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役に立つ薬の情報~専門薬学

イソバイド、メニレット(イソソルビド)の作用機序:脳圧低下薬、めまい治療薬

 

脳腫瘍や頭部外傷によって脳内の圧力が高まっている状態は危険です。これを解消するため、脳圧を低下させることで脳を保護しなければいけません。

 

また、めまいが起こるとふらつきや吐き気などの症状を生じます。これによって日々の生活が制限されてしまいます。

 

そこで、脳圧が高くなっている状態やめまいが起こっている状態を改善させる薬としてイソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)が使用されます。イソソルビドは浸透圧利尿薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

 

イソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)の作用機序

 

脳内の圧力が高くなっている状態とは、言い換えれば「水分がたくさん貯留している状態」と表現することができます。たくさんの水が脳に溜まると、その分だけ圧力が高まってしまうのです。

 

この状態を改善するためには、脳内の水分を除去すれば良いことが分かります。これが脳圧低下に繋がり、脳腫瘍や頭部外傷による影響を最小限にとどめることができます。これは、めまいの治療を行うときも考え方は同じです。

 

めまいが起こる原因はさまざまであり、脳が関与したり、年齢によるものだったりします。ただ、そのほとんどは耳の働きが関わっています。耳には平衡感覚をつかさどる三半規管が存在します。この三半規管に異常があると、同時に平衡感覚にも異常が表れます。

 

より詳しく言うと、耳の異常によるめまいでは、内耳のリンパ液が増えることで水ぶくれ状態になっています。これを、内リンパ水腫といいます。これを改善するためには、内耳に溜まっている水分を少なくさせれば良いです。そこで、イソソルビドが使用されます。

 

イソソルビドは糖の一種として知られています。体内でほとんど代謝されない物質であり、経口投与によって速やかに吸収されて血液中へと移動します。

 

濃厚液を投与すると、イソソルビドによって血液中の浸透圧が高まります。その結果、脳や内耳に溜まっている水分が血液中へと移動するようになります。その結果、脳圧低下や内リンパ水腫の改善が見られるようになります。

 

イソバイド、メニレット(イソソルビド)の作用機序

 

つまり、イソソルビドは組織に溜まっている水分を血液中へ移動させる作用があります。血液中の水分量が増えるため、今度は尿として水分を排泄する作用が強まります。組織の水分を取り除くと同時に、利尿作用も有するのです。

 

このような考えにより、水分の貯留を改善させる薬として、脳圧が高くなっている状態やめまいに対して使用される薬がイソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)です。浸透圧を利用して利尿作用を示す薬であるため、浸透圧利尿薬と呼ばれます。

 

イソソルビド(商品名:イソバイド、メニレット)の特徴

 

似た名前の薬に硝酸イソソルビドがあり、硝酸イソソルビドは狭心症の治療薬として用いられます。ただ、イソバイド、メニレットには狭心症を改善する作用はなく、単に組織に溜まった水分を外に排泄させる作用を有するものとなります。

 

脳腫瘍・頭部外傷時の脳圧降下やめまいの治療以外にも、イソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)は「腎・尿管結石時の利尿」、「緑内障の眼圧降下」に対しても使用されます。これは、組織に貯留した水を少なくさせる作用によるものです。

 

なお、めまいを引き起こす病気としてメニエール病が有名です。メニエール病ではめまいの他にも難聴、耳鳴り、耳閉感が起こります。これは、「耳の聞こえ」に関する蝸牛(かぎゅう)と呼ばれる部位の水ぶくれによって発症します。

 

そのため、内耳の水ぶくれ状態を改善させるイソバイド、メニレットは、メニエール病による難聴、耳鳴り、耳閉感に対しても改善作用を示します。

 

このような特徴により、血液中の浸透圧を高めることで組織の水分を移動させ、脳圧低下やめまい改善作用を示す薬がイソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)です。イソバイドはシロップ製剤であり、メニレットはゼリー製剤です。

 

 

イソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)の効能・効果

 

イソバイドシロップ70%・メニレットゼリー70%(一般名:イソソルビド)は以下の症状に用いられます。

 

・脳圧を下げる

 

