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役に立つ薬の情報~専門薬学

ベタニス(ミラベグロン)の作用機序:過活動膀胱治療薬

 

「突然トイレに行きたくなる尿意切迫感」や「何回もトイレに行きたくなる頻尿」など、これらの症状であると日常生活に支障が出てしまいます。ただ尿が出やすいだけなら問題ありませんが、このように生活が制限されるようになると病気と判断されます。

 

頻尿など、これら尿に関係する疾患として過活動膀胱(OAB)があり、膀胱の活動が活発になっています。この過活動膀胱を治療する薬の一つとしてミラベグロン(商品名:ベタニス)があります。

 

過活動膀胱治療薬の中でも、ミラベグロンはβ3受容体刺激薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

 

過活動膀胱(OAB)を治療する概念を理解する

 

膀胱は尿を溜めるために必要な臓器です。過活動膀胱ではこの膀胱が過敏になることによって、勝手に膀胱が縮んで尿が出てしまいます。

 

過活動膀胱ではこのような症状が表れてしまうため、適切に治療する必要があります。

 

過活動膀胱の患者さんではどのような状態になっているかと言うと、膀胱が縮むようになっています。また、この時の尿道は拡がるようになります。そのため、尿が出やすくなっています。

 

そこで、この反対の作用をすれば良いことが分かります。つまり、膀胱を拡げて尿道を縮めれば良いのです。

 

 過活動膀胱(OAB)治療の概念

 

このように、膀胱をゆるめて尿道を縮めることで過活動膀胱(OAB)を治療することができます。

 

ミラベグロン(商品名:ベタニス)の作用機序

 

正常な人では、尿が溜まることによって膀胱も弛緩していきます。しかし、過活動膀胱の患者さんでは膀胱の異常な収縮が起こっています。そのため、膀胱に十分な尿を溜められなくなっています。

 

それでは、正常な人ではどのようにして膀胱が拡がっているかと言うと、β3受容体と呼ばれる受容体が関係しています。このβ3受容体が刺激されることによって、膀胱が弛緩して拡がっていきます。

 

β3受容体は膀胱の筋肉に存在しており、この受容体が活性化されることによって十分に尿を蓄えることができるようになっています。

 

これを踏まえた上で、過活動膀胱患者も同様にβ3受容体を刺激することができれば、膀胱が広がって尿を蓄えることができるようになります。その結果、過活動膀胱を治療することができます。

 

このように、β3受容体を刺激することで膀胱に蓄えられる尿量を増やし、正常な状態に近づけて過活動膀胱を治療する薬がミラベグロン(商品名:ベタニス)です。

 

ミラベグロンが発売されるまで、過活動膀胱の治療薬としては抗コリン薬と呼ばれる種類の治療薬が基本でした。ここに、β3受容体刺激薬という新しい作用機序を有した医薬品が登場しました。

 

これまでとは異なる作用機序であるため、過活動膀胱での治療の選択肢が増えるようになりました。ミラベグロンは作用機序が異なるために抗コリン薬で見られる副作用がなく、それまでの治療で満足できなかった患者さんにも使用することができます。

 

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の効能、効果

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)は過活動膀胱(OAB)に効果がある薬です。

 

過活動膀胱(OAB)とは、突然トイレが我慢できなくなるような切迫感(尿意切迫感)を伴う病気です。同時に日中の頻尿と、夜間の頻尿を伴うことが多いです。我慢できず失禁してしまう場合もあります。

 

健康な人がトイレに行く回数は日中に5~7回、寝ている間は0回です。多少個人差はありますが、日中8回以上、寝ている間に1回以上トイレに行くために起きるようならそれは頻尿です。また、トイレの間隔が2時間もないことも頻尿の特徴です。

 

日本国内において過活動膀胱(OAB)で悩んでいる人は、40歳以上で810万人(12.4%)と推定されています。

 

原因は、過活動膀胱(OAB)というその名の通り「膀胱が必要以上に活発に動き、膀胱容量を下げ、尿をためておけなくなるため」と考えられています。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の用法・容量

