リリカ(プレガバリン)の作用機序:神経障害性疼痛治療薬
神経が圧迫されたりウイルスによって障害されたりすると、神経が傷つくことで痛みが起こります。これがいわゆる神経痛です。より正確に言うと、神経が傷つくことによる痛みは神経障害性疼痛と表現されます。
この神経障害性疼痛に対する痛み全般を取り除く薬としてリリカ(一般名:プレガバリン)が使用されます。痛みとしては「外傷性」「神経性」「心因性」の3つがあり、リリカは神経性の痛み(神経障害性疼痛)に強力な抑制効果を発揮します。
リリカ(一般名:プレガバリン)の作用機序
痛みがずっと続く状態を「疼痛」と表現します。神経が障害されると、疼痛として痛みが引き起こされてしまいます。
このとき、神経細胞にはカルシウムが流入するための受容体(カルシウムチャネル)が存在します。疼痛が起きている状態では、カルシウムチャネルを通じてカルシウムが神経細胞内に入ってきます。これによって神経細胞が興奮し、神経伝達物質が過剰に放出されます。
この時に放出される神経伝達物質の中には痛みを引き起こす物質も含まれるため、結果として痛みが起こります。これが、神経障害性疼痛が起こるメカニズムです。
この状態を改善するためには、神経細胞に存在するカルシウムチャネルを阻害すれば良いことが分かります。カルシウムの流入を抑制することで、神経細胞の過剰興奮を抑えるのです。これにより、神経伝達物質の過剰な放出を抑制し、神経障害性疼痛を鎮めます。
このような考えにより、カルシウムの流入に関わる受容体を阻害することで神経障害性疼痛を抑える薬がリリカ(一般名:プレガバリン)です。
リリカ(一般名:プレガバリン)の特徴
痛みは前述の通り、切り傷や打撲によって起こる「炎症による痛み(外傷性)」、神経が障害されることによる「神経の痛み(神経性)」、人間関係のストレスなどによって起こる「心理・社会的な要因による痛み(心因性)」の3つに大きく分けられます。
この中でも、リリカ(一般名:プレガバリン)は神経の痛みに対して有効です。打撲などの物理的な痛みを抑えることはできません。
外傷性の痛みに対しては、鎮痛剤としてNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が多用されます。こうしたNSAIDsにはロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、セレコックス(一般名:セレコキシブ)、ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)などが知られています。
ただ、NSAIDsは外傷性の痛みには効果的であっても、神経性疼痛に対しては効果を示しません。そこで、リリカ(一般名:プレガバリン)が活用されます。神経が障害されることによる痛みとしては、以下のようなものがあります。
・椎間板ヘルニアなどによって神経が圧迫される「腰痛症」
・腰のあたりに存在する神経の束が圧迫される「坐骨神経痛」
・帯状疱疹ウイルスによって神経線維が障害される「帯状疱疹後神経痛」
・糖尿病によって引き起こされる「糖尿病神経障害に伴う痛み・しびれ」
・脳卒中、脳梗塞などによる「脳卒中後疼痛・脳梗塞後遺症」
これら神経が関わる痛みに対して全般的に疼痛緩和を行う薬がリリカ(一般名:プレガバリン)です。
なお、椎間板ヘルニアなどであれば、神経損傷による痛みだけでなく外傷性の痛みが加わることになります。こうした場合、ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、セレコックス(一般名:セレコキシブ)、ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)などのNSAIDsと一緒にリリカを併用することがあります。
リリカ(一般名:プレガバリン)の効果・使用方法
神経痛に対して優れた効果を有しており、投与1週目から素早く疼痛抑制効果を得ることができます。その後、投与を続けても長期間にわたって効果が続くことが示されています。
薬物としては、薬を投与後に約1時間で血液中の薬物濃度(血中濃度)が最大になります。半減期(薬の濃度が半分になるまでの時間)は6時間です。
・神経障害性疼痛への活用
腰痛や坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病のしびれなど一般的な神経障害性疼痛を治療する場合、リリカカプセルとして最初は1日150mgを2回(75mg×2回)にわけて服用します。その後、1週間ほどの時間をかけて1日300mg(150mg×2回)を服用するように徐々に増量していきます。
リリカカプセルには25mg、75mg、150mgがあるため、これらを使い分けで自分に合う用量まで増やしていく必要があります。年齢や症状によって増減できるものの、1日の最高用量(最大量)は600mgまでとなっています。
解熱鎮痛剤(NSAIDs)のように頓服として飲んでも、リリカは効果を示しません。あくまでも継続して服用することで、ようやく薬としての効き目を示すようになります。
