メジコン(デキストロメトルファン)の作用機序:鎮咳薬
風邪を引いたときは咳が問題となります。咳によって気道の炎症が長引くようになり、強くせき込むことで夜中に起きることもあります。風邪によって体がだるくなるだけでなく、日々の生活にも支障がでます。
そこで、咳を鎮めることで風邪症状を緩和させる薬がメジコン(一般名:デキストロメトルファン)です。メジコンは鎮咳薬(ちんがいやく)と呼ばれる種類の薬です。
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)の作用機序
細菌やホコリなど、異物が体の中に侵入してくることがあります。これらの異物が気道に溜まると、体はこれを外へ排出しようと試みます。このときに咳が重要になります。咳によってのどに蓄積した異物を外へ追い出そうとするのです。
このように、咳は体にとって必要な反応です。無意味に咳が起こっているのではなく、きちんと意味があります。そのため、むやみに咳を止めるべきではありません。ただ、咳によって炎症が続くなど、デメリットがみられる場合は咳の鎮静化を行います。
咳を生じるには、脳の働きが重要になります。のどに異物が溜まると、これを脳が感知します。つまり、「異物を排泄するために咳を起こせ!」というシグナルが脳に伝わることで、咳が起こるのです。
脳の延髄と呼ばれる部分には、咳中枢が存在します。咳中枢が刺激を受けると、咳を生じるようになります。そこで、薬が咳中枢に働きかけると、咳を抑制できます。
咳中枢に「咳を引き起こすシグナル」が到達すると、咳を生じます。このとき、ある一定以上の強さを有するシグナルが到達する必要があります。「これ以上の刺激がくると咳を生じる」というラインを閾値(いきち)といい、咳が起こるには閾値を超えなければいけません。
左図では、二か所でシグナルが閾値を超えています。この場合、咳は2回起こります。一方、シグナルの強さは同じであるものの、右図では閾値を超えていません。そのため、咳も起こらなくなります。咳中枢に作用して閾値を上昇させれば、咳を鎮めることができるのです。
このような作用機序により、脳の咳中枢に作用することで鎮咳作用を示す薬がメジコン(一般名:デキストロメトルファン)です。
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)の特徴
鎮咳薬には、麻薬性と非麻薬性の薬があります。メジコン(一般名:デキストロメトルファン)は非麻薬性の鎮咳薬であり、依存性や便秘などの副作用を心配する必要はありません。
咳を鎮める作用は強力であり、麻薬性の鎮咳薬であるコデインと比べて、同等の鎮咳作用を示すことが臨床試験で分かっています。
また、動物を用いた実験によって、気道の粘液分泌を促進させることが分かっています。気道の粘液分泌は痰の排泄に関わります。ネバネバした痰を液化させて排泄を促すことにより、メジコン(一般名:デキストロメトルファン)は去痰作用を示します。
錠剤や散剤、シロップなどの剤形をもつ薬であり、小児科や内科で多用されます。風邪の他にも、肺炎や肺結核などの呼吸器疾患による咳止めに使用されることもあります。
このような特徴により、咳を鎮めたり痰の排泄を促したりする作用により、風邪症状を緩和する薬がメジコン(一般名:デキストロメトルファン)です。
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)の効能・効果
メジコン錠15mgとメジコン散10%は、「感冒(風邪)、急性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)」に伴う咳嗽(がいそう:咳こむこと)や気管支造影術および気管支鏡検査時の咳嗽に用います。
また、メジコン配合シロップは「急性気管支炎、慢性気管支炎、感冒、上気道炎、肺結核、百日咳」に伴う咳嗽および喀痰喀出困難(かくたんかくしゅつこんなん)に活用されます。
錠剤や散剤とシロップ剤との違いは、シロップ剤には気道の粘液の分泌を促して痰を出しやすくする成分(クレゾール)が含まれていることです。この成分により、去痰作用を期待できます。
メジコンの有効性に関しては、再評価結果によるデータがあります。それぞれの疾患に対する有効率は以下の通りです。
・メジコン錠15mg・メジコン散10%
感冒(86.3%)、急性気管支炎(71.1%)、気管支炎(84.7%)、慢性気管支炎(69.8%)、気管支拡張症(64%)、肺炎(81%)、肺結核(79.3%)、急性上気道炎(97.3%)、急性気道炎(74%)、咽喉炎(81.8%)、気管支造影術(72.7%)
・メジコン配合シロップ
急性気管支炎(36.4%)、慢性気管支炎(68%)、感冒(64.6%)
このように、メジコン錠15mgとメジコン散10%は特に急性上気道炎に高い有効性を示すことが分かります。
