ルセンティス(ラニビズマブ)の作用機序:網膜障害治療薬
視力障害を引き起こすことで失明に至る病気としては緑内障や糖尿病網膜症などが有名です。
その他にも、加齢黄斑変性(AMD)や網膜静脈閉塞症(RVO)などが知られており、これら治療の難しい病気に対しても対処が必要になります。
そこで、加齢黄斑変性(AMD)や網膜静脈閉塞症(RVO)、病的近視などの治療に使用される薬としてラニビズマブ(商品名:ルセンティス)が知られています。ラニビズマブはVEGF阻害薬と呼ばれる種類の薬になります。
ラニビズマブ(商品名:ルセンティス)の作用機序
・加齢黄斑変性の治療(AMD)
加齢に伴って網膜黄斑部という場所に異常が生じる病気を加齢黄斑変性といいます。加齢黄斑変性では、重度の視力障害を伴います。
加齢黄斑変性は主に2種類に分けることができ、眼球壁の薄膜に新しく血管が作られる「滲出型」と血管は作られずに視神経の細胞に萎縮が起こる「萎縮型」があります。滲出型の加齢黄斑変性は特に進行が早いことで知られています。
目に新しく血管が作られることの何がいけないかと言うと、それはこの時に作られる血管が脆弱であることにあります。脆い血管であるため、すぐに出血することで目に悪影響を与えてしまうのです。
このような、「新しく血管を作るように働く物質」としてVEGF(血管内皮増殖因子)が知られています。滲出型の加齢黄斑変性を発症している方では、VEGFが多量に放出されています。
これを治療するためには、VEGFの働きを無効化すれば良いことが分かります。そこで抗体が利用されます。抗体は感染症を発症したときなどに作られる物質です。抗体は病原微生物などに結合し、無効化させる作用があります。
ただ、抗体は病原微生物だけでなく、その構造を変えることによって生体内のあらゆる物質と結合できるようになります。この性質を応用し、VEGFに対して結合できるようにした抗体を作成し、VEGFの働きを阻害するのです。
このような考えにより、VEGFの働きを抑制することで新しく血管が作られないようにし、滲出型の加齢黄斑変性を治療する薬がラニビズマブ(商品名:ルセンティス)です。VEGFを阻害するため、VEGF阻害薬と呼ばれます。
・網膜静脈閉塞症(RVO)
VEGFによって発症する疾患は他にも存在します。その中の1つとして網膜静脈閉塞症があります。網膜静脈閉塞症では、網膜を流れる静脈が閉塞してしまい、これによって網膜が低酸素状態に陥ってしまいます。
低酸素状態では、そこに酸素を送り届けるための対策が必要になります。そこで新たな血管を作る過程に関与するVEGFが誘発されます。
VEGFは細胞と細胞の間を広げることにより、物質の行き来をしやすくする作用も知られています。これを専門用語で透過性の亢進といいます。この作用により、水などが組織へ移動することによって浮腫が起こります。
網膜静脈閉塞症では、VEGFの作用によって網膜に浮腫が引き起こされ、これが原因で大幅な視力低下に繋がってしまうのです。そこでラニビズマブ(商品名:ルセンティス)はVEGFの作用を阻害し、網膜静脈閉塞症による視力低下を防ぐのです。
ラニビズマブ(商品名:ルセンティス)の特徴
VEGFの阻害により、新しく血管が作られる過程や血管での透過性の亢進を抑制することで加齢黄斑変性(AMD)、網膜静脈閉塞症(RVO)、病的近視を治療する薬がラニビズマブ(商品名:ルセンティス)です。糖尿病黄斑浮腫など、幅広い眼疾患に用いられます。
ラニビズマブ(商品名:ルセンティス)の投与によって視機能を改善させる作用が知られています。加齢黄斑変性の臨床試験では投与6ヶ月後に平均して9.0文字の改善が認められています。さらに6ヶ月の追加投与では、改善効果は平均10.5文字でした。
なお、主な副作用としては眼圧上昇(9.1%)、視力低下(3.4%)、眼痛(3.4%)、網膜出血(2.3%)、一過性の視力低下(2.3%)などが知られています。
このような特徴により、「VEGFが関わることで視力低下を引き起こす病気」の治療に使用される薬がラニビズマブ(商品名:ルセンティス)です。
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