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役に立つ薬の情報~専門薬学

メバロチン(プラバスタチン)の作用機序:脂質異常症治療薬

 

体の中のコレステロール値が高いと、動脈硬化などを引き起こしてしまいます。動脈硬化として血管の弾力性が失われてしまうと、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こして死に直結してしまいます。

 

そこで、コレステロール値が異常な値を示している場合、これを正常値まで戻す必要があります。そのために薬を使用することがあります。

 

この時、脂質異常症(高脂血症)の治療薬として多用される薬にHMG-CoA還元酵素阻害薬と呼ばれる種類の薬があります。別名でスタチン系薬と呼ばれることもあります。

 

そして、世界で初めて開発されたHMG-CoA還元酵素阻害薬としてプラバスタチン(商品名:メバロチン)があります。プラバスタチンは日本で開発された医薬品です。

 

 

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬)の作用機序

 

コレステロールは肝臓で合成されます。この時、肝臓でのコレステロール合成を阻害すれば血液中のコレステロール値を下げることができます。このような作用をする薬としてHMG-CoA還元酵素阻害薬があります。

 

コレステロールは肝臓でアセチル-CoAを原料としてHMG-CoAが作られます。このHMG-CoAはHMG-CoA還元酵素によってメバロン酸へと変換されます。そして、コレステロール合成の速度はHMG-CoA還元酵素の働きに依存しています。

 

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)の作用機序

 

より簡単に考えると、「コレステロール合成で最も重要となる酵素がHMG-CoA還元酵素である」と認識できれば良いです。HMG-CoA還元酵素の働きを抑えることができれば、コレステロール合成を阻害することができます。

 

このように、HMG-CoA還元酵素を阻害することによってコレステロール合成を抑制する薬としてプラバスタチン(商品名:メバロチン)があります。

 

なぜプラバスタチンがHMG-CoA還元酵素を阻害できるのか

 

有機化学などで亀の甲羅のような分子構造を見ると、アレルギー反応を示す人が多いです。しかし、有機化学者で創薬研究に携わろうとする人以外はそこまで深く理解する必要はありません。

 

この時、分子構造を見れば「なぜプラバスタチンがHMG-CoA還元酵素を阻害できるのか」を理解できるようになります。

 

以下にHMG-CoAとプラバスタチン(商品名:メバロチン)の構造式を記しています。

 

HMG-CoAとプラバスタチン(商品名:メバロチン)の構造式

 

2つの構造を理解する必要は全くなく、何となくでも良いので「一部の構造が似ている」という事が分かれば良いです。

 

HMG-CoA還元酵素は先に載せた図のHMG-CoAという物質を認識します。ただし、そこにプラバスタチンを投与することによって、HMG-CoA還元酵素はHMG-CoAと間違えてプラバスタチンを取り込んでしまいます。これによって、HMG-CoA還元酵素が阻害されます。

 

このようにしてHMG-CoA還元酵素を阻害し、血液中のコレステロール値を正常な状態にする薬がプラバスタチン(商品名:メバロチン)です。

 

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の用法・容量

 

・基本的な服用方法

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)を服用するとき、メバロチン錠5もメバロチン錠10も基本的に1日1回夕食後です。タイミングとしては、コレステロールの合成が22時以降に盛んに行われるため、その時間によく効くようにさせたいので夕食後に服用してもらうことが多いです。

 

しかし、高脂血症の状態によって朝服用してもらうだけで十分効果がみられる場合もあります。

 

・隔日投与

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)に限らずスタチン系の薬では隔日投与といって、例えば、「2日に1回」という形で処方されることもあります。薬がよく効いている場合や副作用を防ぐためにこういった投与方法をとる場合があるのです。

 

・飲み忘れた場合

 

食事の影響を受ける薬ではないので、気づいたときに服用してください。

 

ただし、次の服用時間が近い場合は1回とばしてもらい、2回分を服用しないようにしてください。

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の副作用

 

・横紋筋融解症

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)を服用している患者さんがよく質問する副作用が横紋筋融解症です。特に薬を飲み始めた患者さんで医師や薬剤師から副作用である横紋筋融解症の説明を受け、このまま薬を服用し続けてもいいか不安に思うケースが多いと思います。

 

ここで、理解して頂きたいのは以下のようなことです。

 

① 有名な副作用だといって必ずしも命を脅かすものではない
② 重篤なものはまれ

 

①については、横紋筋融解症だからといって重篤なものは10万人に8人というデータがあります。(厚生労働省副作用別対応マニュアル 横紋筋融解症より。)