また、メジコンには糖尿病性神経障害(高血糖によって体のすみずみに広がる「末梢神経」のはたらきが低下すること)に対して効果があるというデータが出ています。これはメジコンの代謝産物であるデキストロルファンが、NMDA受容体と呼ばれるアスパラギン酸の受容体拮抗作用を示すことで神経伝達物質であるグルタミン酸の遊離を促進するためです。
メジコンの用法・用量
メジコン錠15mg(一般名:デキストロメトルファン、英名:Dextromethorphan)とメジコン散10%は、成人に1回15~30mgを1日1~4回経口投与します。なお、年齢・症状によって量が増減することがあります。
またメジコン配合シロップは、成人には1日18~24ml、8~14歳には1日9~16ml、生後3か月~7歳には1日3~8mlを3~4回に分け経口投与します。こちらも、年齢・症状により量が増減することがあります。
メジコンは、特に理由がない場合は食後に服用しますが、食前や空腹時(食間)に服用しても問題ありません。また、メジコン錠15mgを一包化したり、粉砕したりすることも問題ありません。
メジコンの副作用
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)の主な副作用は悪心とめまいです。また、ほとんど心配は必要ないものの重大な副作用として、呼吸抑制やショック・アナフィラキシー様症状(呼吸困難、蕁麻疹、血管浮腫など)が報告されています。
眠気の副作用が報告されているため、メジコンを使用している人には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意します。
その他報告されている副作用としては湿疹(発疹)があります。さらに頻度は低いですが、頭痛・めまい・不眠・悪心・嘔吐・食欲不振・便秘・腹痛・口喝も報告されています。
メジコンの投与禁忌と併用注意(飲み合わせ)
メジコンを服用するとき、禁忌の人がいます。メジコンに過敏症のある人は禁忌ですが、その他にもMAO阻害剤を飲んでいる人も禁忌です。
MAO阻害剤とはモノアミン酸化酵素阻害剤のことで、ドパミンの分解抑制作用を有し、パーキンソン病治療に用いることがあります。MAO阻害剤には、パーキンソン病治療薬のエフピー錠(一般名:セレギリン)が該当します。
また、てんかん薬のエクセグラン(一般名:ゾニサミド)は作用機序が完全に解明されていないものの、MAO阻害作用を有すると想定されています。したがって、メジコンとは禁忌です。
上記の薬とメジコンが併用禁忌の理由は、セロトニンの作用を増強させてしまうためです。
メジコン(一般名:デキスロメトルファン)には、セロトニンの濃度を上昇させる作用があります。また、MAO阻害剤にはセロトニンの代謝を阻害する作用があります。その結果、脳幹および脊髄でのセロトニンによる作用が増強されます。
セロトニン濃度が増えることにより、精神状態および行動の変化(不安興奮、不穏など)や骨格筋の緊張性・神経筋活動性の変化(痙攣や手の震えなど)、自律神経失調(高血圧や多汗など)、異常高熱や下痢などが現れます。これらの症状はセロトニン症候群と呼ばれています。
さらに、メジコンと併用注意の薬剤もあります。要は、飲み合わせに注意する必要があります。
こうした薬としては、キニジン(一般名:キニジン)、アンカロン(一般名:アミオダロン)、ラミシール(一般名:テルビナフィン)などです。
メジコンは肝代謝酵素(肝臓に存在する代謝酵素)によって不活性化されます。この肝代謝酵素に種類があり、その中でもCYP2D6と呼ばれる酵素によって代謝されます。
先ほどの薬(キニジン、アンカロン、ラミシールなど)はこの代謝酵素(CYP2D6)の働きを阻害してしまい、結果としてメジコンがうまく不活性化されなくなり、結果として血中濃度(血液中の薬物濃度)が上昇することがあります。
また、うつ病の治療薬として活用される選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)も併用注意です。SSRIはセロトニン作用を増強し、先述したセロトニン症候群等のセロトニン症状を起こすことがあるためです。
SSRIには、デプロメール・ルボックス(一般名:フルボキサミン)やパキシル(一般名:パロキセチン)、ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)、サインバルタ(一般名:ディロキセチン)などがあります。
緑内障、前立腺肥大症患者に活用できるメジコン
なお、メジコン(一般名:デキストロメトルファン)は緑内障や前立腺肥大の人にも用いることができます。一部の鎮咳薬には抗コリン作用を有する薬があります。
抗コリン作用とは、アセチルコリンという物質の働きを抑える作用です。アセチルコリンは副交感神経(リラックスさせる方向に働く自律神経)を刺激する作用があります。したがって抗コリン作用によって副交感神経に関わる器官に影響を及ぼします。
具体的には抗コリン作用によって、尿を溜めやすくしたり眼圧を高めたりします。したがって、緑内障や前立腺肥大の人には抗コリン作用を有する薬は禁忌となることがあります。