脳腫瘍や脳の外傷によって、脳圧が上昇します。脳腫瘍によって脳の容積が増大すると、脳の周りの液体は流れにくくなり圧力が上昇します。また脳の外傷によっても、ダメージを受けた周囲はむくみ脳の周りの液体は流れにくくなります。

 

脳は固い頭蓋骨で囲まれていてスペースがありません。脳圧が上昇することによって、脳の組織は本来と違うところへ押し出されます。これを脳ヘルニアと呼びます。脳ヘルニアが起こると、生命を維持する機能を持つ部分を圧迫するので大変危険です。

 

イソバイドやメニレットは、脳の周りを流れる液体を血管内に吸い出し、尿として排泄させます。

 

・結石時の利尿

 

結石を生じると、尿の通り道にかたまりができて道をふさぎ、激痛を引き起こします。このときイソバイドやメニレットの作用で尿の量を増やせば、結石を尿と一緒に出すことが期待できます。

 

・緑内障の眼圧低下

 

眼の中には房水という「血管のない組織に栄養を与える水分」があります。この水分の流れが悪くなると、眼圧が上昇します。眼圧が上昇すると、眼の神経が障害を受けて緑内障を引き起こします。

 

緑内障は放置すると視野が狭くなったり視力が低下したりして、最悪失明することもあります。したがって、緑内障や高眼圧症の人は眼圧を下げる治療をする必要があります。イソバイドやメニレットは房水を排出しやすくすることで、眼圧を下げます。

 

・メニエール病

 

メニエール病は、内耳(耳の内側)のリンパ液が増えて水ぶくれになっている状態です。内耳には「聞こえる役割を持つ細胞」と「平衡感覚を司る細胞」があります。これらが障害されるので、聞こえが悪くなったり、耳鳴り・めまいといった症状が現れたりすることがあります。

 

イソバイドやメニレットを使用することによって、内耳にたまっている水を出してあげることができます。この作用により、メニエール病に使用されるのです。

 

イソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)の用法・用量

 

・脳圧降下、眼圧降下、利尿

 

脳圧降下・眼圧降下・利尿を目的にする場合には、通常イソバイドシロップ70%を1日70~140mlを2~3回に分けて投与します。メニレットゼリー70%の場合は通常1日70~140gを2~3回に分けて投与します。なお、症状によって量が増えることがあります。

 

・メニエール病

 

メニエール病を目的にする場合には、通常イソバイドシロップ70%を1日90~120mlを毎食後3回に分けて投与します。メニレットゼリー70%の場合は通常1日90~120gを毎食後3回に分けて投与します。

 

なお量を決める際には、イソバイドシロップの場合は1日当たり1.5~2ml/kgを量の目安にします。メニレットゼリーの場合は1日当たり1.5~2g/kgを量の目安にします。症状によって量は増減することがあります。

 

 

イソバイド・メニレットの副作用

 

非常に稀ですが、イソバイドやメニレットの重大な副作用にショック・アナフィラキシーがあります。イソバイドやメニレットの使用後、発疹・呼吸困難・血圧低下・動悸などの異常がみられた場合は使用を中止し、適切な処置を受けます。

 

イソバイドやメニレットの主な副作用には、悪心・嘔吐・食欲不振・下痢・不眠・頭痛などがあります。このような副作用が発現した場合には、イソバイド・メニレットの減量や休薬など適切な処置を行います。

 

ほとんど心配いりませんが、イソバイドやメニレットの使用後に発疹や紅斑が見られた場合には、投与を中止します。

 

イソバイド・メニレットの投与禁忌と併用注意(飲み合わせ)

 

・禁忌

 

イソバイドやメニレットを投与できない人(禁忌の人)がいます。まずは、イソバイドやメニレットの主成分に過敏症がある人は禁忌です。

 

次に、急性頭蓋内血腫(きゅうせいとうがいないけっしゅ:脳の内部・脳と頭蓋骨の間に血液がたまった状態)の人です。

 

頭蓋内血腫が疑われる人に対して、頭蓋内血腫の存在を確認することなくイソバイドやメニレットを使用することは大変危険です。なぜなら、高くなった脳圧によって一時血が止まっていることがあり得るからです。イソバイドやメニレットによって脳圧が下がると、再び出血し始めてより重篤な症状を引き起こすことがあります。

