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役に立つ薬の情報~専門薬学

アダラート(ニフェジピン)の作用機序:高血圧治療薬

 

高血圧では血管に高い圧がかかるため、血管に大きなストレスをかけてしまいます。これによって血管がボロボロになり、脳卒中や心筋梗塞などの合併症を引き起こしてしまいます。

 

また、高血圧などによって動脈硬化が進むと心臓に栄養を送るための血管が細くなり、心臓の細胞に十分な栄養が供給されなくなることがあります。これによって胸に激痛が起こりますが、この病気を狭心症と呼びます。

 

そこで、これら高血圧(本態性高血圧症、腎性高血圧症)や狭心症を治療する薬としてアダラート(一般名:ニフェジピン)が使用されます。ニフェジピンはカルシウム拮抗薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)の作用機序

 

カルシウムと血管には密接な関係があります。カルシウムは骨の成分として有名であり、99%は骨に存在しています。そして、残りの1%のカルシウムは脳の記憶や運動機能の調節など生理作用に欠かせない働きをします。

 

そして、血管の収縮にもカルシウムが関与しています。血管にはカルシウムが流入するための受容体が存在しており、カルシウムが入ってくることで血管が縮まります。血管が収縮するため、高血圧患者ではその分だけ血圧が高まってしまいます。つまり、高血圧の症状が悪化します。

 

同じように、心臓に栄養を送る血管が細くなっている狭心症患者では、血管が収縮するとより血液の流れが悪くなってしまいます。その結果、狭心症の症状が悪くなります。

 

そこで、この逆の作用を行えば病気を治療できます。カルシウムが流入するための受容体を阻害すれば、血管収縮が抑えられて血管が拡張するようになります。その結果、血圧が下がるために高血圧を治療し、血液のめぐりが改善されるために狭心症を改善できます。

 

カルシウム拮抗薬の作用機序

 

このように、カルシウムが流入する受容体を阻害する事で血管を拡張させ、高血圧や狭心症を治療する薬がアダラート(一般名:ニフェジピン)です。カルシウムの作用に拮抗するため、この種類の薬をカルシウム拮抗薬と呼びます。

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)による開発の歴史

 

カルシウム拮抗薬は脳や心臓、腎臓など全身の血管を拡張させるため、強力に血圧を下げることができます。

 

その中でも、アダラート(一般名:ニフェジピン)は特に心臓に栄養を送るための血管(冠動脈)に対して高い選択性を示します。そのため、発売当初は狭心症の治療薬として開発され、使用されてきました。

 

最初に販売された薬はアダラートカプセルです。カプセルの中が溶液状になっている軟カプセルであり、薬を飲んですぐに効果を示すという特徴があります。狭心症の発作が起こったときであっても素早く効果を示します。

 

ただし、アダラートカプセルを服用した後に急激に血液中の薬物濃度が上昇すると、血管を拡張させる作用のために顔面潮紅や頭痛などの副作用が表れやすくなります。

 

そこで、それまでの副作用を軽減し、1日の服用回数を少なくさせた薬(1日2回)としてアダラートLが開発されました。薬の有効成分をゆっくり放出させることにより、副作用を回避させながら薬の効果を得ることができます。

 

アダラートLの登場により、血中濃度(血液中の薬物濃度)が急激に上昇するのを抑えられるだけでなく、その効果が長く持続することによって薬の服用回数を減らすことができました。

 

ここからさらに副作用を軽減し、血圧降下作用を穏やかにし、1日1回の服用で済むように改良した薬としてアダラートCRが開発されました。これにより、24時間にわたって薬の効果を持続させることに成功しました。

 

アダラートLに比べて、アダラートCRはさらに血中濃度の立ち上がりが遅くなり、副作用の回避と穏やかな薬の作用を実現しています。ちなみに、アダラートCRについては錠剤を小さくしたスモール錠が発売されるなど、飲みやすくするための剤型変更も行われています。

