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強力ポステリザンの作用機序:痔の治療薬

 

痔(ぢ)になると、肛門から出血が起こったり排便時に激しい痛みを伴ったりするようになります。これらを放っておくと症状の悪化を招く恐れがあるため、早目の対処が必要です。

 

そこで、痔を治療するために使用される薬として強力ポステリザン(一般名:大腸菌死菌・ヒドロコルチゾン)があります。強力ポステリザンは痔疾治療剤と呼ばれる薬になります。

 

 

強力ポステリザンの作用機序

 

痔には種類があり、それぞれ次のようなものがあります。

 

・痔核(いぼ痔):直腸の内側にあるクッションがうっ血し、膨らむことで核のようなものができる
・裂肛(切れ痔):肛門の皮膚が切れることによって起こる
・痔瘻(あな痔):細菌感染によって膿が溜まり、トンネルのような穴をつくる

 

痔の種類

 

これらを総称して「痔」といいます。痔核では排便時に出血を伴うことはありますが、痛みは少ないです。一方、裂肛では出血は少ないものの、激しい痛みを伴います。

 

痔が起こると、排便することに対して心理的な負担がのしかかります。そのため、排便を控えるようになりますが、排便までの時間が長いほど便は固く小さくなります。固くなった便は直腸や肛門を傷つけやすいため、これによってさらに痔が悪化しやすくなります。

 

痔では、傷がつくことによって直腸や肛門に炎症が起きています。炎症を生じると、固い便によって傷つきやすくなります。その結果、痔が続きます。

 

そこで、痔の治療を考えるときは炎症を抑えれば良いことが分かります。また、傷の治りを素早くすることができれば、痔の症状を改善できます。このような考えにより、炎症を抑えたり傷の治りを良くしたりする薬が強力ポステリザンです。

 

強力ポステリザンの特徴

 

強力ポステリザンには、大腸菌死菌浮遊液とステロイド剤(ヒドロコルチゾン)が含まれています。大腸菌死菌浮遊液とは、死んだ大腸菌がたくさん浮遊している液体のことを指します。

 

大腸菌死菌浮遊液はワクチンのような働きをすることが知られています。薬を使用した部位に死滅した大腸菌がたくさんいることになるため、白血球などを呼び寄せます。これが感染症から防御する役割を果たし、肉芽形成を促すことで創傷の治癒を促進させます。

 

さらに、ここに強力な抗炎症作用を有するステロイド剤を配合させ、直腸や肛門に生じている炎症を鎮めます。

 

強力ポステリザンは軟膏のチューブ製剤であり、おしりから挿入することで薬を入れます。痔核・裂肛の症状を緩和するとき、強力ポステリザンは有効です。また、肛門の手術跡や肛門周囲の湿疹・皮膚炎などにも使用されます。痔核、裂肛をはじめ、各種肛門疾患に効果を示します。

 

このような特徴により、2つの有効成分によって肛門周辺の炎症を取り去ったり傷の修復を促したりすることで、痔の症状を軽減する薬が強力ポステリザンです。

 

 

強力ポステリザン軟膏(一般名:大腸菌死菌・ヒドロコルチゾン)の効能・効果

 

・痔への使用

 

強力ポステリザン軟膏は、痔による痔核や裂肛の症状に用いられます。具体的には、出血や痛み、腫れや痒みの症状が見られるときに使用されます。

 

痔核(いぼ痔)とは、肛門の内側や外側にいぼ状の腫れができる状態をいいます。便秘や排便の際にいきむと肛門の部分に負担がかかり、血液の流れが悪くなります。すると、毛細血管の集まっている場所がうっ血(血流が悪く血管内に血液がたまった状態)して腫れ上がります。これが、痔核です。

 

痔核には肛門の内側にできる内痔核と、外側にできる外痔核があります。内痔核では神経が通っていないため痛みを感じることは少ないですが、排便時に出血を伴います。一方で外痔核では神経が通っているため痛みを感じます。

 

裂肛(切れ痔)とは、肛門の出口付近の皮膚が切れた状態をいいます。裂肛は便秘による硬い便の通過や、下痢による勢いよい便の通過によって引き起こされます。これらの結果、肛門の出口が切れたり、肛門直腸の血流が悪くなったりして裂肛となります。

 

裂肛が発生するとき、出血の量は多くありません。しかし肛門には痛みを感じる神経があるため、便が通過するたびに激しい痛みを伴います。

 

・肛門手術後の縫合された傷へ使用

 

強力ポステリザン軟膏は大腸菌死菌を含むため、白血球を呼び寄せます。その結果、「皮膚や粘膜の抵抗力を高める作用」や「傷ついた組織の治りをよくする作用」を示します。

 

・肛門周囲の湿疹や皮膚炎へ使用

 

強力ポステリザン軟膏に含まれるヒドロコルチゾンには、炎症を抑える作用があります。炎症を起こすときには痛みだけでなく、赤みや痒みを伴うことがあります。この炎症を抑える作用を活用して強力ポステリザン軟膏を湿疹や皮膚炎に用います。