・線維筋痛症への使用
また、神経損傷ではなく全身に激しい痛みを生じる病気として線維筋痛症が知られています。全身の強いこわばりやうつ症状、睡眠障害、疲労感・倦怠感などを引き起こす疾患です。かつては心因性リウマチや非関節性リウマチとも呼ばれていました。
こうした線維筋痛症による痛みやしびれを取り除くときも同様に1日150mgを2回に分けて服用し、1週間ほどかけて1日300mgを維持量にします。ただ、線維筋痛症の場合は1日の最高用量(最大量)は450mgまでです。
・離脱症状への対処
リリカ(一般名:プレガバリン)は睡眠薬などのように耐性・依存を生じる薬ではありませんが、急に薬を中止したり減薬したりすると離脱症状が表れます。そのため、薬をやめるときは徐々に量を減らさなければいけません。このときの減量法としては、少なくとも1週間以上の期間を設けて減薬しなければいけません。
リリカの離脱症状としては不眠、悪心、頭痛、下痢、不安・多汗症などが知られています。
リリカ(一般名:プレガバリン)の副作用
それでは、リリカ(一般名:プレガバリン)にはどのような副作用があるのでしょうか。主な副作用としては浮動性めまい、傾眠(眠気)、浮腫、体重増加があります。
その他には血液・リンパ系障害、食欲不振・食欲増進、高脂血症、精神障害(不眠症、うつ病、不安、睡眠障害)、頭痛、動悸、めまい、胃腸障害(便秘、悪心・嘔吐下痢、腹痛)、脱毛(抜け毛)、尿失禁・排尿困難などが知られています。
特に重篤な副作用としては、意識消失があります。リリカを服用することで眠くなり、めまいや傾眠だけでなく意識消失を伴うことがあるのです。眠気を催すことがあるため、事故を防ぐために自動車運転の際は注意する必要があります。眠気がリリカの副作用で最も問題になりやすいです。
次に重篤な副作用として、心不全や肺気腫が知られています。心不全患者さんは慎重投与が必要です。
他の重篤な副作用には横紋筋融解症、腎不全、血管浮腫、低血糖、間質性肺炎、ショック・アナフィラキシー、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、劇症肝炎、肝機能障害などがあります。
・リリカ(一般名:プレガバリン)によってなぜ太るのか
あまり知られていませんが、リリカ(一般名:プレガバリン)によって体重増加がもたらされることがあります。リリカには眠気やめまいの他にも浮腫という副作用が知られています。これによって細胞の間に多くの水が溜まると、水分の量だけ太ってしまいます。
私たちの体内のうち、ほとんどが水分で構成されています。脂肪が増えたというわけではないものの、リリカの副作用によって体重増加をもたらすことがあるのです。
また、稀ではあるもののリリカ(一般名:プレガバリン)の副作用に食欲増進があることから、これによっても太ることがあります。
高齢者への使用
リリカ(一般名:プレガバリン)は肝臓でほとんど代謝を受けず、約99%が未変化体(代謝を受けていない状態)のまま腎臓から排泄されます。
そのため、高齢者の中でも腎臓の機能が弱っている人の場合、薬の効果が強く出すぎる恐れがあるので投与間隔やタイミング、投与量を調節しながら使用していく必要があります。
特に糖尿病患者による神経損傷の痛み・しびれの場合は注意が必要です。糖尿病では合併症として腎症が知られているため、腎臓の機能が弱くなっている可能性があるからです。
ちなみに、日本人の健康高齢者にリリカを投与したところ、血液中の薬物濃度が最大値になるまでに1.4時間であり、半減期は6.32時間でした。このとき、高齢ではない健常人では薬物濃度が最高値に達するまで0.75時間であり、半減期は5.66時間でした。つまり、高齢者の方が薬の作用時間が増大・延長されます。
妊婦・授乳婦への使用
妊婦に対しては、リリカ(一般名:プレガバリン)を使用することはほぼありません。まず、動物実験ではリリカを投与することで胎児異常が確認されています。このときは低体重、限局性浮腫の発生率上昇、骨格変異、骨化遅延などが認められました。
また、動物実験において出生児の体重低下、生存率の低下、聴覚性驚愕反応の低下、発育遅延、生殖能に対する影響などが確認されています。催奇形性は認められないものの、こうした胎児への影響が懸念されています。
さらに、妊娠中にリリカ(一般名:プレガバリン)を服用することで先天異常リスクが高まることが論文で発表されています。確実に胎児に影響が出るというわけではないものの、こうした懸念があるため「治療上の有益性」が高いときだけにリリカを活用します。
授乳婦については、ヒト母乳中へリリカ(一般名:プレガバリン)が移行することが分かっているため、授乳中の服用は避けるようにします。
妊娠中や授乳中の方などで薬を使いたい場合、ノイロトロピンなど妊婦や授乳婦が服用しても胎児や赤ちゃんに影響がないと確認されている薬を服用するといいです。
小児(子供)への使用
小児に対してリリカ(一般名:プレガバリン)はあまり活用されませんが、治療上の観点から有益だと判断された場合のみ活用されます。
