デパケン、セレニカ(バルプロ酸ナトリウム)の作用機序:抗てんかん薬
脳の神経伝達に異常が起こることにより、けいれんや意識消失などの症状が表れる病気として「てんかん」が知られています。3歳以下の発病が最も多く、全体のうち80%は18歳以前に発症すると言われています。
そこで、てんかん発作を予防するために用いられる薬としてバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)があります。バルプロ酸ナトリウムはGABAトランスアミナーゼ阻害薬と呼ばれる種類の薬になります。
バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)の作用機序
脳は神経細胞が集積している器官です。ここでは、神経細胞が興奮することによって、信号が伝達していきます。しかし、神経細胞に異常な興奮が起こることにより、てんかん発作を引き起こすことがあります。これらてんかんの発症には、イオンの動きが関与しています。
神経の興奮伝達に関わるイオンとしてはNa+、Ca2+、Cl-などが知られてます。Na+、Ca2+は興奮性のシグナルであり、Cl-は抑制性のシグナルです。
通常、細胞内はマイナスの電荷を帯びています。ここに神経興奮のシグナルが来ると、Na+が細胞内へ流入します。プラスの電荷を帯びているNa+が入ってくるため、それまでマイナスの電荷を帯びていた細胞内はプラスの電荷へと転換します。この現象を専門用語で脱分極と呼びます。
このような変化が合図となり、神経の興奮が伝わっていきます。それでは、先ほどとは逆に、マイナスの電荷をもつCl-が入ってくるとどうなるでしょうか。
細胞内はマイナスの電荷となっていますが、Cl-の流入によってさらにマイナスへと傾きます。この状態では、プラスの電荷をもつNa+などが流入してきたとしても、なかなか脱分極が起こりません。つまり、神経興奮が起こりにくいのです。
つまり、Cl-の流入が促進されると、神経の興奮が抑えられます。てんかんであれば、神経細胞の異常な興奮を抑制することにより、てんかんによる発作を抑えることができます。
私たちの体内には「Cl-の流入」を促進させる物質が存在し、これをGABA(γ-アミノ酸)と呼びます。GABAを増やせば、Cl-がたくさん入ってくることで神経興奮が起こりにくくなります。
ただし、GABAはある酵素によって不活性化されます。この酵素をGABAトランスアミナーゼと呼びます。GABAトランスアミナーゼを阻害すれば、GABAの不活性化が抑えられるため、GABAの量を増やすことができます。
このような考えにより、神経興奮を抑えるCl-を増大させ、てんかん発作に関わる異常な興奮を抑制する薬がバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)です。
バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)の特徴
てんかんにも種類があります。急にけいれんを引き起こす「強直間代(きょうちょくかんたい)発作」、数秒から数十秒程度の意識消失が起こる「欠神(けっしん)発作」、意識障害・異常行動などを伴う「部分発作」などがあります。
この中でも、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)は先に挙げたてんかん症状を幅広く抑えることができます。特に、脳全体にてんかん発作が起こる全般てんかんに対して、バルプロ酸ナトリウムは高い効果を有します。全般てんかんに対して、単独投与で87.7%の有効性を示したことが分かっています。
また、気分の高揚などによって「支離滅裂な言動を発する」などの行動を引き起こす躁(そう)病の治療や片頭痛発作の発症抑制に用いられることもあります。
このような特徴により、抗てんかん薬として高い効果を有し、躁病や片頭痛の治療薬としても使用される薬がバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)です。
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