 

通常は、ベタニス50mgを、1日1回食後に服用します。肝臓が悪い人や、腎臓が悪い人は1日1回25mgから始めます。

 

食後というのが特徴であり、ベタニス(一般名:ミラベクロン)は食事の影響を受けやすい薬です。食後と空腹時の投与では空腹時の方が最高血中濃度(血液中に存在する薬物の最高濃度)は2倍に増えます。空腹時の服用では効きすぎてしまうため、食後に服用するようにしましょう。

 

飲み忘れた場合は、主治医からの指示があればそれに従いますが、基本は1回とばしてもらい、次回から通常通り服用します。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の副作用

 

・高血圧

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の副作用として高血圧があります。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)を服用中であり、副作用で高血圧を訴える患者さんには収縮時血圧180mmHg、拡張時血圧が110mmHgになったという人もいます。

 

副作用の早期発見のために定期的に血圧を測定し、血圧の上昇が見られたら医師または薬剤師に相談するようにしましょう。

 

・心拍数上昇

 

ベタニスには心拍数を増加させる副作用があります。そのため、狭心症、心筋梗塞、心不全、心筋症、生まれつきの心疾患など重い心疾患を持つ患者さんは服用できません。

 

・生殖器への影響

 

動物実験で精嚢、子宮、前立腺など生殖器官への影響が見られたため、生殖可能な若い患者さんの使用はお勧めできません。つまり、これから子供をつくるかもしれない患者さんには男女ともに使用できません。

 

・便秘

 

従来の過活動膀胱(OAB)に比べ頻度は少ないですが、副作用のうち約2.9%に便秘があります。酷いようなら医師または薬剤師に相談しましょう。

 

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の禁忌

 

・ベタニス(一般名:ミラベクロン)に対してアレルギーのある人

 

・重い心疾患がある人

 

心拍数を上げる副作用があるため心疾患がある患者さんは服用できません。

 

・妊娠または妊娠している可能性がある人

 

生殖器への影響が動物実験でわかっているため妊婦は禁忌です。胎児に対して悪影響が出ます。

 

・授乳婦

 

動物実験では、ベタニスを授乳期に母動物に使用した場合、子供の生存率の低下、体重があまり増えなかったといったデータがあります。つまり、健康で健やかな赤ちゃんを育てる妨げになります。そのため、授乳婦には禁忌です。

 

・重い肝機能障害がある人

 

肝臓の機能が悪い人では、ベタニスの血液に存在する濃度が上がりすぎてしまうため使用できません。ベタニスは肝臓で分解されますが、肝臓が悪い人は分解されずに血液中に残ってしまうためです。

 

・不整脈薬のタンコボール(一般名:フレカイニド)やプロノン、ソビラール(一般名:プロパフェノン)を投与中の人

 

タンコボール(一般名:フレカイニド)やプロノン、ソビラール(一般名:プロバフェノン)を服用中の人は不整脈悪化の恐れがあるため使用できません。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)と飲み合わせ

 

・ベタニスと風邪薬

 

風邪薬の中には眠気を抑えるためエフェドリンという成分が入ったものがあります。また、エフェドリンは葛根湯や麻黄湯、小青龍湯といった、風邪の初期に使われる漢方薬にも入っています。

 

エフェドリンとベタニスを服用すると「心拍数が上がる副作用」を感じられることがあります。絶対に一緒に服用してはダメな薬ではありませんが一緒に飲むときは注意し、心臓のドキドキが気になるようなら風邪薬を変えてみることをお勧めします。

 

・ベタニスとクラリス(一般名:クラリスロマイシン)

 

抗生物質であるクラリス(一般名:クラリスロマイシン)との服用により、ベタニス(一般名:ミラベクロン)の作用が強くなることがあります。絶対に一緒に服用してはダメな組み合わせではないですが副作用(心拍数の増加)が気になるようなら医師または薬剤師に相談することをお勧めします。

 

・ベタニスとアリセプト(一般名:ドネペジル)