動物実験では幼若ラット(子供のラット)に対してリリカを活用することで、中枢神経症状(自発運動亢進、歯ぎしり)や成長への影響(体重増加の抑制)が確認されています。さらに高用量を投与すれば、聴覚性驚愕反応(音などの刺激への反応)の低下や発情休止期の延長が認められています。
リリカを小児の時期に活用すると何らかの悪影響を与える可能性があるため、使用するにしても補助的な位置づけになります。
リリカ(一般名:プレガバリン)の活用
それでは、リリカ(一般名:プレガバリン)がどのように活用されるのかについて、飲み合わせまで含めてより深く解説していきます。
神経障害性疼痛への使用
これまで述べてきた通り、「腰痛症、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病神経障害に伴う痛み・しびれ、脳卒中後疼痛・脳梗塞後遺症」など幅広い痛みに活用されます。
その中でも、例えば椎間板ヘルニアやぎっくり腰などであれば、リリカだけでなくNSAIDs(ロキソニン、ボルタレンなど)も活用されますが、こうした薬と併用して問題ありません。
頭痛や首の痛みに対しては、筋肉の緊張を和らげる「筋弛緩剤テルネリン(一般名:チザニジン)」「筋弛緩剤ミオナール(一般名:エペリゾン)」「抗不安薬デパス(一般名:エチゾラム)」が活用され、こうした薬とも併用されます。
また、四十肩・五十肩や腰痛症など幅広い痛みに活用される薬であるノイロトロピンや、同じく神経の痛みに活用されるビタミンB12製剤メチコバール(一般名:メコバラミン)があり、この薬とリリカを併用することもよくあります。
・抗がん剤の副作用による神経障害性疼痛
また、抗がん剤を活用することにより、その副作用によって末梢神経障害が引き起こされることがあります。タキソール(一般名:パクリタキセル)やエルプラット(一般名:オキサリプラチン)、オンコビン(一般名:ビンクリスチン)、ベルケイド(一般名:ボルテゾミブ)、などの抗がん剤は末梢神経障害を引き起こしやすい薬です。
抗がん剤の副作用によってしびれや痛みを生じるようになることはよくあるため、これらの痛みを抑えるためにリリカ(一般名:プレガバリン)は有効です。手足のピリピリなど、痛みをケアすることは抗がん剤治療において重要です。
リリカ(一般名:プレガバリン)の飲み合わせ
肝臓の代謝酵素によってほとんど代謝を受けず、主に腎臓からリリカが排泄されます。そのため、薬物同士の相互作用(飲み合わせ)が少ない薬であると考えられています。ただ、まったく飲み合わせの問題がないわけではありません。
まず、モルヒネなど中枢神経抑制剤(オピオイド系鎮痛剤)と併用することで呼吸不全、昏睡が確認されています。がん疼痛を抑えるときに麻薬製剤が活用されますが、こうした薬とは併用注意です。
また、オキシコンチン、オキノーム(一般名:オキシコドン)、ワイパックス(一般名:ロラゼパム)、アルコール(飲酒)によって認知機能(記憶)や運動に影響を及ぼす可能性があります。リリカは眠くなる副作用があるため、例えばお酒を飲むとアルコールによってダブルで脳機能が抑えられ、認知機能が悪くなるのです。
さらに、リリカの副作用に浮腫が知られていることから、血管浮腫を引き起こす薬(高血圧治療薬レニベースなど)や末梢性浮腫を起こす薬(糖尿病治療薬アクトスなど)と併用注意です。
ちなみに、併用禁忌の薬はありません。
リリカ(一般名:プレガバリン)と似た薬
神経障害による痛みに活用されるリリカですが、同じように神経痛に用いられる薬としてはトラムセット(一般名:トラマドール、アセトアミノフェン)やサインバルタ(一般名:デュロキセチン)などがあります。
トラムセットは脳や脊髄など中枢神経に働きかけることによって、痛みを感じなくさせることができます。弱オピオイドと呼ばれ、麻薬と似た作用によって鎮痛効果を示します。
一方でサインバルタは抗うつ薬として活用されますが、同じように中枢に働きかけることでリリカ(一般名:プレガバリン)とは異なる作用機序によって鎮痛作用を示します。
糖尿病性神経障害や慢性腰痛症、変形性関節症、線維筋痛症など多くの慢性疼痛に対してリリカやトラムセット、サインバルタが活用されます。リリカやトラムセット、サインバルタはそれぞれ併用して服用することがあります。
なお、リリカ(一般名:プレガバリン)と同系統の薬としてガバペン、レグナイト(一般名:ガバペンチン)が知られています。ガバペンは抗てんかん薬、レグナイトはレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)の治療薬です。
過去には神経性疼痛の治療薬として、保険適応外でガバペン、レグナイト(一般名:ガバペンチン)が活用されていました。ただ、現在はリリカ(一般名:プレガバリン)が登場しているため、リリカを用いれば保険適応の範囲で痛みを治療できるようになっています。
このような特徴により、神経興奮を抑制することであらゆる神経障害性疼痛による痛みを抑える薬がリリカ(一般名:プレガバリン)です。
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