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役に立つ薬の情報~専門薬学

ハルナール(タムスロシン)の作用機序:前立腺肥大症治療薬

 

男性には前立腺と呼ばれる器官が存在し、この前立腺は前立腺液(精液の一部)を作る過程に関与しています。この前立腺ですが、年を取ることによって前立腺が大きくなる人がいます。この状態を前立腺肥大症と呼びます。

 

前立腺は尿の通り道である尿道の周りを囲っているため、前立腺が大きくなると尿が通りにくくなってしまいます。そのため、排尿困難(尿が出にくくなってしまう状態)が起きてしまいます。

 

そこで、この前立腺肥大症の症状を改善するために薬を使用することがあります。この時に使用される薬の1つとしてハルナール(一般名:タムスロシン)があります。

 

交感神経と前立腺肥大症

 

尿のトラブルで多い症状として前立腺肥大症があります。これら前立腺肥大症は年齢が高くなるにつれて発症しやすくなります。主に50歳を越えると前立腺肥大症に悩む人が増えていきます。

 

前立腺肥大症の治療を考えるとき、「交感神経の働き」を理解する必要があります。交感神経とは、運動時など体が活発に働いている時に働く神経系を指します。

 

運動時では心臓の鼓動が早くなり、力を出すために血圧が上がります。そしてこの時、トイレに行っている余裕はなく尿が溜められるように働きます。つまり、尿道が縮まって尿を出さないようにします。

 

交感神経と排尿

 

この時、交感神経が作用する受容体の1つとしてα受容体があります。このα受容体が活性化することによって、先に挙げた「尿道が縮まる」という作用が起こります。これによって、排尿抑制が起こります。

 

そのため、この反対の作用として「α受容体の阻害」を行えば、尿道が拡張して排尿困難の状態を改善できることが分かります。

 

前立腺や尿道にはα受容体が多数存在しています。前立腺や尿道に存在するα受容体を阻害することができれば、前立腺を小さくして尿道を拡張することができます。その結果、排尿をスムーズにすることができます。

 

このように、前立腺や尿道に存在するα受容体を阻害することにより、前立腺肥大症を改善する薬がハルナール(一般名:タムスロシン)です。

 

α受容体阻害薬:前立腺肥大症治療薬

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)によるα1A受容体阻害作用

 

α受容体の中でも、タムスロシンは前立腺や尿道に存在するα受容体に対して作用します。α受容体自体は血管などにも存在します。ただし、「前立腺・膀胱に存在するα受容体に比べて、血管に存在するα受容体への選択性は1/10以下」であることが分かっています。

 

また、α受容体の中でもいくつか兄弟のようなものが存在します。それぞれをα1A受容体、α1B受容体、α1D受容体と呼びます。

 

このように「同じ受容体の中でも、細かく分けるといくつか兄弟のようなものに分かれること」を専門用語ではサブタイプと表現します。

 

α受容体のサブタイプとしては、α1A受容体、α1B受容体、α1D受容体があるということです。この中でも、前立腺や尿道での収縮にはα1A受容体が関与しています。

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)はα1A受容体を阻害することによって前立腺や尿道に作用します。その結果、前立腺肥大症を治療することができます。

 

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)の効能効果・用法用量

 

前立腺肥大症による排尿困難(尿閉など)に対して、ハルナール(一般名:タムスロシン)は広く用いられます。排尿困難を改善することによって、残尿感などが軽減します。ハルナールは前立腺肥大症に使用するため、主に男性が服用することになります。

 

ハルナールを利用するとき、0.2mgを1日1回食後に服用します。年齢や体重、症状などによって薬を減量したり増量したりすることがあります。

 

ハルナールには0.1mgと0.2mgがあります。基本は0.2mgを服用しますが、人によっては0.1mgを活用します。ハルナールはハルナールD0.1mgやハルナールD0.2mgなどと表記され、このときの「D」は水なしで服用できることを意味しています。口に含んだときに勝手に崩壊するように設計されている薬です。

 

食後や空腹時(食間)にハルナールを服用することについて、ハルナールは少しだけ食事の影響を受けます。食後と空腹時にハルナールを比べた場合、空腹時では薬の総利用量(AUC)が1.2倍ほど高くなることが分かっています。つまり、薬の効果がそれだけ表れやすくなります。

 

ただ、寝る前に飲み忘れに気づいたり絶食時であったりと特別な理由があってハルナールを空腹時に使用する場合はそれでも問題ありません。

 