 

出血源を処理して再出血のおそれのないことを確認しない限り、イソバイドやメニレットを投与してはいけません。

 

・併用注意

 

同じ作用をする薬を除いて、イソバイドやメニレットと併用できない薬はありません。したがって、以下の薬と一緒に使用することができます。

 

〇 痛み止め・ステロイド・抗アレルギー薬

 

ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、バファリン(一般名:アスピリン)、リンデロン(一般名:ベタメタゾン)、デカドロン(一般名:デキサメタゾン)、プレドニン(一般名:プレドニゾロン)、アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)

 

〇 ビタミン剤・ホルモン剤・抗不安薬

 

メチコバール(一般名:メコバラミン)、ピル(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)、デパス(一般名:エチゾラム)

 

〇 めまいで用いる薬

 

アデホスコーワ(一般名:アデノシン三リン酸)、メリスロン(一般名:ベタヒスチン)、セファドール(一般名:ジフェニドール)

 

これらは、イソバイドやメニレットと作用の仕方が異なるため併用されることがあります。

 

イソバイド・メニレットの高齢者への投与

 

高齢者では代謝が落ちてしまいますが、イソバイドやメニレットを使用することができます。ただし、患者さんの様子を観察して必要に応じ量を減らすなど注意が必要です。

 

イソバイド・メニレットの小児(子供)への使用

 

小児にもメニエール病の治療や、脳腫瘍によって脳圧を下げる治療が必要になることがあります。その際にイソバイドシロップやメニレットゼリーが使用された経験があります。

 

小児へイソバイドシロップを使用するときは、1日量を体重1kgあたり1.5~2mlにします。またメニレットゼリーを小児へ使用するときは、1日量を体重1kgあたり1.5~2gにします。成人に投与したケースと比較して、小児への投与によって副作用の頻度が高くなった報告はありません。

 

イソバイド・メニレットの妊婦・授乳婦への使用

 

・妊婦への使用

 

人において、浸透圧利尿薬の催奇形性についての報告はありません。したがって、治療上必要な場合には妊婦さんもイソバイドやメニレットを使用することがあります。

 

・授乳婦への使用

 

授乳中の人へイソバイド・メニレットを使用するときは、授乳をできる限り中止するようにします。なぜならば、イソバイドやメニレットは分子量が小さく、乳汁中へ移行すると考えられているためです。

 

さらに、イソバイドやメニレットには苦みがあります。乳汁中へ移行した結果、苦みによって赤ちゃんが授乳を嫌がるようになってしまうリスクもあります。こうした理由からも、授乳中の人にイソバイドやメニレットをするときは、授乳を中止するようにします。

 

 

イソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)の効果発現時間

 

イソバイドやメニレットは、血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高に達するまでの時間はおよそ0.5~1.5時間です。

 

そして半減期(薬の濃度が半分になる時間)は、およそ7時間です。1日経つと、80%の薬は体外へ排泄されるといわれます。

 

イソバイド・メニレットの後発品

 

イソバイド・メニレットには後発医薬品(ジェネリック医薬品)が存在します。ジェネリック医薬品にすることによって、さらに薬を安く手に入れることができます。

 

イソバイド・メニレットの類似薬

 

・ダイアモックスとの違い

 

イソバイドやメニレットと同じ利尿作用と眼圧降下作用を示す薬にダイアモックス(一般名:アセタゾラミド)があります。

 

ダイアモックスは身体の炭酸脱水酵素を抑制します。炭酸脱水酵素は、腎臓や眼の器官で働いているため利尿作用と眼圧降下作用を有しています。

 

腎臓の近位尿細管という部分で働く炭酸脱水酵素は、水やミネラルの再吸収に関わっています。再吸収とは、尿として排泄される前に身体に必要な物質を体内に取り込むことです。炭酸脱水酵素の阻害薬であるダイアモックスを使用することで水分の再吸収が抑制されます。その結果、身体に水が再吸収されず利尿作用を示します。

 

また、眼の中には房水という「血管のない組織に栄養を与える水分」があります。緑内障によって、房水の量が過多となると眼の神経を圧迫します。このうち、炭酸脱水酵素は眼での房水生成に関わっています。炭酸脱水素酵素を阻害する薬であるダイアモックスを使用することで、房水の生成を抑制して眼圧を降下させます。

