ザファテック（トレラグリプチン）の作用機序：糖尿病治療薬
糖尿病は血糖値（血液中に含まれる糖分）が高くなってしまう病気です。
血糖値が高いと「糖による毒性」が発揮され、腎臓の悪化による「腎症」や網膜にダメージを受けることで「失明」に至ることがあります。糖尿病では、これらの合併症が問題になります。
そこで、糖尿病による合併症を防ぐために使用される薬としてトレラグリプチン（商品名：ザファテック）があります。トレラグリプチンはDPP-4阻害薬と呼ばれる種類の薬であり、週一回の投与によって血糖コントロールする医薬品になります。
トレラグリプチン（商品名：ザファテック）の作用機序
血糖値を下げることが糖尿病治療薬の役割です。これには、インスリンと呼ばれるホルモンが大きく関わっています。
インスリンは血糖値下げる唯一のホルモンです。そのため、糖尿病治療薬の多くは「インスリンの作用を強める」ように作用します。
体内でのインスリンは食事が合図となって分泌されます。食事を取ると血糖値が上がるため、これを下げるためにインスリン分泌が起こるのです。ただし、「食事の摂取 → インスリン分泌」の過程には、もう一つ重要な段階があります。
食事を取ると、これが合図となってインクレチンと呼ばれるホルモンが分泌されます。インクレチンはGLP-1やGIPと呼ばれることもあります。インクレチンが膵臓に作用することで、インスリン分泌が促進されます。
つまり、インスリンが放出されるためには「食事の摂取 → インクレチン分泌 → インスリン分泌」という経路をたどります。
重要なのは、「インクレチンを分解するために、DPP-4という酵素が存在する」ということです。ここで、DPP-4を阻害すれば、インクレチンが分解されにくくなります。インクレチンはインスリン分泌に関与しているため、インクレチン量が多くなればインスリンがたくさん放出されて血糖値を下げることができます。
このような考えにより、インスリン分泌に関わる「インクレチン」というホルモンの作用を強めることで糖尿病を治療する薬がトレラグリプチン（商品名：ザファテック）です。DPP-4を阻害する薬であるため、DPP-4阻害薬と呼ばれます。
トレラグリプチン（商品名：ザファテック）の特徴
既存の糖尿病治療薬としては、SU剤（スルホニル尿素剤）が有名です。この薬も同じようにインスリン分泌を促しますが、「常にインスリンの放出をさせる」という働きがあります。そのため、血糖値を全体的に下げることができます。
しかし、こうした作用ではすい臓への負荷が大きいという問題があります。また、インスリンの作用を強めすぎることによって、副作用として低血糖が起こることがあります。血糖値が下がりすぎてしまうため、これによって手の震えから始まって意識消失や昏睡状態にまで陥ってしまうのです。
ただ、DPP-4阻害薬は「食事が合図となって分泌されるインクレチン」をターゲットとしています。言い換えれば、「血糖値が高い状態」の時だけインスリン分泌を促す作用があります。そのため、単剤の投与では低血糖が起こりにくい薬であると考えられています。
ただし、他の糖尿病治療薬と併用することによって低血糖症状を引き起こすことが報告されているため、「絶対に低血糖を起こさない」ということではないことに注意が必要です。実際、重篤な副作用として低血糖が記されています。
このようなDPP-4阻害薬の中でも、週に一回服用することで血糖値をコントロールできる薬がトレラグリプチン（商品名：ザファテック）です。
既存のDPP-4阻害薬としては、アログリプチン（商品名：ネシーナ）が知られています。アログリプチンは1日1回投与の糖尿病治療薬ですが、この薬の構造を少し変換することで薬の作用（IC50）を強くした薬がトレラグリプチン（商品名：ザファテック）です。
薬には半減期（体内で薬の濃度が半分になる時間）という指標があります。トレラグリプチン（商品名：ザファテック）が週一回投与なのは、アログリプチン（商品名：ネシーナ）に比べて半減期が長いからではなく、より低い濃度でも薬の作用が持続するからです。
なお、体内での代謝はアログリプチン（商品名：ネシーナ）と同様に腎排泄型です。つまり、トレラグリプチン（商品名：ザファテック）は主に尿と共に排泄されます。そのため、腎臓の機能が落ちている場合は投与量の調節をしなければいけません。
このような特徴により、一回の服用で薬の効果が長時間続き、かつ強力に血糖値を下げる薬がトレラグリプチン（商品名：ザファテック）です。
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