 

よく一緒に服用される組み合わせですが、ベタニス(一般名:ミラベクロン)によりアリセプト(一般名:ドネペジル)の作用が強くなることがわかっています。

 

こちらも、一緒に服用していてアリセプト(一般名:ドネペジル)の副作用である胃腸障害(吐き気、食欲不振)が強くなるようなら医師または薬剤師に相談することをお勧めします。

 

・ベタニスとお酒

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)を服用中、一般的にはお酒を飲んでも大丈夫です。

 

しかし、お酒により頻尿が現れることも事実であり、治療のために控えた方がいいという医師がいるかもしれません。お酒を飲むときは主治医に相談するようにしましょう。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の高齢者への使用

 

高齢者の中には肝機能、腎機能、心臓が悪い人がいるので注意が必要です。これらの持病がある人は必ず医師に伝えるようにしてください。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の子供への使用

 

小児(14歳以下)への使用経験がなく、データも無いため、安全性の保障はありません。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の妊婦、授乳婦への使用

 

妊婦または妊娠している可能性がある人、授乳中の人は服用してはいけません。必ず、医師に妊娠や授乳の有無を伝えましょう。

 

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の効果発現時間

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)を服用したとき、だいたい3.5時間で血液中の薬物濃度がピークに達します。そして、1日1回の服用を4日以上続けると血液中の薬物濃度は安定します。

 

効果ですが、1日1回ベタニス50mgの服用を12週間続けた試験では、プラセボ(偽物の薬を服用させた患者)と比較して、尿の回数を約半分に減らせたというデータがあります。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)と同効果薬・類似薬の関係

 

これまで、過活動膀胱(OAB)の薬は膀胱の異常な収縮を抑える働きがメインでした。膀胱が勝手に収縮することで過活動膀胱(OAB)の症状が出てしまうためです。

 

しかし、このタイプの薬は抗コリン作用といわれており、おしっこが出にくくなる」「目がかすむ」「緑内障を悪化させる」「のどが渇く」「便秘になる」という副作用がありました。

 

高齢者には過活動膀胱(OAB)と前立腺肥大症(前立腺が肥大することによりおしっこが出にくくなる病気)を同時に発症しているケースもあります。

 

前立腺肥大症の患者さんに、昔から使われている過活動膀胱(OAB)の薬を投与した場合、前立腺肥大症の症状がさらに悪化してしまう場合があります。

 

しかし、ベタニス(一般名:ミラベクロン)にはこれら抗コリン作用がありません。

 

膀胱の異常な収縮を抑える従来の治療薬に対して、ベタニス(一般名:ミラベクロン)は膀胱の容量を大きくする(広げる)ことによって過活動膀胱(OAB)を治療するためです。そのため、前立腺肥大症を合併している高齢者でも安心して服用することができます。

 

また、一般的に高齢者は唾液がでにくかったり、目が渇きやすかったり、便秘になりやすかったりします。これらのトラブルがベタニスでは起こりにくいので非常に高齢者には使用しやすい薬になっています。

 

一方で、生殖器に対する影響が動物実験で証明されているため、若い人には向きません。イメージとして、若い人の過活動膀胱(OAB)にはポラキス(一般名:オキシブチニン)バップフォー(一般名:プロピベリン)などの抗コリン作用を中心とした薬を使います。それに対して、高齢者にはベタニス(一般名:ミラベクロン)を使います。

 

また、中には高齢者で心疾患などがあり、ベタニス(一般名:ミラベクロン)が使いにくい患者さんもいます。そうしたとき、膀胱への選択制を高めた抗コリン薬を用います。これには、ベシケア(一般名:ソリフェナシン)、ウリトス・ステーブラ(一般名:イミダフェナシン)、トビエース(一般名:フェソテロジン)などがあります。

 

また、テープ剤であるネオキシテープはポラキス(一般名:オキシブチニン)と同じ成分ですが、抗コリン作用による副作用が少ないといわれています。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)とよく比較される類似薬でプラダロン(一般名:フラボキサート)という薬もあります。膀胱の筋肉が収縮するのを抑えたり、筋肉を緩めて膀胱の容量を大きくしたりすることで過活動膀胱(OAB)を治療します。