なお、ハルナールをいつ飲むのかについては、朝食後でも夕食後でも問題ありません。これについては、医師によって判断が分かれます。

 

飲み忘れてしまった場合、1日1回の薬なのでその日のうちであれば気づいた時点で服用するといいです。ただ、薬の服用を1日忘れてしまった場合、仕方ないので次から通常量を服用するようにしましょう。飲み忘れたからといって、次の日に2錠を服用してはいけません。

 

なお、患者さんによっては一包化や半錠、粉砕などを行うことがあります。ハルナールは一包化を行うことは問題ありませんが、半錠や粉砕などをしてはいけません。ハルナールでは徐放性の粒を採用しており、体内でゆっくり溶け出すことで薬の効果が表れるようになっています。

 

そのため、粉砕に限らず薬をかみ砕くのも禁止であり、かみ砕いた場合は徐放性(薬がゆっくり溶け出す性質)が崩れ、薬の有効成分が急速に体内に入ってくるようになります。これは副作用を生じることにつながります。

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)の副作用

 

薬である以上、ハルナール(一般名:タムスロシン)には副作用があります。主な副作用としては、めまい、ふらつき、胃不快感があります。

 

その他の副作用には立ちくらみ、頭痛、眠気、イライラ、しびれ、血圧低下、起立性低血圧、頻脈、動悸、かゆみ、発疹・薬疹、じんましん、嘔気・嘔吐(吐き気)、口渇、便秘、胃重感、胃痛、食欲不振、下痢、嚥下障害などがあります。

 

鼻詰まり、浮腫(むくみ)、尿失禁、全身倦怠感、味覚異常、女性化乳房、持続勃起症、射精障害、視力障害、ほてりなども副作用として知られています。

 

重大な副作用には意識障害・失神があります。ハルナールを服用することで一時的に意識が遠のくことがあり、このときは投与を中止します。肝機能障害・黄疸も重大な副作用として存在し、異常が認められた場合は薬の使用を中止します。

 

また、ハルナール(一般名:タムスロシン)を投与したとき、血圧低下を招く恐れがあります。これは、血管にα受容体が存在し、この受容体が阻害されると血管が拡張され、結果として血圧が下がるからです。

 

前述の通り、ハルナールの作用機序はα1A受容体の阻害です。そのため副作用に血圧低下や動悸があり、起立性低血圧の患者さんでは症状悪化をもたらす可能性があります。

 

起立性低血圧とは、座った状態から立ち上がったときにふらつきやめまい、立ちくらみ、疲労感、動悸などを生じる症状のことを指します。

 

また、ハルナールにはめまいや眠気などの副作用があるため、自動車運転など危険作業をするときは副作用が表れないかどうか確認しながら服用していきます。

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)の禁忌や飲み合わせ(相互作用)

 

ハルナールを服用するとショック症状に陥るなど、ハルナールに対して過敏症のある人は当然ながら禁忌です。ただ、その他の禁忌は飲み合わせを含めて設定されていません。

 

しかしながら、飲み合わせとして併用注意の薬は存在します。例えば、高血圧治療薬(降圧剤)は血圧を低下させることで病気を治療します。こうしたとき、ハルナールと併用することで起立時の血圧調節機能が弱ることで起立性低血圧を招くことがあります。

 

高血圧治療薬としては、利尿剤ラシックス(一般名:フロセミド)、カルシウム拮抗薬ノルバスク・アムロジン(一般名:アムロジピン)などがあります。

 

ARBとして知られるミカルディス(一般名:テルミサルタン)、ブロプレス(一般名:カンデサルタン)、ディオバン(一般名:バルサルタン)、オルメテック(一般名:オルメサルタン)などの薬も高血圧治療薬として多用されます。

 

また、ED治療薬とも併用注意であり、こうした薬としてはバイアグラ(一般名:シルデナフィル)、レビトラ(一般名:バルデナフィル)、シアリス(一般名:タダラフィル)などがあります。併用によってけいれん性の低血圧を招くことがあるからです。

 

アルコールと一緒にハルナールを服用することについて、薬である以上は推奨されません。ただ、飲酒後にハルナールを飲んでも大きな問題は起こりにくいと考えられています。

 

高齢者への使用

 

