コパキソン(グラチラマー)の作用機序:多発性硬化症治療薬
脳や脊髄は各部位へ指令を送る重要な役割を担っています。これらの部位から「手を動かせ」「呼吸を速くしろ」などの命令が出るのです。このような部位はすべてを束ねる中枢であるため、脳と脊髄を合わせて中枢神経といいます。
多発性硬化症(MS)では、脳や脊髄に障害が起こります。脳・脊髄は神経の集まりですが、神経細胞が障害されることでさまざまな不具合を生じるのです。
そこで、多発性硬化症を治療するために用いられる薬としてグラチラマー(商品名:コパキソン)があります。グラチラマーは免疫調整薬と呼ばれる種類の薬に分類されます。
グラチラマー(商品名:コパキソン)の作用機序
脳や脊髄の神経細胞は、電気信号によって情報を伝えています。ただ、電気である以上は周りを保護する必要があります。
例えば、電線がむき出しになっていると感電してしまいます。そこで、その周りをゴムのような被膜で包むことによって感電を防止しなければいけません。これと同じように、神経細胞の周囲にはカバーがされています。このような「神経細胞のカバー」をミエリンと呼びます。ミエリンがあるおかげで、神経は情報をスムーズに伝達できます。
ただ、多発性硬化症ではミエリンが障害されています。ミエリンの障害を専門用語で脱髄(だつずい)といいます。脱髄が起こると、脳や脊髄からの情報が適切に伝わらなくなります。
多発性硬化症の発生機序は不明ですが、免疫細胞が誤って自分自身を攻撃するために起こるのではと考えられています。つまり、免疫細胞(リンパ球)がミエリンを障害させるのです。
感染症から立ち直るために、免疫は重要な働きをします。ただ、免疫の働きが異常に強くなってしまうと、自分自身を攻撃するようになることがあるのです。
免疫細胞の一つとして、T細胞やB細胞などが知られています。T細胞は細菌などを攻撃する働きをしますが、自己免疫疾患に陥っていると自分の臓器を攻撃するようになります。そこで、T細胞の働きを抑制できれば、多発性硬化症の症状を軽減できることがわかります。T細胞がミエリンを攻撃することによって生じる脱髄を防ぐのです。
ただ、T細胞は勝手に活性化するわけではありません。このうち、T細胞の活性化にはスイッチが必要です。このスイッチを専門用語でMHC(主要組織適合遺伝子複合体)と呼びます。そこで、MHCの働きをあらかじめ阻害しておけば、T細胞は活性化されません。その結果、自己免疫疾患の症状が治まります。
作用機序は完全に解明されていないものの、T細胞の活性化に関わるスイッチ(MHC:主要組織適合遺伝子複合体)を阻害することで、多発性硬化症を治療すると考えられている薬がグラチラマー(商品名:コパキソン)です。
グラチラマー(商品名:コパキソン)の特徴
多発性硬化症(MS)は症状が治まったり(寛解)、再び症状が表れたり(再発)を繰り返す病気です。再発のときは新たな症状が出たり、既に出ていた症状が悪化したりします。視力障害やけいれん、運動障害など、その症状は人によってさまざまです。
そこで、グラチラマー(商品名:コパキソン)を活用します。グラチラマーはアミノ酸が4つ連なった構造をしており、グルタミン酸、アラニン、チロシン、リジンがくっついています。このようにアミノ酸がいくつか結合している物質をペプチドといいます。
グラチラマー(商品名:コパキソン)は多発性硬化症の再発頻度を低下させることができ、再発したときでも重症度を軽減します。ただ、すべての患者さんにグラチラマーが有効ではないことに注意が必要です。
グラチラマー(商品名:コパキソン)は1日1回、皮膚の下に注射する薬です。副作用は比較的少ない医薬品ですが、注射したときの紅斑などが副作用として知られています。
このような特徴により、アミノ酸がいくつも連なったペプチドを投与することにより、免疫細胞の活性化を防ぐことで多発性硬化症を改善する薬がグラチラマー(商品名:コパキソン)です。
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