 

このように何度も薬を改良していき、より服用しやすい剤形を目指すことで高血圧や狭心症の治療に貢献してきた薬がアダラート(一般名:ニフェジピン)です。

 

アダラートにはアダラートカプセル、アダラートL、アダラートCRと多くの種類があります。それぞれ、どのような違いがあるのかについては、こうしたアダラート開発の歴史をみることで確認できます。

 

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)の効能効果・用法用量

 

高血圧や狭心症などに活用されるアダラートですが、実際に服用するときはどのようにすればいいのでしょうか。これについては、それぞれの剤型によって異なります。

 

・アダラートカプセル

 

アダラートカプセルを服用する場合、1回10mgを1日3回経口投与します。つまり、1日合計30mgの服用です。

 

ただ、年齢や体重、症状などに応じて服用量を変える必要があります。アダラートカプセルには5mgと10mgがあるため、それぞれの症状に合わせて使用していきます。

 

なお、前述の通り軟カプセルであるため、脱カプセル(カプセルを外して中身を出すこと)はできません。

 

・アダラートL

 

アダラートLの場合、高血圧患者では1回10~20mgを1日2回服用します。一方で狭心症であると、1回20mgを1日2回服用します。

 

・アダラートCR

 

高血圧患者に対してアダラートCRを用いるとき、1日1回10~20mgを投与するところから始めます。その後、症状に合わせて1日1回20~40mgを投与します。

 

狭心症では1日1回40mgの投与です。症状が改善しない場合、1日1回60mgまで投与可能です。

 

ちなみに、アダラートカプセルでは空腹時よりも、食後に投与した方が血中濃度の立ち上がりが遅いです。これは薬がゆっくり吸収されることを意味します。一方でアダラートCRになると、空腹時でも食後でも血中濃度に変わりはありません。

 

また、アダラートLからアダラートCRへ切り替える場合、「アダラートL20mgを1日2回服用していた人は、アダラートCR40mgを1日1回にする」など、薬物量と作用時間を考慮しながら行います。

 

頓服によるアダラートの使用

 

アダラートLとアダラートCRの違いをみたとき、このように服用方法が異なります。そして、他にもあるとしたら「アダラートの頓服使用」です。

 

血圧が高いとき、医師によっては稀にアダラートを頓服で処方することがあります。アダラートカプセルでは急激な降圧作用を得られるものの、反動を生じる危険性があります。そこで、即効性を求めるにしてもアダラートLが頓服使用されます。

 

アダラートCRは1日1回で効果が持続し、徐々に作用が表れる薬なので頓服での使用はありません。

 

 

高齢者への使用

 

高齢者に対して、一般的に過度の血圧低下は好ましくありません。そのため、最初は低用量(アダラートCRを1日10mgから始めるなど)で薬をスタートさせる必要があります。急激な血圧低下は脳梗塞を引き起こすリスクになるため、慎重投与が必要になります。

 

ただ、アダラート(一般名:ニフェジピン)は高齢者や合併症がいくつもある人など、多くの人に活用されます。投与量は調節する必要があるものの、高血圧患者や狭心症患者で服用している人は多いです。

 

小児(子供)、妊婦・授乳婦への使用

 

小児に対してのアダラート(一般名:ニフェジピン)はほとんど活用されません。「0.25~0.5mg/kg/回」の投与で有効だとされる報告はあるものの、子供への使用は推奨されていません。

 

一方で妊婦はどうかというと、妊娠20週未満の方や妊娠する可能性のある人は投与禁忌となっています。動物実験でアダラートを確認したところ、妊娠初期で催奇形性(胎児に奇形をもたらす作用)や胎児毒性が確認されているからです。

 

ただ、妊娠20週以降であれば薬による胎児への影響は少なくなります。この場合、治療することの有益性が高いと判断された場合のみアダラートが活用されます。

 