 

・ラシックスとの違い

 

ラシックス(一般名:フロセミド)は利尿作用を示します。ラシックスも、水の再吸収を抑制します。作用する部分は、炭酸脱水酵素の働く近位尿細管の終わりと遠位尿細管の始まりをつなぐヘンレループです。

 

ヘンレループは水の再吸収に大きく関わる場所です。したがってラシックスは、大きな利尿作用を示します。ラシックスのようにヘンレループに作用する利尿薬をループ利尿薬と呼びます。

 

イソバイド・メニレットの使用上の注意

 

・イソバイドシロップの飲み方

 

イソバイドシロップは「苦い」「まずい」という訴えの多い薬です。苦みを感じにくくするためには方法があります。

 

まず冷たい水で2倍に薄めるか、冷やした薬をそのまま飲むという方法があります。冷たくすることによって苦い味覚を感じにくくするのです。イソバイドシロップを冷やしても薬の効果に影響はありません。

 

次に、イソバイドシロップは柑橘系のジュース(オレンジジュースやグレープフルーツジュースなど)と混ぜると飲みやすくなるといわれます。同様に、コーラやCCレモンなどの炭酸水、リンゴジュースも混ぜると飲みやすいと報告されています。

 

逆に、イソバイドシロップと混ぜて飲みにくくなるものには、お茶やコーヒー、牛乳などがあります。

 

・メニレットゼリーの飲み方

 

メニレットゼリーも「苦い」「まずい」という訴えの多い薬です。苦みを感じにくくするにはイソバイド同様に冷たくするか、甘さを加えて対処する方法があります。

 

メニレットゼリーも部屋で保管ができる薬ですが、冷蔵庫で保管することもできます。冷たくすることで苦みを感じにくくします。

 

また、ハチミツなど甘いものをかけて苦みをカバーする方法があります。フレーバーをかけて対処するのも良いでしょう。調剤してもらった薬局に頼めば、フレーバーをもらえるケースもあります。メニレットゼリーのフレーバーには、ヨーグルト味やココア味、ミルク味などが薬局に在庫されることがあります。

 

イソバイド・メニレットを慎重に投与する人

 

イソバイドやメニレットを慎重に投与する人がいます。まず、脱水状態の人です。イソバイドやメニレットには利尿作用がありますので、薬を使用することでさらに体内の水分を失ってしまう恐れがあります。

 

次に、尿閉の人です。尿閉とは、膀胱に尿が溜まっているものの排尿できない状況のことを指します。その状況で利尿作用のあるイソバイドやメニレットを使用すると、さらに膀胱に負荷をかけてしまいます。

 

そして、腎機能障害のある人も慎重投与です。腎臓の機能が落ちている人に尿を増やさせると、さらに腎臓に負担をかけてしまい症状を悪化させてしまうおそれがあります。

 

これらに加えて、うっ血性心不全の人も慎重に投与します。心不全のように心臓が弱っている人に「体内の血液の循環する量を増やすイソバイドやメニレット」を使用すると、さらに心臓に負担をかけてしまいます。そのため、うっ血性心不全の人には慎重にイソバイドやメニレットを使用します。

 

イソバイド・メニレットの取り扱い

 

・イソバイドシロップ

 

イソバイドシロップには20mlと30mlの分包品があります。したがって、1包で1回分の薬の量を内服することができます。分包品に関しては、服用直前まで開封しないようにします。服用後に残った分があっても、廃棄します。

 

イソバイドシロップには、500mlなどの瓶に入っているものがあります。開封した瓶の残液は必ず冷蔵庫で保管します。未開封の瓶や分包品は、真夏の高温状態(直射日光が当たるなど)は避け、部屋の温度で保管します。

 

・メニレットゼリー

 

メニレットゼリーは1個当たり20gのものと30gの包装があります。したがって、1個で1回分の薬の量を内服することができます。真夏の高温状態は避けて部屋の温度で保管します。服用後に残った分があっても廃棄します。

 

このようにメニエール病だけでなく、脳圧や眼圧を下げる作用や結石に対しても幅広く用いられる薬がイソバイド・メニレット(一般名:イソソルビド)です。

 

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