ノイロトロピンの作用機序:疼痛治療薬
腰痛症や関節痛では、痛みが起こることによって日々の運動が制限されてしまいます。また、神経が傷つくことによって起こる痛みに神経痛があり、神経痛ではピリピリとした痛みが続くようになります。
そこで、これらの痛みを取り除く薬としてノイロトロピンがあります。ノイトロトピンの中身にはワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液というかなり特殊な有効成分が含まれています。
また、ノイロトロピンは神経障害による疼痛だけでなくアレルギー性鼻炎(花粉症)にも活用されます。
ノイロトロピンの作用機序
ノイロトロピンの有効成分は前述の通り、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液といいます。ウサギの皮膚に対してワクシニアウイルスを注射し、炎症が起こることで生じた皮膚組織から分離したものが有効成分になっています。
なぜ、ノイロトロピンが痛みやアレルギー症状を改善するのかについては、現在でもわかっていません。ノイロトロピンには多くの成分が含まれ、どの成分が有効成分なのかも判明していないのが現状です。
ただ、漢方薬と同じように古くから活用されている薬であるため、作用機序が不明であっても「効果がある」という理由で現在も利用されています。完全に作用機序が分かっているわけではないですが、以下のようにしてノイロトロピンが作用しているといわれています。
ノイロトロピンによる疼痛抑制
痛みが発生すると、この時のシグナルはまず脊髄に伝えられます。その後、神経を通ることで脊髄から脳へと痛みのシグナルが伝えられ、痛みの部位やその強さが認知されます。つまり、痛みは脳で感じます。
この時、脳の神経には「痛みを抑えるための神経」が存在します。痛みを和らげる神経であるため、この神経が活性化させれば、強烈な痛みを抑えることができます。専門用語では、この神経を下行性疼痛抑制系神経と呼びます。
下行性疼痛抑制系神経は、神経伝達物物質の中でもセロトニンが関わる神経(セロトニン作動性神経)とノルアドレナリンが関わる神経(ノルアドレナリン作動性神経)の2つに分かれます。
つまり、この2つの下行性疼痛抑制系神経を強めることができれば、痛みを感じにくくさせることで鎮痛作用を得ることができます。
このような考えにより、痛みを抑える神経(下行性疼痛抑制系神経)の作用を活性化させることで多様な痛みを抑える薬がノイロトロピンです。
ノイロトロピンによる抗アレルギー作用
また、ノイロトロピンはアレルギー性鼻炎(花粉症)にも活用され、抗アレルギー作用が知られています。
花粉症患者の場合、花粉症を敵だと判断してヒスタミンやロイコトリンなど「炎症を引き起こす物質」が放出されます。これらの物質が鼻粘膜に存在するムスカリン作動性アセチルコリン受容体という部位に結合すると、結果として鼻水やくしゃみなど、のど症状や咳症状を引き起こしてしまいます。
そこでノイロトロピンを投与すると、鼻粘膜のムスカリン作動性アセチルコリン受容体の数が減少することが分かっています。ノイロトロピンが花粉症に効果を示すのはこうした作用機序だと考えられています。
なお、抗アレルギー作用を示すノイロトロピンはアトピー性皮膚炎や湿疹、蕁麻疹(じんましん)の治療にも活用されます。皮膚のかゆみに対しても効果的です。
ノイロトロピンの特徴
鎮痛剤としては、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やオピオイド系薬(麻薬性鎮痛剤など)が多用されます。NSAIDsは痛み物質であるプロスタグランジンの作用を抑制し、オピオイド系薬は麻薬が作用する受容体を刺激することで強力な鎮痛作用を得ることができます。
NSAIDsとして有名な薬としてはロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)が知られています。また、オピオイド系薬としてはトラムセット(一般名:トラマドール、アセトアミノフェン)があります。カロナール(一般名:アセトアミノフェン)も解熱鎮痛剤として多用されます。
それに対して、ノイロトロピンは「下行性疼痛抑制系神経の活性化」という、NSAIDsやオピオイド系薬とは異なる作用機序によって鎮痛作用を示します。これにより、炎症による痛みから神経痛まで幅広い痛みを抑えることができます。
帯状疱疹による痛みなどは、神経が傷つくことによって発生する神経痛です。これらの神経痛に対してNSAIDsは効果を示しません。また、オピオイド系薬などの強力な薬を使用するわけにもいかないため、ノイトロピンによって痛みを鎮めます。
これら神経痛の他にも、腰痛症(椎間板ヘルニア、ぎっくり腰など)や頸肩腕症候群、肩関節周囲炎(四十肩・五十肩など)、変形性関節症・関節リウマチなどの整形領域に対してもノイロトロピンは有効です。
ノイロトロピンの副作用
ノイロトロピンの特徴として、副作用がほとんどないことがあげられます。ただ、必ず副作用が表れないというわけではないため、どのような副作用が存在するのかチェックすることは重要です。
ノイロトロピンの副作用としては発疹、じんましん、かゆみなどの過敏症が知られています。多くの有効成分を含む抽出液であるため、どの成分が原因なのかは分かりませんが人によっては過敏症を生じることがあります。
また、下痢・軟便、胃痛、口渇、腹部膨満感、便秘、口内炎、胃重感、胃部膨満感、腹痛、放屁過多(おならの増加)、消化不良、胸やけ、胃のもたれ感、胃腸障害、悪心・嘔吐など、消化器症状も生じます。