 

イメージとしては、ベタニスと抗コリン薬の両方の作用を持つ薬となります。

 

膀胱の収縮を抑制する作用は抗コリン薬ほど強くありませんが、副作用も抗コリン薬に比べて少ないのが特徴です。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)とハルナール(一般名:タムスロシン)の併用

 

過活動膀胱(OAB)で、前立腺肥大症を発症している患者さんもいます。「おしっこに行きたくても出ない、出ないけど尿意はある。」という非常に辛い状態です。

 

そのため、過活動膀胱(OAB)の薬と前立腺肥大の薬を併用する患者さんは多いです。その結果、これらの薬の併用について小規模ですが試験が実施されました。

 

それは、過活動膀胱(OAB)と前立腺肥大症を併発している患者に過活動膀胱(OAB)の薬であるベタニス(一般名:ミラベクロン)と前立腺肥大症の薬ハルナール(一般名:タムスロシン)を8週間併用するというものです。比較対象は、併用した場合(群)とベタニス(一般名:ミラベクロン)単独で服用した群、ハルナール(一般名:タムスロシン)を単独で服用した群です。

 

結果は併用群の方が過活動膀胱(OAB)も改善し、前立腺肥大症も改善しました。

 

よって、実験で「ベタニス(一般名:ミラベクロン)とハルナール(一般名:タムスロシン)の併用は効果的である」といえます。

 

ベタニス (一般名:ミラベクロン)とアボルブ(一般名:デュナステリド)の併用

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)と、前立腺肥大症の治療薬であるアボルブ(一般名:デュタステリド)との併用に関してのデータはまだありません。

 

アメリカの研究ですが、他の過活動膀胱(OAB)薬であるハルナール(一般名:タムスロシン)とアボルブ(一般名:デュナステリド)との併用は安全性が確認されています。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)と夜間頻尿

 

過活動膀胱(OAB)では、夜間に頻尿になり、何回も起きてしまう場合も多いです。ベタニス(一般名:ミラベクロン)は夜間頻尿にも使用されます。

 

しかし、夜間頻尿の人すべてが過活動膀胱(OAB)ではありません。夜間頻尿になる原因は以下のようにさまざまです。

 

1:過活動膀胱(OAB)
2:前立腺肥大症
3:神経因性膀胱(神経系の障害が原因の排尿障害)
4:夜間多尿(睡眠中の尿量が1日の3割以上である排尿障害)
5:夕食後の水分摂取が多い
6:不眠

 

1ではベタニス(一般名:ミラベクロン)はじめ、過活動膀胱(OAB)治療薬が効きます。2では前立腺肥大症治療薬が使用され、3では抗コリン薬、ハルナール(一般名:タムスロシン)などのαブロッカーが有効な場合があります。

 

4、5では夕食の水分を控えた方がいいです。6は睡眠薬の服用が効果的です。

 

いずれにしても、受診して夜間頻尿になる原因を調べる必要があります。

 

ベタニス(一般名:ミラベクロン)の粉砕

 

高齢者の中には錠剤が飲みこみにくく、砕いて粉にしたり、割ったりして服用したい方もいます。

 

しかし、ベタニス(一般名:ミラベクロン)は薬から徐々に成分が分泌されるように工夫された薬です。砕いたり、割ったりして服用すると、この性質が失われ、急に血中濃度が上がったりして副作用が出るようになったりします。

 

そのため、ベタニス(一般名:ミラベクロン)を砕いたり、割ったりしないようにしてください。

 

嚥下困難な患者さんは、バップフォー細粒2%や、ベシケアOD錠、ネオキシテープを使うことをお勧めします。

 

このように、昔からの過活動膀胱(OAB)の治療薬の問題点である、抗コリン作用を克服した、世界初日本で誕生した薬がベタニス(一般名:ミラベクロン)です。

 

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