 

・直腸の軽い炎症へ使用

 

直腸とは、大腸の一部で肛門直前の腸の部分のことです。病気や感染症によって、直腸の粘膜に炎症が起こることがあります。強力ポステリザン軟膏の炎症を抑える作用を活用して、直腸の炎症症状に使用されることがあります。

 

強力ポステリザン軟膏(一般名:ヒドロコルチゾン・大腸菌死菌)の用法・用量

 

強力ポステリザン軟膏は、通常1日1~3回使用します。使用回数は症状によって決まります。使用する時間は、朝の起床時や就寝前などの「排便後に使用する」と指示されることが多いです。なぜなら強力ポステリザン軟膏を使用してすぐに排便をすると、薬も排出されてしまうためです。

 

特に、強力ポステリザン軟膏の注入によって、便意が起きることもあります。そのため、強力ポステリザン軟膏は排便後に使用するようにします。

 

強力ポステリザン軟膏は肛門の外側に病変部があるときは塗布し、肛門の内側に病変部があるときは肛門から注入します。使用量は、薄く塗りひろげず、たっぷりと塗ります。

 

強力ポステリザン軟膏には2gチューブという包装があります。肛門の内側に使用する場合には、ノズル部分だけを挿入して「1回の使用で1本を使い切る」ように使用します。

 

肛門の外側に使用する場合にも、たっぷり使用します。直接塗るか、あるいはガーゼなどを用いて病変部にあてるようにします。

 

強力ポステリザン軟膏の副作用

 

強力ポステリザン軟膏には、非常に稀な例ですが重大な副作用があります。それは長期間、強力ポステリザン軟膏を使用していた人に、眼圧の上昇や白内障の症状が見られたことです。したがって、定期的に眼科でそのような副作用が発現していないか検査をすることが望ましいです。

 

強力ポステリザン軟膏は副作用の少ない薬です。滅多にありませんが、使用後に痒みや刺激、発疹などの報告があります。これらの症状が見られた場合には、使用を中止し医師の診察を受けます。強力ポステリザン軟膏の副作用は、用量を超えて大量に使用した場合や、長期間使用した場合に起こりやすいです。

 

強力ポステリザン軟膏の投与禁忌と併用注意(飲み合わせ)

 

強力ポステリザン軟膏を使用できない人(禁忌の人)がいます。まず強力ポステリザン軟膏に過敏症がある人は禁忌です。同じように、ヒドロコルチゾンに過敏症がある人も禁忌です。

 

強力ポステリザン軟膏には、身体の免疫を抑制する作用をもつヒドロコルチゾンが含まれています。したがって、肛門周囲にウイルスや細菌、カビ(カンジダ症など)による症状がある人も禁忌です。強力ポステリザン軟膏の使用により症状が悪化してしまうことがあります。

 

なお、強力ポステリザン軟膏と併用に注意が必要な薬はありません。

 

 

強力ポステリザン軟膏の高齢者への投与

 

高齢者では若年者と比較して薬の処理や排泄の機能が落ちてしまいますが、強力ポステリザン軟膏を問題なく使用することができます。

 

その際、状態をよく観察して使用します。

 

強力ポステリザン軟膏の小児(子供)への使用

 

小児にも、強力ポステリザン軟膏を使用することができます。ただし強力ポステリザン軟膏に似た薬を大量に使用したり長期間使用したりした場合に、発育に支障が出た報告があります。

 

したがって強力ポステリザン軟膏を小児に大量に、長期間使用することはできません。

 

強力ポステリザン軟膏の妊婦・授乳婦への使用

 

・妊婦への使用

 

妊娠または妊娠している可能性のある人へ、強力ポステリザン軟膏を使用することに問題はないと考えられています。定められている用法・用量の範囲内であれば、全身に循環する強力ポステリザン軟膏の吸収は少ないためです。

 

強力ポステリザン軟膏の成分による奇形の報告もありません。ただし、大量に使用したり長期に使用したりすることは避けます。

 

・授乳婦への使用

 

妊婦への使用と同様に、授乳婦へも強力ポステリザン軟膏の使用は問題ないと考えられています。用法・用量の範囲内であれば、全身に循環する有効成分の吸収は少ないためです。

 

ただし、大量に使用したり長期連用したりすることは避けます。使用自体に問題はないと言われていますが、赤ちゃんからの薬の排泄が追いつかなくなることを避けたいためです。

 

 

強力ポステリザン軟膏(一般名:ヒドロコルチゾン・大腸菌死菌)の効果発現時間

 

強力ポステリザン軟膏は塗る薬ですので、詳しい効果発現時間は分かっていません。しかし、腸の粘膜は吸収が早いため効果の発現も早いと考えられます。

 

そのため、強力ポステリザン軟膏の使用後に便意を起こした場合でも、使用後1時間の経過があっての排便であれば再使用の必要はありません。

 

強力ポステリザン軟膏の後発品

 

