ムコダイン(カルボシステイン)の作用機序:去痰薬
風邪を引いたときなど、病気で痰がからむことはよくあります。肺や気管支からの分泌された物質が痰です。気管支に炎症が起こるなどすると、多くの分泌物が放出されます。その結果、のどから痰が排出されます。
そこで、痰の排泄を促す薬としてムコダイン(一般名:カルボシステイン)があります。痰を排除するため、ムコダインは去痰薬と呼ばれます。
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の作用機序
私たちの体は、異物が体内に侵入してこないようなシステムがあります。例えば、鼻毛は外からホコリが入ってこないように、からめ取る役割があります。このような「毛」が存在することにより、異物の排出が可能になるのです。
これと同じように、気道や鼻、耳では細かい毛のような細胞が存在します。これを、線毛細胞といいます。線毛細胞が存在することにより、異物が侵入したときに粘液として排泄できます。
ただ、痰や鼻水などの粘液によって異物を排出するにしても、これらの粘液が柔らかく排泄しやすくなった方が好都合です。そこで、薬によって粘液の構成成分を改善させます。
より詳しくいうと、粘液にはムチンという粘り成分が含まれており、ムチンにはフコースやシアル酸と呼ばれる物質が含まれています。これらムチン成分のうち、フコースの量が減ると粘液はサラサラになりやすいです。
そこで、ムコダイン(一般名:カルボシステイン)がムチンを生み出す細胞に働きかけ、フコースの量を少なくさせ、サラサラの痰になるようにします。こうして、痰が絡む状態を改善するようにします。
これによって粘膜の働きが正常になり、線毛細胞の運動が良くなることで「痰の排泄」「鼻水の排泄」「中耳炎による貯留液の排泄」を促すことができます。同じ粘液であっても痰だけでなく、副鼻腔の膿や滲出性中耳炎の排液にも関与するのです。
このような考えにより、粘液のバランスを整えることで痰などの分泌液の排泄を促進させる薬がムコダイン(一般名:カルボシステイン)です。難しい言葉でカルボシステインの作用機序を表現すると、「シアル酸とフコースの構成比を正常化させる」となります。
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の特徴
副作用がほとんどない、安全性の高い薬がカルボシステイン(商品名:ムコダイン)です。粘液のバランスを調節するため、風邪を引いたときは比較的高い確率で処方されます。
呼吸器疾患(風邪など)による痰や鼻水の排泄を促すだけでなく、副鼻腔炎による「膿(うみ)の排除」や中耳炎による「貯留液の排泄」にも用いられます。障害された副鼻腔粘膜や中耳粘膜の修復を促すことで、病気の改善を促進させます。
そのため、ムコダイン(一般名:カルボシステイン)は耳鼻咽喉科や小児科でも多用されます。錠剤の他にも、シロップやドライシップなどさまざまな剤形から薬を選択できます。
このような特徴により、粘液が排泄されやすいように正常化させ、病気の改善を促す薬がムコダイン(一般名:カルボシステイン)です。
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の効能効果・用法用量
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の適応症としては、上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核による去痰があります。風邪症状や気管支喘息を含め、あらゆる症状の去痰に活用されます。
また、鼻詰まりがずっと続く症状として慢性副鼻腔炎があり、この症状の排膿でムコダインが活用されます。
用法用量としては、成人では1回500mgを1日3回投与します。特に理由がない場合は食後に服用しますが、食前や空腹時(食間)に服用しても問題ありません。
ムコダイン250mgと500mgがあり、症状に合わせて活用していきます。小児(子供)の場合は250mgを活用することがあれば、赤ちゃん(新生児)や幼児などではシロップ5%やドライシロップ(DS)50%を用いることがあります。シロップ5%には「滲出性中耳炎の排液」の適応もあります。
