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役に立つ薬の情報~専門薬学

トラゼンタ(リナグリプチン)の作用機序:糖尿病治療薬

 

インスリン分泌を促す薬であるが、単剤での投与では低血糖の副作用が出にくい糖尿病治療薬としてDPP-4阻害薬があります。血糖値を下げる作用も強いため、糖尿病の治療で多用されている薬の1つです。

 

そして、国内4番目のDPP-4阻害薬として発売された薬がリナグリプチン(商品名:トラゼンタ)です。

 

 

DPP-4阻害薬の作用機序

 

糖尿病治療薬として重要なDPP-4阻害薬ですが、このDPP-4阻害薬を考える上でインクレチンと呼ばれる物質が重要になります。インクレチンはホルモンの一種であり、インスリン分泌に大きく関わっています。

 

インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであるため、インスリンの作用を強めるインクレチンも重要になります。

 

そして、「このインクレチンの作用を増強することができれば、インスリンの効果も強くなって血糖値を下げることができる」という事が分かります。

 

インクレチンは酵素によって分解され、このインクレチンを分解する酵素の名前がDPP-4です。そのため、インクレチンの分解に関わるDPP-4を阻害すれば、インクレチンの作用が強くなります。その結果、インスリンの作用も増強されて糖尿病の症状を改善することができます。

 

DPP-4阻害薬の作用機序

 

このように、DPP-4という酵素を阻害することによってインクレチン濃度を増やし、間接的にインスリンの作用を強める薬としてリナグリプチン(商品名:トラゼンタ)があります。

 

胆汁排泄型のDPP-4阻害薬:リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)の特徴

 

「効果の強さ」という点では、理論的にはどのDPP-4阻害薬も大きな違いがありません。そのために差別化が難しい薬ですが、リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)に関しては他の薬と比べて大きな差別化ポイントがあります。

 

他のDPP-4阻害薬は、その多くが腎臓で排泄されます。そのため、腎臓の機能が弱っている患者さんでは「投与量を調節する」などをして注意しなければいけません。

 

それに対して、リナグリプチンの排泄に腎臓は約5%しか関与していません。実際の排泄経路としては、便と一緒に排泄される糞中排泄が80%以上です。そのため、腎機能が低下している患者さんにも使用できる薬です。

 

他の薬では、腎臓の機能が弱っている患者さんに対して投与量を調節したり、そもそも投与禁止だったりします。しかし、リナグリプチンではこのような心配がほとんどありません。

 

また、リナグリプチンは胆汁と一緒に排泄されますが、この時に肝臓で代謝を受けていないそのままの形で排泄されます。専門用語を使えば、「未変化体のまま排泄される」と表現します。

 

肝臓での代謝をほとんど受けずに排泄されるため、リナグリプチンは肝臓の機能が低下している患者さんに対しても使用できる薬です。

 

このように、DPP-4阻害薬の中でもリナグリプチン(商品名:トラゼンタ)は「腎臓や肝臓の機能が弱っている患者さんに対しても使用できる」という特徴を持っています。

 

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)の効能・効果

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)は糖尿病の治療薬です。糖尿病には「1型糖尿病」「2型糖尿病」「妊娠糖尿病」「他の原因で起こる糖尿病」と4つの種類があります。このうち、トラゼンタは2型糖尿病の治療に使います。

 

2型糖尿病は4つの中で最も患者さんの数が多い糖尿病です。糖尿病全体の95%が2型糖尿病といわれています。食生活の乱れや運動不足などの生活習慣の乱れが原因でおこるといわれています。また、家族に糖尿病がいると発症しやすく、主に中高年の年代でおこります。体型は肥満型が多いのが特徴です。

 

一方、糖尿病全体の5%程が1型糖尿病といわれています。自分の免疫細胞が自分自身を攻撃する「自己免疫」が原因で病気になるといわれています。2型糖尿病と違って生活習慣によって起こるわけではないため、ある日突然、糖尿病の症状が出てくる場合があります。

 

また、1型糖尿病は痩せ型が多く、子供のときに発症することが多いです。1型糖尿病の人はインスリン(血糖値を下げるホルモン)を製造する膵臓が自分の免疫細胞から攻撃を受けて、しっかりとした量のインスリン作ることができなくなっています。