抗コリン作用を有する鎮咳薬には、リン酸コデインがあります。ただ、メジコンは抗コリン作用を有さないので、緑内障や前立腺肥大の人であっても活用できるのです。
メジコンと併用できる薬
メジコンは咳に関する薬であり、多用されます。このとき、以下の薬と併用ができます。
○抗菌薬
ペングッド錠(一般名:バカンピシリン)、サワシリン(一般名:アモキシシリン)、セフゾン(一般名:セフジニル)、メイアクトMS(一般名:セフジトレンピボキシル)、クラリス・クラリシッド(一般名:クラリスロマイシン)、ビブラマイシン(一般名:ドキシサイクリン)、ザイボックス(一般名:リネゾリド)、クラビット(一般名:レボフロキサシン)など
○鎮痛薬
カロナール(一般名:アセトアミノフェン)、PL配合顆粒(一般名:サリチルアミド、アセトアミノフェン、無水カフェイン、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩配合顆粒)、ポンタール(一般名:メフェナム酸)、ボルタレン(一般名:ジクロフェナクナトリウム)、ブルフェン(一般名:イブプロフェン)、ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、ソランタール(一般名:チアラミド)、バファリン配合錠(一般名:アスピリン)
○抗アレルギー薬
アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)、ディレグラ(一般名:フェキソフェナジン・プソイドエフェドリン)、アレジオン(一般名:エピナスチン)、ザイザル(一般名:レボセチリジン)、アレロック(一般名:オロパタジン)、クラリチン(一般名:ロラタジン)、ゼスラン(一般名:メキタジン)、レスタミンコーワ(一般名:ジフェンヒドラミン)、ポララミン(一般名:d-クロルフェニラミン)、ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)
○女性ホルモン製剤
ピル:卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤(プラノバール・ルナベル)、ディナゲスト(一般名:ジエノゲスト)
○胃腸機能や消化器の薬
ナウゼリン(一般名:ドンペリドン)、ムコスタ(一般名:レバミピド)、セルベックス(一般名:テプレノン)、ビオフェルミン(ラクトミン製剤)
○風邪症状に活用することのある漢方薬
葛根湯、麦門冬湯
○睡眠薬・抗不安薬
ソラナックス(一般名:アルプラゾラム)、マイスリー(一般名:ゾルピデム)、レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
メジコンと他の気管支拡張薬・鎮咳薬との飲み合わせ
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)はオノン(一般名:プランルカスト)やキプレス・シングレア(一般名:モンテルカスト)、ホクナリン(一般名:ツロブテロール)、メプチン(一般名:プロカテロール)、テオドール(一般名:テオフィリン)、スピロペント(一般名:クレンブテロール)などの気管支拡張薬と医師の指示のもと、併用することがあります。
また、メジコンは抗インフルエンザ薬イナビル(一般名:ラニナミビル)やリレンザ(一般名:ザナミビル)を使用中にも服用できます。インフルエンザ予防接種の前にメジコンを服用するのも問題ありません。
さらに、中耳炎の時やマイコプラズマのときにもメジコンは服用できます。風邪のときにムコダイン(一般名:カルボシステイン)やムコソルバン(一般名:アンブロキソール)、トランサミン(一般名:トラネキサム酸)と併用することも問題ありません。
メジコンと似た作用を持つ薬にアストミン(一般名:ジメモルファン)があります。アストミンはメジコンと作用がほぼ同じなので、基本的には併用することがありません。また、アストミンとメジコンの効果の強さを比較した調査において、「アストミンの方が効果は強いという報告」があります。
また同様にレスプレン(一般名:エプラジノン)やリン酸コデインも基本的にメジコンとは併用しません。
メジコンの高齢者への使用
高齢者では代謝機能が落ちてしまいますが、メジコンを使用することができます。場合によって、減量の検討が必要になることがあります。
メジコンの小児(子供)への使用
メジコンには散剤10%(100mg/g)と配合シロップ(1mlにつきデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物2.5mg、クレゾールスルホン酸カリウム15mgを含有)があります。子供に対しては、錠剤ではなくこれら散剤や配合シロップを活用していきます。
散剤には小児用量の設定がされていませんが、シロップは生後3か月の赤ちゃんから用量が設定されています。