強力ポステリザン軟膏には後発医薬品(ジェネリック医薬品)が存在します。後発医薬品にすることで、薬を安く手に入れることができます。

 

また、強力ポステリザン軟膏の後発医薬品では、後発医薬品独自のブランド名のケースがあります。

 

強力ポステリザン軟膏と類似薬との違い

 

・ボラギノールとの違い

 

市販で売られている痔の薬で有名なものに、ボラギノール軟膏があります。ボラギノール軟膏には複数の種類があります。

 

たとえば、ボラギノールA注入軟膏を見てみます。成分は「プレドニゾロン・リドカイン・アラントイン・トコフェロール」です。ボラギノールM軟膏の有効成分は「グリチルレチン酸・リドカイン・アラントイン・トコフェロール」です。

 

プレドニゾロンは強力ポステリザン軟膏に含まれるヒドロコルチゾンと似た成分であり、抗炎症作用を示します。リドカインは局所麻酔薬なので、痛みを麻痺させて痛みを和らげます。アラントインは傷の治りを助け、組織を修復します。トコフェロールは、血流を良くしてうっ血の改善を助けます。

 

一方でボラギノールM軟膏に含まれるグリチルレチン酸は、生薬由来の成分で炎症を和らげて痔の症状の緩和を助けます。

 

作用の大きさに関しては、抗炎症作用や組織の修復作用も、強力ポステリザン軟膏の方が強く示します。その分、強力ポステリザン軟膏では副作用に注意する必要があります。

 

この他の違いには、強力ポステリザン軟膏は肛門内にも肛門外にも使用できることがあります。ボラギノール軟膏の一部には肛門外のみの使用となるタイプがあります。

 

・ボラザGとの違い

 

ボラザG(一般名:トリベノシド・リドカイン)は抗炎症作用や傷の治りを促進する作用を示すトリベノシドと、局所麻酔薬のリドカインを有します。

 

トリベノシドは、強力ポステリザン軟膏の成分であるヒドロコルチゾンよりも、炎症を抑える作用は強くありません。ただし、ボラザGには痛みを和らげる成分であるリドカインが含まれています。ボラザGの方が副作用は比較的起きにくいとされていますので、長期間使用されることもあります。

 

・プロクトセディルとの違い

 

プロクトセディル軟膏(一般名:ヒドロコルチゾン・フラジオマイシン・ジブカイン・エスクロシド)に含まれる「抗炎症作用を示すヒドロコルチゾン」は、強力ポステリザンの倍の量です。プロクトセディルに含まれるフラジオマイシンは抗菌作用を示し、ジブカインは局所麻酔薬です。エトスクロシドは、抗炎症作用を示します。

 

したがって、強力ポステリザン軟膏と比較して痛みが強い場合や感染の可能性がある場合に用いられることがあります。

 

・ネリプロクトとの違い

 

ネリプロクト(一般名:ジフルコルトロン)には、強力ポステリザン軟膏よりも強い抗炎症成分が含まれています。また、局所麻酔薬であるリドカインが含まれています。

 

強力ポステリザン軟膏よりも強い抗炎症作用の成分が入っているため、副作用に注意する必要があります。したがって、強力ポステリザン軟膏と比較して腫れや炎症が強い場合には、ネリプロクトを用いることがあります。その際に使用は短期間に留める方が良いとされています。

 

・ポステリザンとの違い

 

ポステリザン(一般名:大腸菌死菌)は強力ポステリザン軟膏の抗炎症作用を示すヒドロコルチゾンが含まれていない製剤です。したがって、痔の症状の強さによって強力ポステリザン軟膏とポステリザン軟膏を使い分けることがあります。

 

痔の症状が軽い場合には副作用リスクも少ないポステリザンを、腫れが大きい場合には強力ポステリザン軟膏を使用することがあります。

 

強力ポステリザン軟膏の使用上の注意

 

肛門周囲に感染症やカビによる症状がある場合には、強力ポステリザン軟膏は原則使用しません。しかしやむを得ず使用する必要がある場合には、あらかじめ感染症やカビに対する薬を使用して治療します。または、強力ポステリザン軟膏の使用中も、感染症やカビの薬を併用することがあります。

 

ただ、強力ポステリザン軟膏は長期間使用することによって皮膚の副作用の発現率が高まるため、長期間の使用は避けます。

 

強力ポステリザン軟膏の取り扱い

 

強力ポステリザン軟膏は、高温や直射日光を避けて部屋の涼しい場所で保管します。子どもの手の届かないところに保管し、眼に使用してはいけません。

 

そして強力ポステリザン軟膏には、2gチューブ包装があります。強力ポステリザン軟膏のチューブを患者さんが使ったとき、「肛門内に注入する際に、容器全体を挿入してしまった」という人がいます。必ず、容器の先のノズル部分だけを挿入するようにします。

 

このように、炎症を抑える成分と組織の治りをよくする成分によって、痔に限らず多用される薬が強力ポステリザン軟膏(一般名:ヒドロコルチゾン・大腸菌死菌)です。

 

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