となる。
ただし、重要なのは「オルトカップリング」と「メタカップリング」だけである。逆にいえば、この二つだけをきちんと理解しておけば、多くのベンゼン環のNMRチャートを理解することができる。
・オルトカップリング
オルト位にアルキル鎖等が存在しない場合、オルト位でプロトン同士がカップリングを起こす。このとき、J値は6-9Hzでカップリングを起こす。
・メタカップリング
オルト位でカップリングを起こすのと同じように、メタ位にプロトンがある場合でもカップリングを起こす。ただし、オルト位ほどプロトン同士が近くないため、お互いのプロトンの影響が小さくなり、カップリングの度合いが小さくなる。このとき、J値は1-3Hzでカップリングする。
なお、パラ位ではカップリングしないため、考慮しなくてもよい。それでは、以下に例を挙げて見ていきたいと思う。
例1
この場合、①と②はそれぞれオルトカップリングを起こしている。
①を基準にした場合、「たしかに①は②とオルトカップリングをしているが、メタ位に①'があるためこのプロトンともカップリングしているではないか」と思う方がいるかもしれない。
しかし、①と①'はそれぞれ等価なプロトンであり「自分と同じ」と見なすことができる。つまり、環境が同じなのでカップリングは起こらないのである。その代り、等価であるため積分比は2Hで出る。
例2
例2のピークであるが、②は①の影響を受けてオルトカップリング、③は①の影響を受けてメタカップリングをしたというだけである。
①であるが、まず②の影響を受けオルトカップリングによって大きく割れる。その次に、③の影響を受けメタカップリングによって小さく割れるのである。そのため、上記のようなピークが表れる。
例3
②は①・③のプロトンによって、それぞれ同じJ値でカップリングする。R1とR2の側鎖の違いにより多少なりともプロトンの環境が異なるかもしれないが、実際にはほとんど同じJ値で割れる。そのため、理論的にはきれいなトリプレットとなるはずである。
同じように考えると、④も①・③の影響を受けてトリプレットとなる。ただし、メタカップリングのため小さいJ値でカップリングを起こす。
①を基準にして考えると、まず②によって大きく割れる。そして、③・④によって同じJ値で小さく割れる。そのため、トリプレットが二つできるようなピークが出る。これは、③も同様に考えることができる。
例4
①は②によってオルトカップリングを起こし、大きく割れる。次に③によってメタカップリングを起こし、小さく割れる。そのため、ダブレットが二つできるようになる。④も同様にして考えることができる。
②は①と③によってオルトカップリングを起こし、④とメタカップリングを起こす。そのため、上記のように割れると推測できる。③も同様である。
※R1とR2が全くアルキル鎖の場合
R1とR2が同じアルキル鎖ということは、「①と④」「②と③」は同じ環境であると考えることができる。「例1」で述べた通り、「自分と同じもの」とはカップリングを起こさない。そのため、次のようなピークが出ると予想される。
①を基準にした場合、②とオルトカップリング、③とメタカップリングを起こす。④も同じ挙動を示すため、①と重なって積分比は2Hとなってピークが出る。
②を基準とした場合、①とオルトカップリング、④とメタカップリングを起こす。「自分と同じ環境のもの」なので、③とはカップリングを起こさない。
例5
①は②とオルトカップリング、③とメタカップリングを起こす。そのため上の図のようなピークが出るはずである。
②は①、③とそれぞれオルトカップリングを起こす。そのため、ピークはトリプレットとして表れる。②'は「自分と同じもの(環境が同じ)」と考えるため、メタカップリングを起こさない。
③では②・②'とオルトカップリングを起こす。つまり、②と②'の影響によってトリプレットに割れる。さらに、①・①'とそれぞれメタカップリングを起こすため、トリプレットがさらにトリプレットに割れる。
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