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役に立つ薬の情報~専門薬学

イメンド(アプレピタント)の作用機序:制吐剤

 

がんに罹ったとき、多くの人は抗がん剤による治療をうけます。ただ、抗がん剤は副作用が強いことで有名です。

 

その中でも、古くから使用されている抗がん剤の有名な副作用として「悪心・嘔吐」が知られています。抗がん剤によって吐き気を催すため、日々の生活が苦しくなります。

 

そこで、抗がん剤による悪心・嘔吐を抑制するために使用される薬としてアプレピタント(商品名:イメンド)があります。アプレピタントはニューロキニン1(NK1)受容体阻害薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

 

 アプレピタント(商品名:イメンド)の作用機序
抗がん剤による副作用は強く、その副作用によって薬の投与自体を中断することがあります。特に悪心・嘔吐は最も苦痛を感じる副作用の1つであり、激しい嘔吐によって患者さんの精神状態の悪化を招くことがあります。

 

嘔吐には「止めたらいけない嘔吐」と「止めた方が望ましい嘔吐」の2種類があります。前者の「止めたらいけない嘔吐」としては、例えば食中毒があります。食中毒によって細菌や毒素などが溜まっている場合、薬によってむやみに嘔吐を止めてしまうと症状が悪化します。

 

一方、抗がん剤の副作用によって起こる嘔吐は「止めた方が望ましい」と判断されます。がんによって栄養状態が悪化してやせ細り、さらに嘔吐によって栄養を十分に取れなければ容体は悪化しやすくなります。この場合は薬によって嘔吐を抑制しなければいけません。

 

なお、がんによって悪心・嘔吐が起こるのは、脳に存在する嘔吐中枢が関係しています。嘔吐中枢が刺激されると、悪心・嘔吐を引き起こします。

 

抗がん剤の場合、化学受容器引き金帯(CTZ)と呼ばれる部位が刺激されます。化学受容器引き金帯(CTZ)が刺激されると、このときの刺激が嘔吐中枢に伝わり、結果として吐き気が起こります。

 

より詳しい話をすると、化学受容器引き金帯(CTZ)や嘔吐中枢には、ニューロキニン1(NK1)受容体というスイッチが存在します。このスイッチが活性化されると、嘔吐が引き起こされます。そこで、薬によってニューロキニン1(NK1)受容体を阻害すれば、悪心・嘔吐を抑制できることが分かります。

 

 ニューロキニン1(NK1)受容体阻害薬の作用機序

 

このような考えにより、脳に存在する「嘔吐を引き起こすスイッチ」を遮断することで抗がん剤による吐き気を抑える薬がアプレピタント(商品名:イメンド)です。

 

※専門用語では、「ニューロキニン1(NK1)受容体を阻害して、サブスタンスPの結合を防ぐ」となります。

 

 

 アプレピタント(商品名:イメンド)の特徴
抗がん剤の中でも、白金製剤(シスプラチンなど)は嘔吐が問題となりやすいです。これらシスプラチンなどによる吐き気を抑制するため、アプレピタント(商品名:イメンド)は有効です。

 

吐き気には、24時間以内に悪心・嘔吐が起こる「急性嘔吐」と24時間以降に起こる「遅延性嘔吐」の2種類があります。従来の薬では急性嘔吐にしか対処できず、遅延性嘔吐には必ずしも有効ではありませんでした。

 

そこで、急性嘔吐だけでなく、遅延性嘔吐に対しても効果を有する薬として開発された薬がアプレピタント(商品名:イメンド)です。

 

抗がん剤による嘔吐の抑制には、他にも5-HT3受容体阻害薬やステロイド薬と呼ばれる種類の薬が使用されます。アプレピタント(商品名:イメンド)はそれまでの薬とは作用機序が異なるため、これら5-HT3受容体阻害薬やステロイド薬と併用することで、より高い効果を期待できます。

 

このような特徴により、24時間以降に起こる遅延性嘔吐に対しても効果を有する薬がアプレピタント(商品名:イメンド)です。

 

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