主に高齢者で前立腺肥大症を生じるため、高齢者に対してハルナール(一般名:タムスロシン)は多用されます。ただ、高齢者では一般的に生理機能が低下しているため、人によっては投与量に注意しなければいけません。

 

例えば、肝機能障害患者や腎機能障害患者は薬の排泄能力が落ちています。

 

特に透析患者を含め、重度の腎機能障害者ではハルナールを投与したときに血中濃度(血液中の薬物濃度)が上昇することが分かっています。そのため、腎機能障害患者では1日0.1mgから使用するなど、副作用が表れないか様子をみながら服用していきます。

 

経過観察した後であれば0.2mgに増量しますが、0.2mgで思うような効果を得られない場合は増量せず、他の対処法をしていきます。

 

小児(子供)、妊婦・授乳婦への使用

 

小児にハルナールを使用することについて、基本的処方されることはありません。加齢に伴って前立腺が徐々に肥大していく状態を改善する薬がハルナールであるため、前立腺がまだ肥大していないと考えられる子供には使用されないのです。

 

妊婦や授乳婦について、女性に対しては前立腺肥大症による排尿障害ではなく、適応外使用で「神経因性膀胱による排尿困難」にハルナールを用いることがあります。

 

ただ、妊娠中の方や授乳中の方がハルナールを服用するのは珍しいですし、あまり報告はないので服用を避けるのが望ましいです。

 

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)の効果発現時間

 

ハルナールを服用したとき、作用時間や効果発現時間はどのようになっているのでしょうか。

 

ハルナール(一般名:タムスロシン)を服用したとき、血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高値に達するまで7時間かかります。半減期(薬の濃度が半分になる時間)は11.7時間です。

 

ハルナールは毎日、継続して服用するようになりますが、定常状態(薬の作用が安定した状態)になるまでには4日ほどの時間がかかります。

 

服用を開始してその日のうちに効果を表す薬ではなく、即効性はありません。薬を使用して効き始めるようになるまで2~4週間ほどの時間がかかる薬です。基本的に長期服用する薬であり、一生飲み続けることで前立腺肥大症を改善していきます。

 

なお、臨床試験ではハルナールを使用することで前立腺による尿道内圧を減少させ、残量感を改善させたことが分かっています。このときの改善率について、1日1回0.1mg投与では「28.3%の人で中等度以上の改善」、1日1回0.2mgでは「37.3%の人で中等度以上の改善」という結果が得られています。

 

ちなみに、前立腺肥大に伴って膀胱頸部(膀胱の出口)が固くなり、排尿しにくくなることがあります。これは膀胱頚部硬化症といいます。膀胱頚部硬化症にハルナールを活用することで症状改善することがあります

 

女性に用いられるハルナール

 

前立腺肥大症の治療薬として活用されるハルナール(一般名:タムスロシン)ですが、前述の通り「神経因性膀胱による排尿困難」を治療する目的で女性に活用されることがあります。

 

通常の状態であれば、膀胱に尿が溜まることで「尿が蓄積した」という信号が脳に送られます。ただ、こうした信号がうまく脳に伝わらないことがあります。これを神経因性膀胱といいます。膀胱や尿道の神経に異常が起こることで生じる病気です。頻尿、尿失禁(尿漏れ)、排尿困難(尿閉など)などが症状です。

 

適応外処方にはなりますが、尿道の緊張を和らげることで神経因性膀胱による排尿障害を改善する薬がハルナールです。

 

排尿困難を治療するときに用いられるα1受容体遮断薬としては、ハルナールの他にもエブランチル(一般名:ウラピジル)、ミニプレス(一般名:プラゾシン)、フリバス(一般名:ナフトピジル)、ユリーフ(一般名:シロドシン)などがあります。

 

このうち、エブランチルには「神経因性膀胱」の適応があります。ただ、エブランチルは高血圧の治療にも用いられ、血圧を下げる作用があるため神経因性膀胱を治療するときにハルナールなど他の薬を使用することがあるのです。

 

なお、ユリーフ(一般名:シロドシン)では副作用に逆行性射精(精液が外に出ず、膀胱へ逆流する症状)があり、逆行性射精を回避するためにハルナールなど他の薬へ切り替えることがあります。

 

尿路結石に用いられるハルナール

 

また、ハルナール(一般名:タムスロシン)は尿道平滑筋(尿道の筋肉)に働きかけることで尿管筋肉の緊張を和らげる作用があります。そのため、ハルナールは尿管結石の排出を促進する目的で、適応外使用で活用されることがあります。

