ダイアップ(ジアゼパム)の作用機序:熱性けいれん治療薬
乳児が発熱を起こすと、けいれんを生じることがあります。これを、熱性けいれんと呼びます。男女差はなく、熱性けいれんは6か月から6歳に多いです。
そこで、熱性けいれんを治療するために用いられる薬としてジアゼパム(商品名:ダイアップ)があります。ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬と呼ばれる種類の薬になります。
けいれんを引き起こす病気として「てんかん」が有名ですが、熱性けいれんはてんかんとは別物です。
ジアゼパム(商品名:ダイアップ)の作用機序
熱性けいれんの治療では、「予防」が基本です。これはてんかんの治療でも同じです。てんかん発作が起こらないように薬で予防し、後は自然治癒力に任せるのです。
けいれんは脳の電気信号に異常が起こることによって生じます。発熱時にはそのような異常放電が起こりやすいです。また、乳児・小児は脳が発達していないためにけいれんを抑える力が弱く、発熱によってけいれんが誘発されやすいのです。そこで、薬によって熱性けいれんを予防します。
前述の通り、けいれん時には異常放電が起こっています。そこで、薬の作用を理解するためには、「電気信号が発生するメカニズム」を学ぶ必要があります。
神経細胞の興奮には、電気の動きが関わっています。電気的なシグナルが発生することで、情報が伝わっていくのです。これには、プラスやマイナスの電荷を帯びているイオンの動きが重要になります。
イオンには、プラスの電荷を帯びているNa+やCa2+、マイナスの電荷を帯びているCl-などが知られています。前者が興奮性のシグナルであり、後者が抑制性のシグナルです。
通常、私たちの細胞内はマイナスの電荷に傾いています。ここでNa+などのイオンが細胞内へ入ってくると、徐々にプラスへと近づいていきます。そして、ある時点でマイナスからプラスへと転化します。この現象を専門用語で脱分極と呼びます。
脱分極が合図となり、神経細胞の興奮が発生することで情報が伝わっていきます。
けいれん時では突発的な電気的放電が起きているため、脳の電気興奮が起こらないように抑えてしまえば、熱性けいれんを抑制できます。これを実現するため、先ほどとは逆にマイナスの電荷をもつCl-の流入を考えます。
Cl-が細胞内へ入ってくると、細胞内はさらにマイナスへと傾きます。この状態では、多少の興奮性のシグナル(プラスの電荷をもつイオン)が入ってきたとしても、神経の興奮は起こりません。つまり、Cl-の流入を促進させれば、神経興奮を抑えることで熱性けいれんを予防できます。
脳には「Cl-の流入に関わる受容体」が存在します。この受容体をベンゾジアゼピン受容体と呼びます。ベンゾジアゼピン受容体を刺激すれば、Cl-が入ってくるので脳機能が抑えられ、結果として熱性けいれんの治療に繋がります。
このような考えにより、異常な電気興奮による神経伝達を抑えることによって熱性けいれんを予防する薬がジアゼパム(商品名:ダイアップ)です。
ジアゼパム(商品名:ダイアップ)の特徴
熱性けいれんは、単純熱性けいれんと複雑熱性けいれんの2つに分けられます。単純熱性けいれんは年齢の低さが原因となるために問題はありません。一方、複雑熱性けいれんは脳奇形、神経代謝疾患などが原因になると考えられています。
熱性けいれんが懸念されるとき、発熱時(37.5℃~)にジアゼパム(商品名:ダイアップ)を使用することで予めけいれん発作を予防します。
ジアゼパム(商品名:ダイアップ)は坐剤として使用されるため、吸収性に優れ、投与後15~30分で薬の成分が血液中に移行します。作用が速いため、けいれんの救急治療薬として有効です。
なお、熱性けいれんを発症したとしても、予後(その後の症状)は良好であることがほとんどです。数回程度の熱性けいれんによる発作が知能やてんかん症状などに影響を与えることはないと考えられています。
複雑熱性けいれんであっても同様であり、その予後は良好です。ただし、けいれんを引き起こす原因疾患がある場合、その疾患の治療は継続しなければなりません。
このような特徴により、脳の神経興奮を抑えることによって熱性けいれんを予防する薬がジアゼパム(商品名:ダイアップ)です。
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