 

そのため、改善することなく進行していくことが多いです。一方で2型糖尿病は生活習慣の改善によって、状態が改善していく場合があります。

 

トラゼンタはインスリンの量を増やすことで血糖値を下げます。しかし、1型糖尿病の場合はインスリン自体を作れないため、トラゼンタの効果を発揮することができません。そのため、1型糖尿病の治療にトラゼンタを使用してはいけないことになっています。

 

また、ステロイド(副腎皮質ホルモン)と呼ばれる炎症を抑える薬が原因で起こる糖尿病があり、これをステロイド糖尿病と呼びます。ステロイドは炎症や免疫細胞の働きを抑えることでさまざま病気の治療に使います。

 

しかし、肝臓で行われている糖の製造を促したり、インスリンの作用を弱めたりすることで、血糖値を上げてしまいます。このステロイド糖尿病は2型糖尿病と病状が似ているため、トラゼンタが治療に使用されることがあります。ただし、適応外使用になるので保険診療上の注意が必要です。

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)の用法用量

 

トラゼンタは成人に対して、1日1回5mgを飲みます。朝、昼、夜いつ飲んでも効果に違いはありません。また、食後と食前どちらに飲んでもトラゼンタの効果に差はありません。

 

トラゼンタは1日1回5mgの量しか使用してはいけない薬です。実際の効果として、1日1回2.5mgでは血糖値を下げる作用が弱く、1日1回10mgは5mgと変わらないことがわかっています。そのため、増量や減量はしないで服用します。

 

割線はないので半分に割って使うことはできません。また、一包化可能な薬剤です。包装から出して6ヶ月間保存していても品質に問題がないことが分かっています。光が当たる環境でも安定しています。

 

粉砕して使用する際には注意が必要です。まず、光に対する安定性はないので、遮光して保管する必要があります。保管期間は1ヶ月以内にしたほうが良いでしょう。

 

トラゼンタは錠剤のため、飲み込むのが難しい場合はお湯に溶かして飲む場合があります(簡易懸濁法)。また、飲み込むのが難しい場合は、簡易懸濁で溶かした後にチューブを使って胃や腸に投与する(経管投与)こともあります。

 

トラゼンタに簡易懸濁する際にも注意が必要です。トラゼンタは錠剤を固めるために、周囲をフィルムでコーティングしています。コーティングが邪魔になり、そのままではお湯に溶けません。そのため、乳鉢やミキサーで粉砕してコーティングを剥がしてから、溶かす必要があります。

 

簡易懸濁法では、お湯に溶かす時間は通常10分です。粉砕の仕方が不十分だと10分間ではとけませんので、しっかりとコーティングを剥がす処理が大切です。また、製薬会社による簡易懸濁法の検討は行われていませんので、各自の責任で行う必要があります。

 

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)の副作用

 

主な副作用として低血糖症、便秘、鼓腸、腹部膨満が知られています。また、頻度は分かっていませんが発疹も報告されています。

 

ちなみに鼓腸とは「お腹がガスではっている状態」のことで、ゲップやおならとしてガスが体の外に放出されます。なお、眠気、下痢、血小板減少、脱毛、膀胱炎の副作用は知られていません。

 

重大な副作用

 

・低血糖症

 

トラゼンタの血糖値を下げる効果が出すぎると低血糖症になることがあります。トラゼンタの添付文書(薬の説明書)では飲んだ患者さんの2.1%で起こったと書かれています。

 

低血糖症では、初期段階で「汗が出る」「動悸」「手足の震え」「空腹感」などが起こります。低血糖が進むと「集中できない」「眠気」「ものがぼやけて見える」などの症状が出ることがあり、ひどい場合は「意識障害」「けいれん」「昏睡」になることもあります

 

低血糖症状が起こったときには飴やジュース、ブドウ糖などの糖質を含む食品をとって血糖値を上げることが重要です。ただ、トラゼンタを単独で飲んだ場合、低血糖はほとんど起こりません。

 

トラゼンタと同じ糖尿病治療薬であるスルホニルウレア剤(SU剤)を一緒に飲むときは特に低血糖にならないように注意が必要です。SU剤はトラゼンタと同じように血糖値を下げる薬で、一緒に飲むことで意識障害などの激しい低血糖症が起こることがあります。