 

「横紋筋融解症」と聞いただけでも、おどろおどろしい副作用の名前に恐怖を抱く患者さんが多いです。ただ必ずしも命を脅かすものではありません。

 

確かに、重篤な副作用としては死亡者まで出ているのですが「1年間の心血管疾患の死亡数が約7万人、脳血管疾患の死亡数が約10万人」だと考えると、自己判断で薬を中断してはいけません。横紋筋融解症の症状の一つに「筋肉痛(特に太ももの筋肉痛)」がありますが、これが薬の副作用なのか判断することは難しいのです。

 

このときは服用を中止するのではなく病院に行き、血液検査を行ってください。

 

血液の中に含まれるクレアチンキナーゼ(CK)の量で副作用かどうかはわかります。クレアチンキナーゼの量が多いと、横紋筋融解症が疑われます。ただ、クレアチンキナーゼは筋肉が壊れると血液中に出る物質なので筋トレの後も上昇します。横紋筋融解症かどうか検査する場合は筋トレ含め激しい運動は控えてください。

 

また、自分の尿の色を見てください。筋肉が壊れて血液に出た場合、ミオグロビンという物質が尿となって出ていきます。ミオグロビンは赤いため、尿に含まれている場合尿の色はピンク色もしくは薄い赤色になります。この場合、横紋筋融解症の可能性があります。

 

ただ、尿の色は一つの目安です。不安なまま服用するのは治療にも響きますので、筋肉痛が感じられたら血液検査を行うことをお勧めします。

 

・脱毛症

 

はっきりとした理由は不明ですが脱毛が報告されています。スタチン系薬剤によるホルモン合成阻害作用やコレステロール値が低くなったことによると考えられます。

 

スタチン系のホルモン合成阻害作用が脱毛と関係しているのは閉経後でホルモンバランスが崩れていると考えられる高齢の女性です。そうした方で脱毛の報告が多いです。

 

副作用が報告されている症例の対処方法を調べたところ、いずれもメバロチンの服用を2~3日に1回に減量したり、他の薬に変えたりすることで2か月もすれば元の状態に戻っています。抜け毛が気になったら医師や薬剤師に相談してみてください。

 

・認知機能低下

 

アメリカのデータですが、スタチン系薬剤を服用する170人ほどの患者さんで認知機能の低下が報告されています。

 

多いのは「一過性の前向性健忘」といわれる、「数日から数週間の記憶がそっくりそのまま無くなる」という症状です。早いものは服用した初日から、遅いものは数年間服用してから発症するというケースもあります。

 

認知機能低下がスタチン系薬剤であるというのは、「スタチン系薬剤をやめることで症状が回復する場合がある」「スタチン系薬剤を再度服用すると、再発が高い確率で起こる」という事実にその理由があります。

 

全体的に見ればメバロチン(一般名:プラバスタチン)含むスタチン系薬剤はむしろ、認知機能低下を予防する効果があるというデータもありますが、一部の人には逆に働いてしまいます。

 

・消化器症状

 

胃の不快感や下痢はメバロチン(一般名:プラバスタチン)の中で最も多い副作用です。重い副作用ではないですが、副作用症状が毎日だと日々の生活の質を下げてしまいます。

 

・めまい

 

頻度は不明ですが、めまいが起こると報告されています。

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の禁忌と飲み合わせ(相互作用)

 

・メバロチン(一般名:プラバスタチン)の禁忌

 

絶対にメバロチンを服用していけのは、メバロチンに対してアレルギーがある人です。また、妊娠または妊娠している可能性がある人です。

 

・メバロチン(一般名:プラバスタチン)を服用するときに気を付ける人

 

腎機能が悪い人。フィブラート系薬剤を服用している人は副作用が現れやすくなります。

 

フィブラート系薬剤には、トライコア(一般名:フェノフィブラート)リピディル(一般名:フェノフィブラート)パルモディア(一般名:ペマフィブラート)ベザトールSR(一般名:ベザフィブラート)リポクリン(一般名:クリノフィブラート)があります。

 

高脂血症患者さんでも、フィブラート系薬剤は特にトリグリセリド(中性脂肪)が多い患者さんに使います。

 

・メバロチン(一般名:プラバスタチン)と肝疾患

 

メバロチンは他のスタチン系とは異なり多くが、腎臓で代謝される薬です。

 

そのため、例えば、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変、脂肪肝をもつ患者さんにもメバロチン(一般名:プラバスタチン)を服用できます。