眠気、めまい・ふらつき、頭痛・頭重感などの精神症状も報告されています。全身倦怠感、浮腫、熱感、動悸、皮膚感覚の異常についても、頻度は低いもののノイロトロピンの副作用です。
重篤な副作用としては肝機能障害、黄疸があります。肝臓の機能に異常が表れた場合、使用を中止しなければいけません。アナフィラキシー様症状を生じることもあります。
小児(子供)への使用
ノイロトロピンの小児への使用については、「使用経験が少ないため安全性は確立されていない」とされています。ただ、子供に対してノイロトロピンを活用することはあります。
子供の痛みにはカロナール(一般名:アセトアミノフェン)などが多用されます。ただ、神経痛に対してカロナールは無効であり、痛みを鎮めることはできません。そうしたとき、ノイロトロピンが利用されます。
妊婦・授乳婦への使用
また、妊婦・産婦についてはどうかというと、「安全は確立されていない」とはされているものの、妊娠中であっても問題なくノイロトロピンを使用できます。胎児にも影響はなく、妊娠初期であったとしても催奇形性などは報告されていません。
授乳中であってもノイロトロピンの使用は問題ないです。授乳中に使用できる薬としてノイロトロピンが知られているため、薬を服用しながら母乳育児を行っても大丈夫です。
ノイロトロピンの効能効果・飲み合わせ
それでは、ノイロトロピンにはどのような効果があるのかについて、より深く確認していきます。
錠剤(ノイロトロピン錠4単位)で活用される場合、「帯状疱疹後神経痛、腰痛症、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)、変形性関節症」が適応症です。1日4錠を朝・夕の2回に分けて服用します。
これがノイロトロピン注射・点滴(ノイロトロピン注射液1.2単位やノイロトロピン注射液3.6単位)の場合は「腰痛症、頸肩腕症候群、症候性神経痛、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、蕁麻疹)に伴うそう痒、アレルギー性鼻炎」が適応となり、アレルギー症状に対しても効果を示すようになります。
静脈内・筋肉内・皮下のどこかに対して、1日1回という投与間隔で活用されます。
神経の損傷による痛みの緩和
これまで述べてきた通り、ノイロトロピンは神経痛による痛み(慢性疼痛)を改善します。帯状疱疹や腰痛症(椎間板ヘルニア、ぎっくり腰など)、糖尿病による神経障害などによって神経損傷の痛みが発生したときに効果的です。神経が関わるしびれや痛みに対して、ノイロトロピンが活用されるのです。
神経痛による痛みを抑える薬としては、リリカ(一般名:プレガバリン)やトラムセット(一般名:トラマドール、アセトアミノフェン)、トラマール・ワントラム(一般名:トラマドール)、サインバルタ(一般名:デュロキセチン)が用いられます。これらの薬とノイロトロピンを併用しても問題ありません。
さらに、神経障害による痛みを緩和する薬としてはビタミン剤であるメチコバール(一般名:メコバラミン)や血流・血行を改善させるオパルモン、プロレナール(一般名:リマプロスト)も活用されます。これらの薬との併用も問題ありません。
頭痛・肩こりの緩和
また、頭痛(片頭痛など)を含む一般的な痛みに対してノイロトロピンを使用することがあります。この場合、NSAIDsとしてロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、セレコックス(一般名:セレコキシブ)、ハイペン・オステラック(一般名:エトドラク)と併用するケースがあります。
他にはストレートネックの人など緊張型頭痛の場合、肩こりが原因となることがあるため、この場合は筋弛緩剤であるテルネリン(一般名:チザニジン)、ミオナール(一般名:エペリゾン)と一緒にノイロトロピンを服用することがあります。
抗不安薬として知られるデパス(一般名:エチゾラム)は筋肉の緊張を和らげるために緊張型頭痛に活用されますが、デパスとノイロトロピンの併用も大丈夫です。
ノイロトロピンの優れている点としては「他の薬との飲み合わせによる問題がほとんどない」ことが挙げられます。併用注意・併用禁忌の薬は基本的にありません。
なお、ノイロトロピンにはジェネリック医薬品(後発医薬品)が存在しません。ウサギにワクシニアウイルスを注射し、その皮膚抽出物を分離するという特殊な方法によって作られた薬であるため、ジェネリックメーカーが製造方法を真似することができないのです。そのため、薬価を下げるためにジェネリック医薬品を選ぶことはできません。
このような特徴により、多くの有効成分によって「痛みを抑える神経」の働きを強め、痛みを和らげる薬がノイロトロピンです。神経痛や腰痛、リウマチ・膠原病などの痛みだけでなく、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状にも効果的です。
ちなみに、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)のように風邪などの熱を下げる作用(解熱作用)はないです。あくまでも慢性疼痛やアレルギー性鼻炎などに効果的です。ただ、ノイロトロピンを長期服用しても耐性はなく、あらゆる痛みに効果を示すので活用しやすい薬だといえます。
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