 

・腸閉塞(麻痺性イレウス)

 

腸閉塞は腸がつまってしまう病気です。麻痺性イレウスともよばれ、「お腹がはる」「激しい便秘」「腹痛」「吐き気」「おう吐」などの症状があらわれます。何らかの原因で腸の動きが悪くなり、便やおならが出なくなってしまうことで起こります。

 

トラゼンタは腸のなかで働き、インクレチンというホルモンの量を増やします。インクレチンは腸に働きかけて、腸が食べ物を先に送る動きを遅くします。すると、腸の中で消化物や便などがつまって腸閉塞を起こすことがあります。

 

もし、腸閉塞になった場合はトラゼンタを飲むのを中止する必要があります。

 

・肝機能障害

 

トラゼンタは体の外に出るときに肝臓で処理されてから排泄されます。そのため、肝臓の働きを低下させてしまうことがあります。ただ、劇症肝炎や肝硬変などの重篤な肝障害は報告されていません。

 

しかし、因果関係は不明ですが、トラゼンタを含む複数の薬を飲んだ患者さんで、肝機能障害による死亡例が出ています。肝障害や血液循環がうまくいかないショック症状(循環虚脱)が原因だと報告されています。

 

・類天疱瘡

 

類天疱瘡とは「はっきりとした原因がわからないのに皮膚に水ぶくれできる」ことです。皮膚を作っている物質に対して自分の免疫(体を異物から守るシステム)が攻撃してしまうことで起こるといわれています。

 

トラゼンタを飲み始めてから水ぶくれやびらん(皮膚表面がやぶれた状態)が表れた時は、類天疱瘡の可能性があります。トラゼンタの中止を検討する必要があります。

 

・間質性肺炎

 

間質性肺炎とは肺胞(肺の中の小さな袋)やその周囲で炎症が起こり、呼吸ができにくくなる病気です。熱、空咳(痰が絡んでいない咳)、息切れや呼吸困難などの症状がでます。症状が進行すると死んでしまうこともある病気です。

 

肺は肺胞と呼ばれる直径 0.1~0.2 mm ほどの小さな袋がブドウの房のように集まってできています。呼吸によって空気中の酸素を取り込むと、肺胞で体の中の二酸化炭素と交換(ガス交換)されます。

 

間質性肺炎になるとガス交換がうまくいかず呼吸困難になってしまいます。間質性肺炎の原因はほとんどわかっていませんが薬が原因で起こることがあります。トラゼンタを服用した患者さんでも間質性肺炎が報告されていますので、注意が必要です。

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)の禁忌

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トラゼンタを飲んだときにアレルギーを経験したことがある患者さんは服用できません。他にも次のような人はトラゼンタを使ってはいけません。

 

・糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者

 

糖尿病ケトアシドーシスとは糖尿病が原因で血液が酸性になってしまう状態です。健康な人の血液はアルカリ性です。また、糖尿病で血の流れが悪くなり、脳に血液がいかず意識障害が起きてしまう病気が糖尿病性昏睡と前昏睡です。どの病気も血糖値が非常に高くなっていることが共通点です。

 

また、1型糖尿病はインスリン(血糖値を調整するホルモン)を作る膵臓が自分の免疫細胞から攻撃を受けています。そのため、インスリンの量が少なくなり、血糖値が非常に高くなります。

 

激しい高血糖に対しては輸液やインスリンで急激に血糖値を下げる必要があります。トラゼンタは急激に血糖値を下げる薬ではないため、これらの病気の治療には使ってはいけません。

 

・重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある糖尿病患者

 

血糖値が高いと感染症になるリスクが高くなります。重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある糖尿病患者さんは、感染症のリスクを下げるために、インスリンを使ってしっかりと血糖値を下げる必要があります。インスリンを絶対に使わなくてはいけないため、トラゼンタは禁忌になっています。

 

日本糖尿病学会でも重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例など)の糖尿病患者さんの血糖値を下げるときはインスリンを絶対に使用するように推奨しています。

 

併用注意(飲み合わせ)

 

