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役に立つ薬の情報~専門薬学

ビムパット(ラコサミド)の作用機序:抗てんかん薬

 

脳内の異常によって急に意識を失ったり、けいれんを引き起こしたりする病気として「てんかん」があります。それまでの正常な状態であったとしても、てんかん発作が起こると意識消失などの症状が表れるようになります。

 

てんかんには種類があり、症状によって分けられます。そうしたてんかんの中でも、部分発作の治療薬として開発された薬がラコサミド(商品名:ビムパット)です。ラコサミドはてんかん部分発作の治療薬として活用されます。

 

 てんかん発作の症状
私たちの脳内は電気信号によってやり取りしています。何かを記憶したり、腕を動かすなどの指令を送ったりするとき、すべてにおいて脳内で電気信号が発生しています。

 

ただ、脳内の電気信号に異常が起こることによって、電気信号が異常に興奮した状態に陥ることがあります。このとき、電気信号の異常によって意識消失が起こったり、けいれんを引き起こしたりするようになるのです。これが、てんかんによる症状です。

 

てんかん自体で命を落とすことはほとんどありません。ただ、運転中にてんかん発作が起これば大事故を引き起こしますし、入浴中に意識消失してしまえば溺死してしまいます。てんかん発作によって生じる二次的なことが大きな問題になるのです。

 

それでは、てんかんにはどのような症状が存在するのでしょうか。これには、部分発作と全般発作の主に2つに分けられます。

 

・部分発作
てんかん発作を生じたとき、このときの異常興奮が脳内の一部分だけに生じる場合を部分発作といいます。部分発作では、体の一部がピクピク動いたり、しびれたりすることがあります。また、意識消失を伴うものと意識消失のないものがあります。他にも症状はありますが、基本的にはこうした運動発作が表れます。

 

部分発作の中でも、手や口などに運動発作が起こっているものの、てんかん発作の最初から終わりまで意識のあるものを「単純部分発作」といいます。意識はあるため、本人はすべてを覚えています。

 

一方、最初は単純部分発作からはじまるものの、徐々に意識が遠のいていくものを「複雑部分発作」といいます。意識はないですが、その場で倒れるのではなく立ち止まってボーっとしたり、周囲を歩いたりするようになります。

 

また、部分発作からはじまった後に電気的な興奮異常が脳全体へ移行することがあります。これを、「二次性全般発作」といいます。二次性全般発作では、部分発作から開始されるものの、後で説明する全般発作へと移ってしまいます。

 

・全般発作
全般発作では脳全体に電気的な異常が起こり、てんかん発作によって意識消失して倒れてしまったり、全身が大きくけいれんする強直間代発作(きょうちょくかんたいほっさ:大発作)を引き起こしたりするようになります。

 

なお、二次性全般発作では多くの場合で強直間代発作へと移行します。強直間代発作では、場合によっては倒れるときにケガをしたり呼吸困難に陥ったりしてしまいます。

 

 ラコサミド(商品名:ビムパット)の作用機序
脳内の異常な電気興奮によっててんかん発作が起こります。それであれば、そうした異常興奮が起こらないように制御することができれば、てんかん発作を防止できることが分かります。

 

私たちの脳神経がどのように興奮しているのかというと、これにはナトリウムイオン(Naの働きが関与しています。脳神経でナトリウムイオンが細胞内に流入することがキッカケとなり、電気興奮を生じるようになります。

 

ナトリウムイオンが流入するとき、Naチャネル(ナトリウムチャネル)と呼ばれる輸送体が関与しています。そこで、Naチャネルの働きを阻害してしまえば神経興奮を抑制できるようになります。

 

 

 

このような考えによって、電気的な異常興奮を抑制する薬がラコサミド(商品名:ビムパット)です。

 

ただ、Naチャネルに作用することでてんかんを治療する薬は他にもあります。例えば、カルバマゼピン(商品名:テグレトール)やフェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントール)はNaチャネルを阻害する抗てんかん薬です。

 

しかしながら、ラコサミド(商品名:ビムパット)はこれらの薬とは異なる作用機序を有しているといわれています。

 

・Naチャネルの不活性化
細胞内にナトリウムイオンが流入するとき、Naチャネルが一瞬だけ開くことで脳神経細胞の興奮が起こります。この一瞬の間だけNaチャネルが活性化して、ナトリウムイオンが入ってくるようになります。

