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ストロメクトール(イベルメクチン)の作用機序:疥癬治療薬

 

ダニが皮膚に巣食うことにより、強いかゆみを生じる病気として疥癬(かいせん)が知られています。疥癬では、赤いブツブツが手のひらや指の間などにみられるようになります。

 

そこで、疥癬を治療するために使用される薬としてストロメクトール(一般名:イベルメクチン)があります。ストロメクトールは駆虫薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の作用機序

 

疥癬は命を脅かす病気ではなく、あくまでも皮膚感染症です。ただ、そのかゆみによって日々の生活に大きな支障をきたすようになります。他にも、水疱(みずぶくれ)、紅斑などを生じるため適切な治療が必要です。

 

疥癬はヒゼンダニと呼ばれるダニによって起こります。そこで、皮膚に存在するヒゼンダニを殺すことができれば、疥癬の症状は治まります。そこで使用される薬がストロメクトール(一般名:イベルメクチン)です。

 

ストロメクトールの詳細な作用機序は解明されていません。ただ、線虫の筋肉・神経に作用すると考えられています。筋肉を動かすためには神経の働きが重要ですが、これを阻害するのです。これにより、寄生虫を麻痺させることができます。

 

ストロメクトール(イベルメクチン)の作用機序:疥癬治療薬

 

このような考えにより、疥癬の原因となるダニを排除することによって、疥癬を治療しようとする薬がストロメクトール(一般名:イベルメクチン)です。

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の特徴

 

疥癬には、症状の軽い通常疥癬とより症状の重い角化型疥癬の2種類があります。通常疥癬は数十匹のヒゼンダニで発症し、感染色は弱いです。一方、角化型疥癬は100~200万匹ものヒゼンダニが存在します。そのために感染力は強く、症状は全身に及びます。

 

疥癬の治療では、経口薬や塗り薬などが使用されます。その中でも、経口薬(飲み薬)で利用される薬がストロメクトール(一般名:イベルメクチン)です。

 

塗り薬の場合は、薬を塗った場所で効果を発揮します。逆に言えば、塗り残しがあれば適切に治療することができません。そこで、首から下の全身にかけて、症状が表れていない正常な部分まで含めて塗らなければいけません。一方、ストロメクトールであれば、経口薬なので確実に疥癬を治療できます。

 

通常疥癬であれば2週間程度で症状が軽快していき、3~4週間程度で治ります。角化型疥癬であっても、約2ヶ月程度で終息するといわれています。

 

このような特徴により、経口薬によって疥癬の原因となるダニを退治し、強いかゆみを引き起こす病気を治療する薬がストロメクトール(一般名:イベルメクチン)です。

 

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の効能効果・用法用量

 

前述の通り、ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)は疥癬の治療薬として用いられます。疥癬は皮膚症状なので、皮膚科などで主に用いられます。

 

また、腸管糞線虫症にも活用されます。糞線虫は2mmほどの小さな虫であり、熱帯から温帯地方に多く分布しているため、日本では沖縄など南西部で問題になりやすい疾患です。糞線虫症では下痢や腹痛、むくみなどの症状が表れます。

 

疥癬や腸管糞線虫症を治療するとき、それぞれ病気によって使用方法が異なってきます。

 

・疥癬の治療

 

疥癬の治療では、ストロメクトールを体重1kgあたり、約200μgを空腹時に水と共に1回投与します。

 

・腸管糞線虫症の治療

 

また、腸管糞線虫症ではストロメクトールを体重1kgあたり、約200μgを空腹時に水と共に2週間間隔で2回投与します。つまり、最初にストロメクトールを1回飲んだ後、2週間後にもう一回服用します。

 

・体重当たりの1回投与量

 

「約200μg/kg」とはいっても、どれくらいの量なのか非常に分かりにくいです。そこで、以下に体重当たりの1回投与量を記します。

 

・体重15~24kg:ストロメクトール3mgを1錠

 

・体重25~35kg:ストロメクトール3mgを2錠

 

・体重36~50kg:ストロメクトール3mgを3錠

 

・体重51~65kg:ストロメクトール3mgを4錠

 

・体重66~79kg:ストロメクトール3mgを5錠

 

・体重80kg以上:ストロメクトール3mgを約200μg/kgで計算

 

例えば体重15kgの人の場合、「15kg × 200μg/kg = 3000μg(3mg)」となります。そのため、ストロメクトール3mgを1錠服用します。

 