トラゼンタと同様に血糖値を下げる糖尿病治療薬は、低血糖になるリスクが高くなるので一緒に飲むときに注意が必要です。以下に代表的な糖尿病薬とトラゼンタと一緒に飲む際の注意点を説明します。また、一緒に使う際の血糖値を下げる能力も合わせて説明します。

 

・スルホニルウレア(SU)製剤

 

SU剤は膵臓から出るインスリン(血糖値を下げるホルモン)の量を増やして、血糖値を下げる薬です。食事などの糖分摂取に関わらず、血糖値を下げるので低血糖になる危険性が高い薬です。

 

トラゼンタとスルホニルウレア剤(SU剤)と一緒に飲むときは、低血糖のリスクが増加するおそれがあります。意識障害など激しい低血糖症状が出ることもあります。低血糖のリスクを少なくするため、SU剤の量を減らすことを検討します。

 

また、臨床試験(人への薬の効果を確かめた試験)ではトラゼンタとSU剤を飲み始めて52週間後には、HbA1c(1~2ヶ月の血糖値の平均値)が0.70%下がることが分かっています。

 

代表的なSU剤としてアマリール(一般名:グリメピリド)、オイグルコン、ダオニール(一般名:グリベンクラミド)などが知られています。

 

・速効型インスリン分泌促進薬(グリニド製剤)

 

SU剤と同じようにインスリンの量を増やし血糖値を下げる薬です。ただ、SU剤と比較して効果が出るまでの時間が早いため、食事直後の血糖値を下げるのに適しています。効果がある時間は短く、低血糖のリスクが少ない薬といえますが、トラゼンタとの併用では注意が必要です。

 

また、トラゼンタとグリニド剤と一緒に飲んで糖尿病の治療を行った結果、薬を飲み始めて52週間後には、HbA1cが0.73%下がることが分かっています。

 

主なグリニド製剤にはスターシス、ファスティック(一般名:ナテグリニド)、グルファスト(一般名:ミチグリニド)、シュアポスト(一般的:レパグリニド)などがあります。

 

・ビグアナイド系薬剤

 

糖新生(糖分を体の中で作る)を抑えたり、インスリンの効きめを良くしたりすることで血糖値を下げる薬です。トラゼンタとよく一緒に使います。

 

トラゼンタとメトホルミン(ビグアナイド系薬剤)を一緒に糖尿病の治療に使った研究があります。トラゼンタ単独ではHbA1cが2.0%下がったのに対して、メトホルミンと一緒に使った場合は2.8%下がりました。

 

もともとのHbA1cが平均9.8%の患者さんの結果なので、すべての人に対してそのまま同じ効果が得られるわけではありません。しかし、一緒に飲むことで効果は上がる組み合わせといえます。代表的なビグアナイト製剤にメトグルコ(一般名:メトホルミン)があります。

 

・チアゾリジン系薬剤

 

チアゾリジンはインスリンを体に効きやすくする薬です。トラゼンタと一緒に使うことで、HbA1cが0.79%下がったと治験(薬の開発試験)で分かっています。代表的なチアゾリジン系薬剤にアクトス(一般名:ピオグリタゾン)があります。

 

・α-グルコシダーゼ阻害剤(αGI阻害剤)

 

腸の中で働いて、食事による糖分を吸収しないようにし、食事の後の血糖値を上げないようにする薬です。ベイスン(一般名:ボグリボース)、グルコバイ(一般名:アカルボース)、セイブル(一般名:ミグリトール)などがあります。

 

トラゼンタと一緒に飲むことができます。αGI阻害薬を服用中に低血糖になった時は、ショ糖(アメなどの二糖類)ではなくブドウ糖(単糖類)を摂取する必要があります。αGI阻害薬は二糖類から単糖類への分解を阻害することで糖吸収を抑える働きがあるからです。

 

また、トラゼンタと一緒に使うことで、HbA1cが0.91%下がったことが分かっています。

 

・GLP-1受容体作動薬

 

GLP-1(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド:別名でインクレチン)は、インスリンの量を増やすことで血糖値を下げる作用があります。GLP-1受容体作動薬はGLP-1と同じ働きをすることでインスリン分泌を促します。

 