 

 

 

そのため、Naチャネルはずっと活性化(興奮)しているわけではなく、その後は不活性化するようになります。要は、他の刺激やシグナルがきたとしてもNaチャネルが活性化しないように調節しているのです。

 

このとき、Naチャネルがどれだけの時間不活性化しているのかについては、2つの制御機構があるとされています。1つは、すぐにNaチャネルの不活性化が解け、また次の神経興奮を起こすタイプの制御です。数ミリ秒以下で不活性化が解けるため、これを専門用語では「急速な不活性化(素早く不活性化が解ける)」といいます。

 

つまり、またすぐ脳神経を興奮させるための状態へと戻ることができると考えてください。

 

一方、Naチャネルを制御するとき、比較的長い時間、不活性化が解けないように制御されるシステムがあります。数秒またはそれ以上の時間、Naチャネルが不活性化しているのです。長く不活性化しているため、これを専門用語で「緩徐な不活性化(不活性化の時間が長い)」といいます。

 

不活性化の時間が長いと、その分だけ脳神経を興奮させる状態に再び戻ることはありません。

 

Naチャネルはこのように「急速な不活性化」と「緩徐な不活性化」の2つのメカニズムによって制御されていますが、当然ながら「緩徐な不活性化」に働きかける方がより長い時間、Naチャネルの働きを抑制できることが分かります。

 

カルバマゼピン(商品名:テグレトール)やフェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントール)はNaチャネルを阻害するとはいっても、急速な不活性化に関与します。

 

一方、ラコサミド(商品名:ビムパット)では緩徐な不活性化を促進する作用があります。緩徐な不活性化を促進するため、Naチャネルはそれだけ長い時間不活性化していることになります。つまり、Naチャネルはより活動できなくなり、結果としててんかんによる脳シグナルの異常興奮を抑制できるようになります。

 

このように、それまでのNaチャネルの抑制機構とは異なるメカニズムによって、てんかんを治療する薬がラコサミド(商品名:ビムパット)です。

 

 

 ラコサミド(商品名:ビムパット)の特徴
抗てんかん薬の中でも、ラコサミド(商品名:ビムパット)は部分発作の治療薬として活用されます。他の抗てんかん薬と併用することによって、てんかん発作を防止するのです。

 

このときの部分発作としては、単純部分発作や複雑部分発作だけでなく二次性全般発作も含みます。

 

なお、抗てんかん薬としてはさまざまな種類があり、カルバマゼピン(商品名:テグレトール)、フェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントール)、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)、レベチラセタム(商品名:イーケプラ)、ラモトリギン(商品名:ラミクタール)、トピラマート(商品名:トピナ)などがあります。

 

これらどの抗てんかん薬と併用しても、ラコサミド(商品名:ビムパット)は部分発作を抑制したことが臨床試験で分かっています。

 

また、ラコサミド(商品名:ビムパット)は他の抗てんかん薬との相互作用(飲み合わせ)は認められていません。多くの抗てんかん薬は「他の抗てんかん薬と併用注意」になっていることが多いものの、ラコサミドの場合はこれらの相互作用が認められていないため、併用しても問題ありません。

 

なお、ラコサミド(商品名:ビムパット)の主な副作用として浮動性めまい、傾眠、頭痛、嘔吐、悪心、白血球数減少が知られています。

 

てんかん治療の場合、「てんかん発作が起こらないようにする」ことが重要です。そのために抗てんかん薬を服用するわけですが、抗てんかん薬はてんかん発作が起こらないようにする予防薬だといえます。

 

そのため、たとえてんかん発作が起こらなかったとしても薬は服用を続けなければいけません。勝手な増量・減量は症状の重症化を招いてしまいます。

 

ラコサミド(商品名:ビムパット)の場合、増量も減量も1週間以上の時間をかけて徐々に慣らす必要があります。こうして、少しずつ増量や減量をすることによって副作用を避けるのが目的です。急激な投与中止はてんかん症状をより悪化させる危険性があります。

 

また、ラコサミド(商品名:ビムパット)は1日2回の投与です。投与のタイミングは明確に定められてはいないものの、朝と夕の2回投与が望ましいとされています。

 

このような特徴により、他の抗てんかん薬と併用することによって部分発作を治療し、てんかん症状を抑える薬がラコサミド(商品名:ビムパット)です。

 

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