なお、ムコダイン(一般名:カルボシステイン)を一包化したり粉砕したりするのも問題ありません。わずかに酸味を感じる可能性があるものの、安定性は大丈夫です。
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の副作用
安全性の高い薬であり、ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の副作用はほとんどありません。ただ、まったく副作用がないというわけではなく、主な副作用としては食欲不振、下痢、腹痛、発疹などがあります。
その他、頻度は低いものの悪心・嘔吐、腹部膨満感、口渇、浮腫、発熱、呼吸困難、かゆみなどが知られています。
重大な副作用もあり、ほとんど心配は必要ないものの皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症、肝機能障害、黄疸、ショック、アナフィラキシー様症状(呼吸困難、浮腫、蕁麻疹など)が報告されています。
なお、ムコダインに催眠作用(眠気)や鎮痛作用、呼吸抑制などの働きはないことが確認されています。
小児(子供)への使用
小児に対して、ムコダイン(一般名:カルボシステイン)は多用される薬の一つです。赤ちゃん(新生児)や幼児、小児を含め子供に対して広く活用されます。
このとき、小児薬用量としては「1日30mg/kg」を3回に分けて服用します。ムコダインではシロップ5%(50mg/mL)とドライシロップ(DS)50%(500mg/g)があり、赤ちゃんや幼児など用量調節が必要な場合はこれらの製剤を活用します。
高齢者・妊婦・授乳婦への使用
高齢者では代謝機能が落ちてしまいますが、風邪のときを含めムコダイン(一般名:カルボシステイン)はかなり活用されます。ただ、場合によっては減量の検討が必要になることがあります。
また、妊娠中の方に対して、「妊娠中の投与に関する安全性は確立していない」とありますが、実際のところ副鼻腔炎を含め風邪に対して広くムコダインが活用されます。妊娠初期や妊娠中期、妊娠後期のどの段階でムコダインを飲んでも胎児に影響はありません。
授乳婦についても同様であり、ムコダインを飲んでも大丈夫です。赤ちゃん(新生児)であってもムコダインを処方されることを考えると、母乳中にムコダインが移行しても大きな問題にはならないのです。授乳婦でも安心して服用できる薬がムコダインです。
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の効果発現時間
ムコダインを服用した後、どれくらいの時間で効果が表れてくるのでしょうか。ムコダインでは血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高値に達するまで2.3時間かかります。また、半減期(薬の濃度が半分になる時間)は1.6時間です。
そのため、服用して1~2時間ほどで効果を示すようになり、5~6時間ほどで薬としての効果が消失していきます。そこで1日3回服用すれば、薬の効果が持続するようになります。
ただ、ムコダインは劇的に効果を示す薬ではないです。また、粘膜の構成成分を変えるときは「ムチン」を生み出す細胞に働きかけなければいけません。粘液構成を変化させることから、効果を実感するまでに時間が必要になることがあります。
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の飲み合わせ
アレルギー性鼻炎(花粉症)や咳症状など幅広く活用されるムコダインですが、あくまでも痰切りの薬であり、去痰作用だけを期待できます。鼻水や頭痛などには効果がありません。
むしろ、鼻水についてはムコダインによってサラサラになるため、鼻水が増えます。これは、考え方によっては「鼻詰まりが解消される」ということでもあります。
ただ、インフルエンザなどのウイルス疾患や気管支ぜんそくなどを含め、痰がからむ場合はあらゆる場面で活用されます。
そして、ムコダインは去痰薬なので他の多くの薬と併用されます。ムコダインでは基本的に飲み合わせがなく、どの薬と併用しても問題ないと考えればいいです。例えば、以下のような薬と併用しても大丈夫です。