・服用時の注意点

 

薬を服用するとき、ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)は水のみで空腹時(食間)に服用するようにします。これは、食事による影響があるからです。

 

ストロメクトールの有効成分は脂溶性物質であり、油に対して溶けやすいです。そうした性質のため、食前や食後などに服用したとき、高脂肪食を食べることによって薬が効率的に体内へ吸収され、血中濃度(血液中の薬物濃度)が上昇する恐れがあります。

 

高脂肪食を食べたとき、ストロメクトールを食後服用することで、薬の総利用量(AUC)は約2.6倍に上昇したことが分かっています。

 

アルコール(お酒)についても同様であり、飲酒後などにストロメクトールを服用するのはやめましょう。ただ、ストロメクトールを服用して何時間も経過した後であれば、アルコール(お酒)を飲んでも問題ありません。

 

また、薬を投与することによって初期では一次的にかゆみの増悪をもたらすことがあります。乾癬ではヒゼンダニの駆除することが重要ですが、ヒゼンダニが死滅した後もアレルギー反応を引き起こすことで全身のかゆみやじんましんなどを生じる可能性があることも留意しなければいけません。

 

なお、角化型疥癬(ノルウェー疥癬)などのように、疥癬の中でも重症型の場合はストロメクトールを初回投与後、1~2週間以内に検鏡(顕微鏡による検査)を行って効果を確認し、2回目の投与を考えていきます。

 

ただ、爪疥癬についてストロメクトール(一般名:イベルメクチン)は無効であるため、爪疥癬にストロメクトールを使用してはいけません。

 

また、患者さんによっては一包化や半錠、粉砕などを行うことがあります。粉砕についてのデータはありませんが、原薬(有効成分)は「25度、湿度60%RH」で18ヵ月安定だったというデータがあります。そのため、一包化や粉砕などは問題ないと考えられます。簡易懸濁法も問題ありません。

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の副作用

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の副作用は少ないものの、薬である以上は副作用に注意が必要です。ストロメクトールの主な副作用には悪心・嘔吐(吐き気)、かゆみ、発疹・薬疹、めまい、肝機能異常(AST・ALT上昇など)があります。

 

その他、かゆみの一時的な悪化、じんましん、腎機能異常、めまい、傾眠(眠気)、振戦(手足のふるえ)、貧血、疲労、低血圧、気管支喘息の悪化、血尿などが知られています。

 

重大な副作用には中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)などの皮膚障害があります。発赤、びらん、充血などの症状が表れたら薬の使用を中止します。

 

肝機能障害・黄疸、血小板減少も重大な副作用として存在します。

 

・ストロメクトールの過剰投与(オーバードーズ)

 

なお、ストロメクトールを過剰投与した場合、発疹、接触性皮膚炎、浮腫(むくみ)、頭痛、めまい、無力症、悪心・嘔吐(吐き気)、下痢、発作、運動失調、呼吸困難、腹痛、異常感覚、じんましんなどの症状が表れます。

 

この場合、まずは水分や電解質輸液などを投与します。また、酸素吸入などによって呼吸維持をしたり、重大な低血圧症状が表れている場合は昇圧剤を投与したりします。

 

薬を服用してすぐの場合、有効成分の吸収を抑えるために胃洗浄や下剤投与(便秘の治療薬を服用)などを施すことがあります。

 

高齢者への使用

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)を使用するとき、高齢者では生理機能が弱っている可能性があるため慎重投与です。特にストロメクトールは肝臓で代謝され、糞中にほとんどが排泄されます。そのため、肝機能が低下している人は特に注意が必要です。

 

ちなみに、ストロメクトールは腎臓での排泄はほとんど関与せず、尿中にほぼ検出されません。主に肝代謝によって不活性化されるため、透析患者など腎機能が低下している人であっても使用できます。

 

小児(子供)への使用

 

小児に対してストロメクトール(一般名:イベルメクチン)が活用されることはよくあります。

 

ただ、体重15kg未満の子供に対して使用することについては、安全性は確立していません。そのため、新生児や乳児幼児の中で体重15kg未満の場合は一般的にストロメクトールを使用しません。

 

妊婦・授乳婦への使用

 

妊娠中の方がストロメクトール(一般名:イベルメクチン)を服用することについて、動物実験では催奇形性が認められています。

 