 

臨床試験においても、ハルナールを用いることで尿路結石の排石率が上昇したことが分かっています。

 

慢性前立腺炎に対するハルナール

 

慢性前立腺炎では、陰嚢(いんのう)などに痛みを伴ったり血精液症(精液に血液が混ざる症状)を生じたりすることがあります。慢性前立腺炎の初期症状に血精液症があり、血が混ざるので驚いてしまう人は多いです。

 

このとき、植物エキスとして前立腺の炎症やむくみを取り去り、前立腺肥大症の治療に用いられる薬としてエビプロスタットやセルニルトンなどが活用されます。

 

また、α1受容体遮断薬が慢性前立腺炎に有効なことがあり、ハルナール(一般名:タムスロシン)、エブランチル(一般名:ウラピジル)、フリバス(一般名:ナフトピジル)、ユリーフ(一般名:シロドシン)などを併用で用いることがあります。

 

その他の前立腺肥大症治療薬との併用

 

α1受容体を阻害することで作用を発揮するハルナールですが、その他の作用機序によって前立腺肥大症を治療する薬があります。

 

前立腺肥大には男性ホルモン(アンドロゲン)が関わっています。そこで、男性ホルモンによる前立腺への作用を抑えることで前立腺肥大症を治療する薬としてプロスタール(一般名:クロルマジノン)があります。プロスタールは投与量を多くすると前立腺がんの治療薬としても用いられます。

 

また、男性ホルモンの中でも「強力な作用を示す男性ホルモン」としてジヒドロテストステロンが存在します。ジヒドロテストステロンを作られなくすれば、前立腺肥大症を抑えることができます。こうした働きをする薬にアボルブ(一般名:デュタステリド)があります。

 

アボルブは適応外使用で前立腺がん予防に活用されることがあります。

 

他にも血管拡張作用を示すことによって前立腺や尿道、膀胱の血流を改善することで膀胱を弛緩させ、頻尿や排尿困難を改善する薬にザルティア(一般名:タダラフィル)があります。

 

こうした作用機序の異なる薬とハルナールを併用することにより、効果的に前立腺肥大症を治療できるようになります。

 

頻尿・過活動膀胱治療薬との併用

 

尿トラブルは前立腺肥大症だけではありません。頻尿・過活動膀胱も大きな問題になります。何度もトイレに行きたくなったり、急にトイレをしたくなって我慢できなくなったりしてしまうのです。

 

そうしたとき、抗コリン薬(膀胱に作用して蓄尿できるようにする薬)を使用します。

 

頻尿を治療する抗コリン薬にはデトルシトール(一般名:フラボキサート)、トビエース(一般名:フェソテロジン)、ベシケア(一般名:ソリフェナシン)、ウリトス・ステーブラ(一般名:イミダフェナシン)、バップフォー(一般名:プロピベリン)などがあります。

 

α1受容体受容体遮断作用と抗コリン作用は反対の働きをします。ただ、前立腺肥大症と頻尿・過活動膀胱を併発している患者さんにはハルナールと抗コリン薬を併用することがあります。

 

ハルナール服用の際に注意すべきこと

 

なお、中にはハルナール(一般名:タムスロシン)の使用にあたって注意すべきことがあります。

 

ハルナールは眼科手術を行うときに問題になることがあります。白内障の手術を行うとき、ハルナールを服用している人ではIFIS(術中虹彩緊張低下症候群)と呼ばれるものを引き起こし、白内障手術が難しくなる状態に陥ることがあります。

 

前立腺肥大症の治療薬を服用しているとIFIS(術中虹彩緊張低下症候群)に陥りやすいため、目の手術を受けるときは必ず医師に申告する必要があります。

 

なお、同じ眼科疾患であっても眼圧上昇を引き起こす緑内障については、ハルナールを使用しても問題ありません。

 

ちなみに、泌尿器系の症状を改善するときに健康食品であるノコギリヤシに頼る人がいます。ただ、ノコギリヤシよりも効果を示すのがハルナールなどの医薬品です。

 

このように、ハルナール(一般名:タムスロシン)の作用や特徴について解説してきました。ハルナールにはジェネリック医薬品(後発医薬品)も存在しており、先発医薬品よりも低い薬価で手にすることができます。前立腺肥大症に対して、多用される薬の一つがハルナールです。

 

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