このときは過度の血圧低下や胎児胎盤循環への悪影響を回避するため、アダラートカプセルではなくアダラートLやアダラートCRなど長時間作用型の薬を活用する必要があります。

 

授乳婦について、母乳中へアダラート(一般名:ニフェジピン)が移行することが分かっています。そのため、添付文章には「アダラート服用中の授乳婦は授乳を中止する必要がある」とされています。

 

しかし、実際には母乳中へのアダラートの移行は少なく、「授乳が可能と考えられる降圧薬」として産後の授乳婦であっても問題なく活用できるのが現状です。

 

ちなみに、切迫早産の治療薬としてアダラート(一般名:ニフェジピン)を活用することがあります。子宮筋の収縮を抑制することで分娩を遅らせる作用があるため、これを切迫早産の治療に活用したのです。妊娠中にお腹の張りを感じたとき、子宮収縮抑制のために用いられます。

 

アダラートカプセルの舌下投与

 

特に血圧が高いことによる不都合な病気としては、高血圧緊急症があります。高血圧緊急症としては高血圧性脳症、妊娠高血圧腎症などが知られています。

 

こうしたとき、ニフェジピンカプセルをかみ砕き、有効成分を舌の下から吸収させる「舌下投与」がかつて行われていました。薬の有効成分が急速に体内へ吸収され、結果として血圧を急降下させることができます。

 

ただ、過度の降圧や反射性頻脈をもたらすことがあるため、現在ではアダラートカプセルを用いた舌下投与は禁忌となっています。

 

なお、アダラートではカプセルやL錠、CR錠を含めかみ砕いたり粉砕したりするのは禁止です。カプセルではかみ砕いての舌下投与や飲み込みは禁止されていますし、L錠やCR錠を粉砕すると「薬がゆっくり溶け出す製剤工夫」が壊されるため、薬が急速に吸収されて副作用がもたらされます。

 

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)の副作用

 

アダラートは血管を拡張させる作用がメインであるため、それに伴う副作用が多いです。主な副作用には頭痛・頭重感、顔面潮紅・顔のほてり、動悸、めまいがあります。

 

脳の血管が拡張されると、それに伴って神経が圧迫されて頭痛を生じます。また、顔面の血管が広がると紅潮・ほてりにつながります。血管が広がって血圧が下がると、心臓にとってはその分だけ血液を全身に送りにくくなるため、頑張って血液を送るために動悸を生じるようになるのです。さらに、脳の血液が足りないとめまいを引き起こします。

 

このような副作用の他には、熱感・のぼせ、ふらつき、血圧低下、起立性低血圧、浮腫(下肢,顔面などのむくみ)、胸部痛、頻脈、頻尿、発汗、悪寒、便秘、じんましん、歯肉肥厚などが知られています。

 

精神面の副作用には倦怠感、うつ症状、眠気、不眠、脱力感、四肢しびれ感などがあります。

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)の飲み合わせ

 

薬同士の飲み合わせについて、アダラート(一般名:ニフェジピン)には併用禁忌の薬はありません。ただ、併用注意の薬は存在します。

 

まず、他の降圧剤と併用すると相互に血圧低下を招く恐れがあります。ただ、うまく血圧をコントロールできなかったり、狭心症の症状を抑えることができなかったりする場合は他の降圧剤と併用することがよくあります。

 

他には、肝臓の代謝酵素が問題になりやすいです。アダラート(一般名:ニフェジピン)は肝臓の代謝酵素CYP3A4と呼ばれる酵素によって代謝・不活性化されます。そのため、肝代謝酵素CYP3A4へ影響する薬との併用は注意が必要です。

 

例えば、イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)やジフルカン(一般名:フルコナゾール)などのトリアゾール系抗真菌剤はCYP3A4を阻害します。また、HIV治療薬であるノービア(一般名:リトナビル)、インビラーゼ(一般名:サキナビル)などはCYP3A4によって代謝される薬です。

