SGLT2阻害薬:糖尿病治療薬
糖尿病はその名の通り、尿から糖が検出される病気です。糖は重要な栄養源であるため、通常は尿から糖が検出されることはありません。
しかし、糖尿病では血液中に含まれる糖が多すぎるために尿からも糖が検出されてしまいます。
また、糖尿病では血糖値(血液中の糖濃度)が上昇してしまい、これによって腎臓が悪くなったり、目が見えなくなって失明したりします。このような合併症を防ぐために使用される糖尿病治療薬としてSGLT2阻害薬があります。
SGLT(グルコーストランスポーター)とは
尿は腎臓で作られます。この時、腎臓で最初に作られる原尿は一日に約150Lにもなります。しかし、実際に一日に150Lも尿が出ると大変なことになります。そこで、一度原尿が作られた後に水分や栄養など、体に必要な物質を再び体の中へと再吸収する機構が存在します。
全身を巡っている血液が腎臓を通過するとき、腎臓は血液中の不要物をこし取ることによって原尿を作ります。この時に作られた原尿は尿管を通過して膀胱へと蓄えられます。この過程の中で、尿が尿管を通過するときにアミノ酸や糖、水分など体にとって必要なものが血液中へと再吸収されます。
この時、尿管をもっと細かく見ていくと「近位尿細管」、「ヘンレループ」、「遠位尿細管」と呼ばれる三つの部位に分けられます。この中でも、糖の吸収に大きく関わっている部位が近位尿細管です。
腎臓で作られた原尿に含まれる糖の再吸収は主に近位尿細管で行われます。この時、近位尿細管で糖のほとんどが再吸収されます。これに大きく関わっている輸送体がSGLT2です。
糖は栄養源として重要であるため、SGLT2が尿中の糖を認識して取り込み、血液中へ放出する働きをします。この糖を血液中へと輸送するSGLT2が近位尿細管に存在するため、尿中に含まれる糖吸収の大部分が近位尿細管で行われます。
糖の再吸収の約90%は「近位尿細管に存在するSGLT2によって行われている」と言われています。
なお、糖の吸収で重要となるSGLT2ですが、このSGLT2には兄弟のようなものが存在します。専門用語ではこの兄弟のようなものをサブタイプと表現します。
糖の輸送に関わるSGLTには主にSGLT1、SGLT2、SGLT3の三つが存在します。何が違うかと言うと、簡単に言えば存在部位が異なります。
これらSGLTは様々な場所に存在していますが、特に近位尿細管での糖の再吸収に関わる輸送体がSGLT2です。
SGLT2阻害薬の作用機序
SGLT2は尿管の中でも近位尿細管で糖を再吸収し、血液中に糖を放出します。そのため、SGLT2が働くことで糖が再吸収された分だけ、血液中の糖濃度も高くなることが分かります。
そこで、SGLT2を阻害して近位尿細管での糖の再吸収を抑えることができれば、尿と共に糖を積極的に体外へと排泄することが可能になります。
糖尿病はもともと「尿から糖が検出される病気」のことです。そのため、自然の状態で尿から糖が検出されることは大きな問題となります。これは、血液中に含まれる糖分が多いために原尿に含まれる糖まで多くなり、糖の再吸収が間に合わなくなった結果として起こります。
ただし、糖尿病で本当に問題となるのは「血液中にどれだけの糖が含まれているか」になります。血液中の糖が多ければ多いほど、糖による毒性が表れてしまいます。その結果として、網膜症や腎症、神経障害などの合併症を引き起こします。
そのため、糖尿病の治療を考える上で重要なのは「血液中の糖を減らすこと」になります。
今回の場合、近位尿細管に存在するSGLT2を阻害することで糖の再吸収を抑制します。その結果、尿中にたくさんの糖が含まれるようになり、尿と共に糖を排出することができるようになります。
本来は尿中に糖が検出されることは良くないことですが、SGLT2阻害薬によって「尿と一緒に糖を排出し、血糖値を下げる」という意味で尿から糖が多量に検出させることは問題ありません。
なお、血糖値を下げる唯一のホルモンとしてインスリンがありますが、糖尿病治療薬の多くはインスリンに働きかけることで血糖値を下げます。それに対して、SGLT2阻害薬はインスリンに関係なく血糖値を下げることができます。
そのため、SGLT2阻害薬は糖尿病治療の新たな選択肢として重要になります。
ただし、SGLT2阻害薬を服用すると尿に含まれる糖分が高くなるので、その分だけ尿路感染の危険性が高まります。特に女性は尿道が短いために膀胱炎などの感染症を引き起こしやすくなると言われています。
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