ディアコミット(スチリペントール)の作用機序:抗てんかん薬
てんかんは、突然けいれんが起きたり、意識消失が起こったりする病気です。てんかんによる発作が起こっているとき、「脳に電気的な嵐が起こっている」と表現されます。脳に異常な電気刺激が生じることでてんかんを発症するのです。
そこで、てんかん発作を予防・治療するために使用される薬としてスチリペントール(商品名:デュアコミット)が知られています。スチリペントールは乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)という病気に対して使用されます。
乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)は原因不明のてんかん症候群です。発生頻度は2~4万人に1人と推定さており、生後1年以内に発症する病気です。
スチリペントール(商品名:デュアコミット)の作用機序
抗てんかん薬の作用を理解するためには、電気刺激が起こるメカニズムを学ぶ必要があります。これは、てんかん発作が発生している時、異常な電気信号が脳で生じているからです。
脳で起こる電気刺激は「神経細胞の興奮」とも表現されます。これらの刺激が起こることで、神経細胞を介して情報が伝わっていきます。これら情報伝達に重要な役割を果たす物質としてイオンがあり、興奮性シグナルであるNa+やCa2+、抑制性のシグナルであるCl-が知られています。
通常、細胞内はマイナスの電荷に傾いています。ここにプラスの電荷を有するNa+が流入してくると、徐々にプラスの電荷へ近づいていき、ある時点を境にプラスへと転換されます。この現象を専門用語で脱分極と呼びます。
これが合図となって興奮が伝わっていきます。このような電気的な変化が情報伝達には必要不可欠なのです。
てんかんでは、突発的な電気の放出が起こります。これによって、脳が麻痺することでけいれんや意識消失などが引き起こされます。この状態を改善するためには、神経の興奮(電気的な変化)を抑制すれば良いことが分かります。
細胞内はマイナスに傾いていることは既に述べましたが、ここにマイナスの電荷をもつCl-が入ってくると、さらに細胞内はマイナスへと傾きます。この場合、プラスの電荷をもつ興奮性のシグナルが入ってきたとしても、多少のことでは電気的な変化が起こりません。
つまり、Cl-は神経細胞の興奮を抑制することができます。
Cl-の流入促進には、GABAと呼ばれる物質が関わっています。GABAの作用が強まれば、Cl-の作用も増強されるため、神経興奮が抑制されます。
スチリペントール(商品名:デュアコミット)は、神経細胞の間に放出されたGABAが再び回収される過程を阻害します。GABAの取り込みが抑えられるため、神経細胞間で働くGABAの量が増え、Cl-の作用が増強されます。
また、GABAを分解する酵素としてGABAトランスアミナーゼが知られています。スチリペントール(商品名:デュアコミット)はGABAトランスアミナーゼを阻害するため、GABAの分解が抑制されます。その結果、GABAの量が増え、Cl-の流入が促進されます。
GABAが作用する受容体(GABAA受容体)にもスチリペントール(商品名:デュアコミット)は作用します。受容体の働きを強めることにより、Cl-の流入を促すのです。
このような考えにより、抑制性のシグナルであるCl-の作用を強めることで、てんかん発作を予防する薬がスチリペントール(商品名:デュアコミット)です。
スチリペントール(商品名:デュアコミット)の特徴
現在では、薬によって多くのてんかん患者の症状をコントロールすることができます。しかし、中には治療が難しい難治性のてんかん患者である方がいます。
てんかんの多くは小児で発症しますが、その中でも薬が効きにくく、極めて治療が難しいてんかんとして乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)が知られています。
乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)に対しては、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)やクロバザム(商品名:マイスタン)などの薬が使用されます。これらの薬でも治療が難しい場合、スチリペントール(商品名:デュアコミット)を併用で使用します。
臨床試験では優れた発作抑制作用を示し、「スチリペントールの投与によって発作回数が50%以上減少した患者さんの割合」は65.0%であったことが明らかになっています。
このような特徴により、難治性のてんかんに対して優れた治療効果を有する薬がスチリペントール(商品名:デュアコミット)です。
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