小児は、8~14歳で1日9~16ml、生後3か月~7歳で1日3~8mlを3~4回に分け経口投与します。症状によって量が増減することがあります。
メジコンの妊婦・授乳婦への使用
妊娠中の人に対してメジコンは「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」とあります。
ただ、メジコンは妊娠中の人に安全性の高い薬といわれています。実際、妊娠に関する調査では、メジコンを服用しても催奇形性や流産率、死産率などに影響がないということが報告されています。そのため、医師の診断で必要と判断されれば飲むことができます。
授乳婦についてもメジコンは安全性が非常に高く、有害事象が発生した報告はありません。また、メジコンは赤ちゃんを含め小児にも適応を持つので、薬が移行したとしても問題にならないと考えられています。
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)の効果発現時間
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)を服用後、メジコン錠15mgとメジコン散10%の血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高値に達するまで2.1~2.6時間ほどかかります。また、半減期(薬の濃度が半分になる時間)は3.2~3.6時間くらいといわれています。
また、メジコン配合シロップの血中濃度が最高値に達するのは服用後2時間ほどであり、半減期は3.3時間くらいです。
したがって、メジコン錠15mgやメジコン散10%、メジコン配合シロップは2時間程度で効き目を感じられ、12時間もすれば体内から有効成分の大部分が消失します。効き目に関しては4~5時間程度で感じられなくなると考えられるので、1日3~4回で服用すると薬の効果が持続するようになります。
メジコンの取り扱い
メジコン配合シロップは湿気を避け室温(1~30℃)で保管します。光で変色するため、使用の都度密栓し冷蔵庫など暗所で保管します
メジコンの錠剤や散剤については、直射日光や湿気を避け室温(1~30℃)で保管します。
メジコンと市販薬
現在、メジコンの主成分であるデキストロメトフルファンだけが含まれたOTCはありません。
しかし、デキストロメトルファンが「解熱作用成分等」と記載された市販薬は多数存在しますし、同じ系統の咳止めが含有されていることもあります。そのため、市販の風邪薬とメジコンとの併用を考えるとき、そのつど薬剤師に相談すると安全です。
以下に、デキスロメトルファン含有の市販薬の具体例を記します。
・新コンタック風邪🄬総合
(アセトアミノフェン、無水カフェイン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、ブロムヘキシン塩酸塩、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 含有)
・ルルアタックFX
(麻黄エキス、アセトアミノフェン、ケイヒ末、クレマスチンフマル酸塩、カンゾウエキス、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、グアイフェネシン、無水カフェイン、ニンジン軟エキス、ベンフォチアミン 含有)
メジコンの後発医薬品
メジコン(一般名:デキストロメトルファン)には後発医薬品(ジェネリック医薬品)も発売されています。メジコン自体は安価な薬ですが、さらに安く薬を手にすることができるのです。
ジェネリック医薬品では一般名が活用され、デキストロメトルファン臭化水素酸塩錠15mg「メーカー名」、デキストロメトルファン臭化水素酸塩散10%「メーカー名」などの商品名になります。また、メジコンのジェネリック医薬品では、後発医薬品独自のブランド名のケースもあります。
鎮咳薬使用上の注意
メジコン錠15mg含め、鎮咳薬は全ての咳に効くわけではありません。喘息や逆流性食道炎、副鼻腔炎などの疾患が原因で咳が出ている場合には病気の根本的な治療を行う必要があります。例えば、逆流性食道炎が原因で咳が出ている場合には、胃酸の分泌を抑える薬を用いて治療します。
咳は元来、気道内の痰や異物を気道から出そうとするための防御反応です。
咳が長引いているとき、漫然とメジコンのような中枢性鎮咳薬を使用することは生体に必要な防御反応を阻害してしまう可能性があります。なぜなら、咳で体から異物を出そうとする反応を阻害することで、異物が体に留まり体の不調を長引かせてしまうからです。
したがって、長引く咳に対して、漫然と中枢性鎮咳薬を使用し続けることは避けるべきです。
このように、さまざまな咳症状に対してメジコン(一般名:デキスロメトルファン)が活用されます。子供や妊婦を含め、幅広い人に活用できる薬がメジコンです。
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