 

・メバロチン(一般名:プラバスタチン)とアルコール

 

「お酒と一緒にメバロチンを飲んでもいいか」と考える患者さんは多いです。

 

アルコールは肝臓で分解されます。メバロチン(一般名:プラバスタチン)は多くは腎臓で代謝されるので、まったく一緒に飲んではいけないとは言い切れませんが、こういった質問をする方は毎日大量のお酒を飲まれる方が多いと思います。

 

そして、メバロチン(一般名:プラバスタチン)は少量ですが肝臓でも代謝されるので、大量にお酒を飲むと副作用が現れる確率も多くなります。飲酒は「たしなむ量」にとどめてほしいです。

 

「たしなむ量」というのは難しいですが一般的には、日本酒一合(180ml)ビール中ビン1本(500ml)、ウイスキーはダブルで1杯(60ml)ワイングラス2杯(200ml)焼酎0.5合(90ml)が目安です。

 

また、アルコールは中性脂肪を増やすため、高脂血症の状態によってはお酒を控えないといけない患者さんもいます。毎日晩酌をする場合は具体的な量を医師と相談しましょう。

 

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の高齢者への使用

 

高齢者では腎機能が落ちている患者さんが多いので、慎重に服用して下さい。血液検査を定期的に行い、腎機能が悪化していないか気を付けてください。

 

腎機能が悪化している状態だと副作用も発現しやすくなるので注意が必要です。

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の子供への使用

 

小児(14歳以下)への使用の安全性は確立していません。しかし、家族高コレステロール血症の場合服用できるケースもあります。

 

例えば、10歳以上でLDL(悪玉コレステロール)が180以上の場合など、「薬を服用することが患者さんにとって有益である」と医師が判断できる場合のみ服用してもらうことになります。

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の妊婦への使用

 

妊婦や妊娠している可能性がある人は使用しないでください。健康な赤ちゃんが生まれない場合や奇形を持った赤ちゃんが生まれることがあります。

 

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)の効果発現時間

 

メバロチンは服用してから1時間で最高血中濃度になります。効果が感じられるのは患者によって異なりますが、404例の患者に対し、プラバスタチン錠10を1日1~2錠、12週続けた試験では患者のうち80.0%が有効であり、LDL・中性脂肪ともに下がったというデータがあります。

 

また、66例の患者に対し同じ条件で「朝」に飲んでもらった場合は84.4%、「夜」に飲んでもらった場合は91.2%の効果がみられました。

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)と同効薬・類似薬の関係

 

現在、日本で使われているスタチン系の薬剤はいくつもの種類があります。大きな分類としては2つに分けることができます。それは、「普通のスタチン」と「効果の強いスタチン(ストロングスタチン)」です。

 

普通のスタチン:メバロチン(一般名:プラバスタチン)リポバス(一般名:シンバスタチン)ローコール(一般名:フルバスタチン)

 

効果の強いスタチン:クレストール(一般名:ロスバスタチン)リバロ(一般名:ピタバスタイン)リピトール(アトルバスタチン)

 

これらの薬の安全性に大きな差は無く、すべて高脂血症(脂質異常症)の第一選択として選ばれます。

 

「普通のスタチン」と「効果の強いスタチン」との違いですが、効果の大きさに加え、もう一つ違いがあります。それは、「用法」です。

 

スタチンは前述の通り、夜服用したほうが高い効果が得られるとされていますが、「効果の強いスタチン」に関しては作用が長続きするため、朝でも夕でも効き目は変わりません。

 

ただ、メバロチンについては先に述べた効果の強いスタチンではなく、普通のスタチンなので夕食後服用した方が高い効果を得られます。

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)と後発品(ジェネリック)

 

メバロチン(一般名:プラバスタチン)は世界で初めて日本で開発されたスタチン系の薬です。1989年に製品化されて以来、世界各地で使われています。

 

これほど長い間使用されている薬なので、確かに先発の「メバロチン」は長期使用されている「ブランド」なのですが、日本には多くのジェネリック医薬品が存在します。

 

メバロチン(プラバスタチン)の後発品(ジェネリック)と比較してみると、同じメバロチンのジェネリックなのに価格に大きな差があります。おおよそ、先発品のプラバスタチンの25%~50%くらいの値段です。

 

このように、日本で生まれ現在でも世界中で高脂血症(脂質異常症)の治療を助けているのがメバロチン(一般名:プラバスタチン)です。

 

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