解熱鎮痛剤:発熱時の解熱や咳によるのどの痛み、頭痛の緩和に使用
ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)、カロナール(一般名:アセトアミノフェン)、バファリン (一般名:アスピリン、ダイアルミネート)
抗生物質・抗菌薬:蓄膿症、副鼻腔炎、中耳炎、上咽頭炎、扁桃腺炎など
クラビット(一般名:レボフロキサシン)、グレースビット(一般名:シタフロキサシン)、クラリス・クラリシッド(一般名:クラリスロマイシン)、フロモックス(一般名:セフカペン)、メイアクト(一般名:セフジトレン)、エリスロシン(一般名:エリスロマイシン)
咳止め(鎮咳薬):咳症状を鎮める
アスベリン(一般名:チペピジン)、メジコン(一般名:デキストロメトルファン)、フスコデ配合錠、リン酸コデイン
抗ヒスタミン薬:アレルギー性鼻炎(花粉症)などで活用される
アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)、アレロック(一般名:オロパタジン)、エバステル(一般名:エバスチン)、ジルテック(一般名:セチリジン)、タリオン(一般名:ベポタスチン)、ザイザル(一般名:レボセチリジン)、ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)、レスタミン(一般名:ジフェンヒドラミン)
※眠気の副作用が表れた場合、多くは抗ヒスタミン薬によるものです。
抗アレルギー薬:ぜんそく、アレルギー性鼻炎によるくしゃみや鼻水、鼻づまりを抑えるために使用
オノン(一般名:プランルカスト)、シングレア・キプレス(一般名:モンテルカスト)
気管支拡張剤:気道を広げ、咳を鎮めたり呼吸しやすくしたりする
メプチン(一般名:プロカテロール)、ホクナリン(一般名:ツロブテロール)
吐き気止め:発熱の具合や症状によっては吐き気を伴う
ナウゼリン(一般名:ドンペリドン)、プリンペラン(一般名:メトクロプラミド)
抗ウイルス薬:抗インフルエンザ薬の使用
タミフル(一般名:オセルタミビル)、イナビル(一般名:ラニナミビル)、リレンザ(一般名:ザナミビル)
整腸剤:腸内細菌のバランスを整え、嘔吐や下痢などの消化器症状を改善
ビオフェルミン、ビオスリー、ミヤBM
漢方薬:風邪症状に漢方薬を活用することがある
葛根湯、麦門冬湯、小青竜湯、麻黄湯
また、炎症を抑えることでのどの痛みを和らげるトランサミン(一般名:トラネキサム酸)、エンピナース(一般名:プロナーゼ)、ノイチーム(一般名:塩化リゾチーム)を活用することがあります。
場合によってはステロイド剤プレドニン(一般名:プレドニゾロン)とムコダインを併用することもあり、これについても飲み合わせはありません。
その他の去痰薬
ムコダイン(一般名:カルボシステイン)の他にも、去痰薬にはムコソルバン(一般名:アンブロキソール)やビソルボン(一般名:ブロムヘキシン)などが知られています。これらにはどのような違いがあるのでしょうか。
前述の通り、ムコダインでは粘液成分の構成を変化させます。これにより、痰を出しやすくさせます。
一方でムコソルバン(一般名:アンブロキソール)では、気道に存在する線毛(異物を外へ排出するための毛)を活発にさせたり、気道の滑りをよくさせる「サーファクタント」という物質の分泌を促したりします。
また、ビソルボン(一般名:ブロムヘキシン)では粘り成分であるムチンを分解する働きがあります。リソソームという酵素の量を増やし、この酵素がムチンを分解して粘り気を少なくさせるのです。
こうした作用機序の違いがあるため、ムコダインとムコソルバン、ビソルボンを併用することがあります。
また、ムコダインと非常によく似た薬としてクリアナール(一般名:フドステイン)があります。ムコダインの方が有名ですが、クリアナールも去痰薬として活用されます。
風邪症状を含め、副作用が少ない薬としてムコダイン(一般名:カルボシステイン)は多くの人に活用されます。少なくとも、誰もが一度は服用したことのある薬だといえます。ジェネリック医薬品(後発医薬品)もあり、去痰薬として広く服用されています。
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