ただ、ヒトではどうかというとそこまで心配する必要はありません。かつて、オンコセルカ症の流行地域で集団治療が行われ、このときは妊婦に対してもストロメクトールが使用されましたが催奇形性の上昇は認められませんでした。

 

もちろん、胎児への影響がゼロである保証はありません。ただ、少なくとも妊娠初期に服用したことによる催奇形性などを心配する必要はありません。

 

また、授乳中の方がストロメクトールを服用するのは問題ないと考えられています。ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)が母乳中へ移行する量は少なく、赤ちゃんに対して影響を与えるものではありません。そのため、授乳中の方であっても問題なく服用できます。

 

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の効果発現時間

 

それでは、ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)を服用したときはどれくらいの作用時間や効果発現時間があるのでしょうか。

 

ストロメクトールを服用したとき、血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高値に到達するまで4~5時間ほどかかります。また、半減期(薬の濃度が半分になる時間)は約18時間です。

 

そのため、薬を服用して数時間で効果を示すようになります。また、約12日間の時間をかけてほぼすべての薬が体外へ排泄されることが分かっています。ヒゼンダニは卵からかえり、自ら産卵できるようになるまでのライフサイクルが10~14日と短いため、1回の服用であってもストロメクトールは効果を示します。

 

なお、腸管糞線虫症の臨床試験については、ストロメクトールを投与したときの駆虫率は98.0%にのぼったことが分かっています。

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の活用

 

その他、ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)ではさまざまな活用法が存在します。例えば、ストロメクトールには予防投与があります。

 

原則として、ストロメクトールは疥癬患者に対して用います。ただ、疥癬患者との接触があり、疥癬のような症状が見られた場合は予防投与を行うのです。このとき、安易な予防投与や大量服用は避けなければいけません。

 

・ストロメクトールの適応外使用

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)は適応外使用されることがあります。例えば、回旋糸状虫(オンコセルカ)によって起こる感染症をオンコセルカ症(河川盲目症)と呼び、フィラリアと表現されることもあります。この感染症を治療するときは「150μg/kg」を初回に投与し、3~6ヵ月おきに服用していきます。

 

日本でなじみのある感染症であれば、小児のアタマジラミ(頭にできるシラミ)に対してストロメクトールは効果を有することが確認されています。

 

なお、中にはニキビダニによって皮膚に炎症を生じることがあります。このときにストロメクトールを使用することは一般的にないため、ニキビ症状にストロメクトールは使用しないようにしましょう。

 

ニキビダニに対して、ストロメクトールではなくオイラックスクリーム(一般名:クロタミトン)であれば活用されることがあります。他には、白癬菌(水虫、たむしなど)にストロメクトールは無効なので使用してはいけません。

 

ちなみに、ストロメクトールは犬用医薬品として用いられ、犬の疥癬治療に活用されることもあります。

 

ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)と同効薬

 

同じように疥癬を治療する薬としては、ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)の他にも存在します。例えば、スミスリンローション(一般名:フェノトリン)が知られており、医療用医薬品だけでなく市販薬(一般用医薬品)としてドラッグストアなどでもスミスリンローションを購入できます。

 

ストロメクトールには併用禁忌の薬はないものの、通常はストロメクトールかスミスリンローションのどちらか一方を活用します。内服薬ではないため、スミスリンローションは15kg未満の小児であっても問題なく使用できます。

 

スミスリンローションを塗布した後、基本的には12時間経過した後に入浴後などにふき取り、再び薬をつけていきます。

 

ストロメクトールとノーベル賞

 

日本人が知っておくべきこととして、ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)とノーベル賞の関係があります。ストロメクトールの元となる物質を発見し、改良を行うことでストロメクトールを開発した日本人が大村智であり、これがノーベル賞受賞の理由となりました。

 

微生物によって抗生物質が生み出されることがあります。静岡県のゴルフ場から採取した土に住み着いている「放射菌」を培養することにより、単離された物質からさらに合成を加えることで駆虫薬ストロメクトールが開発されました。

 

このように、駆虫薬として主に疥癬治療で活用される薬がストロメクトール(一般名:イベルメクチン)です。体重の低い子どもにはあまり活用されないものの、大人を含め疥癬の治療では活躍します。ジェネリック医薬品(後発医薬品)はない薬ですが、駆虫薬として現在でも使用されています。

 

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