 

これらの薬と併用すると、アダラート(一般名:ニフェジピン)が代謝・不活性化されにくくなって副作用が表れやすくなります。

 

また、免疫抑制剤であるプログラフ(一般名:タクロリムス)と併用すると、プログラフの血中濃度が上昇して副作用が表れやすくなります。プログラフもアダラートと同様にCYP3A4によって代謝されるため、代謝酵素を奪い合ってしまうのです。

 

なお、飲み合わせで有名な食品としてグレープフルーツジュースがあります。グレープフルーツジュースはCYP3A4を阻害するため、アダラート(一般名:ニフェジピン)の血中濃度を上昇させて薬の副作用を引き起こしやすくさせます。

 

さらに、胃薬として知られるタガメット(一般名:シメチジン)と併用すると、シメチジンの作用によって肝血流量が低下し、結果としてアダラートの作用が強まることがあります。

 

アルコール(お酒)については、動悸やめまいなどの副作用を強める恐れがあります。

 

他には、アダラート(一般名:ニフェジピン)の作用が弱まってしまうこともあります。抗生物質リファジン(一般名:リファンピシン)、抗てんかん薬アレビアチン・ヒダントール(一般名:フェニトイン)、抗てんかん薬テグレトール(一般名:カルバマゼピン)などはCYP3A4の量を増やすことが知られています。

 

代謝・不活性化に関わる酵素の量が増えるため、結果としてアダラート(一般名:ニフェジピン)の分解が素早く進んでしまい、薬としての効果が減弱しやすくなります。

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)のほとんどは肝臓での代謝が関与しており、腎臓は関わりません。そのため、このように相互作用(飲み合わせ)に注意が必要です。

 

その代わり、腎機能不全患者であったり人工透析が必要であったりする人であっても、アダラート(一般名:ニフェジピン)では投与量の調節が必要なく使用できます。

 

アダラート(一般名:ニフェジピン)と他剤との違い

 

カルシウム拮抗薬に分類されるアダラート(一般名:ニフェジピン)ですが、カルシウム拮抗薬には他にも種類があります。例えば、ノルバスク・アムロジン(一般名:アムロジピン)やアテレック(一般名:シルニジピン)、コニール(一般名:ベニジピン)などです。

 

薬によって狭心症に活用できたり、腎血管性高血圧症へ使用できたりとそれぞれ適応は異なりますが、降圧剤として血圧を下げるという意味ではどれも同じです。

 

これらの薬は作用機序の異なる降圧剤と頻繁に併用されます。例えば、ARB(アンジオテンシン2受容体阻害薬)という種類の薬にディオバン(一般名:バルサルタン)やブロプレス(一般名:カンデサルタン)などがあり、よく併用されます。

 

高血圧では他にも糖尿病などの他の病気を合併していることは多いですが、こうした他の薬とも併用で活用されます。

 

カルシウム拮抗薬同士の併用

 

なお、中にはカルシウム拮抗薬同士を併用することがあります。同じ作用機序の薬を併用することがあるのは理由があります。

 

「作用機序」の項目で説明したカルシウムチャネル(カルシウムが流入するための受容体)には、いくつもの種類があります。これにはL型、N型、T型が存在します。

 

例えば、同じカルシウム拮抗薬であってもアダラート(一般名:ニフェジピン)やノルバスク・アムロジン(一般名:アムロジピン)はL型のカルシウム拮抗薬です。一方でコニール(一般名:ベニジピン)はL型、N型、T型それぞれのカルシウムチャネルを阻害します。

 

こうした違いがあるため、例えば「アダラートとコニールを併用する」などによって、より優れた降圧効果を期待することがあります。

 

このように、高血圧(本態性高血圧症、腎性高血圧症)や狭心症に対して広く活用される薬がアダラート(一般名:ニフェジピン)です。現在ではアダラートLやアダラートCRが主に活用されています。

 

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