一方、トラゼンタはGLP-1を分解する物質の働きを弱くすることで、GLP-1の量を増やして、血糖値を下げる薬です。つまり、どちらの薬もGLP-1受容体に働くことで効果を発揮します。

 

一緒に使っても効果の上乗せは期待できないので、通常はGLP-1受容体作動薬とトラゼンタは同時に使うことはありません。実際に両方の薬を同時に使った報告はなく、有効性及び安全性は確認されていません。

 

ビクトーザ(一般名:リラグルチド)、バイエッタ・ビデュリオン(一般名:エキセナチド)、リキスミア(一般名:リキシセナチド)、トルリシティ(一般名:デュラグルチド)などが代表的なGLP-1作動薬として知られています。

 

・SGLT2阻害剤

 

SGLT-2阻害薬は尿から体外に糖を排泄するのを促して、血糖値を下げる薬です。一方で、トラゼンタはインスリンの量を増やすことで血糖値が下げる薬です。異なる作用で血糖値を下げるため、SGLT-2とトラゼンタはよく一緒使う組み合わせです。

 

トラゼンタはSGLT-2阻害剤のジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)と同じ会社の薬です。そのため、2つの薬を一緒に糖尿病治療に使ったときの報告がされています。特にトラゼンタとジャディアンスを1錠にまとめた合剤について研究が進められています。

 

トラゼンタを飲んでいる患者さんにジャディアンスを追加で飲んでもらったところ、HbA1cが0.7~0.79%下がることがわかっています。トラゼンタとSGLT-2阻害剤は一緒に飲むことで治療効果が期待できる組み合わせと言えます。

 

ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)、スーグラ(一般名:イプラグリフロジン)、フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)、カナグル(一般名:カナグリフロジン)、ルセフィ(ルセオグリフロジン)、アプルウェイ・デベルザ(トホグリフロジン)などが代表的なSGLT-2阻害剤として知られています。

 

・インスリン製剤

 

トラゼンタはインスリン製剤と一緒に使用することがあります。インスリン製剤には大きく分けて持効型と速効型の2種類があります。

 

持効型とは長い時間効果が持続するタイプの製剤で、食事に関係なく一日中の血糖値を下げる目的で使います。速攻型は食事の後に上がった血糖値を下げる目的で使用する薬で、短い時間しか効果がありません。

 

トラゼンタは持効型のインスリン製剤と一緒に使用されることが多い薬です。実際に持効型のインスリンで治療している患者さんにトラゼンタを追加したところ、HbA1cが0.62%下がることが報告されています。

 

ただし、インスリン製剤と一緒に使用するときには低血糖のリスクが増加するおそれがあります。低血糖のリスクを少なくするため、インスリン製剤の量を減らすことを検討する必要があります。

 

持効型のインスリン製剤にはランタス(一般名:インスリングラルギン)、トレシーバ(一般名:インスリン デグルデク)、レベミル(インスリンデテミル)などがあります。

 

・他の薬や食品との飲み合わせ

 

トラゼンタと一緒に使ったときに、血糖値を下げる作用を弱くしてしまう薬があるので、注意が必要です。例えばアドレナリン、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、甲状腺ホルモン、リファンピシンです。

 

また、解熱鎮痛剤であるロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)などの一般的な薬と併用しても問題ありません。

 

アルコール(お酒)と一緒に服用することについては、当然ながら推奨されません。実際、過度のアルコール摂取者はトラゼンタが使用注意となっています。

 

牛乳との飲み合わせは特に問題ありません。ただ、薬は一般的に水やさ湯で飲むことを前提に作られています。そのため、牛乳で飲むことは避けたほうがいいでしょう。

 

グレープフルーツとの飲み合わせは問題ありません。グレープフルーツは、肝臓の中にある薬を処理する物質の量を減らすことである種の薬の働きを強くします。トラゼンタはグレープフルーツの影響を受ける物質から処理されないので、摂取しても問題ないといえます。

 

高齢者への使用

 

添付文書(薬の説明書)では「高齢者への使用経験が少ないため、副作用発現に注意して、経過を十分観察しながら慎重に投与すること」と書かれています。

 

ただ、日本人2型糖尿病患者で、65歳未満と65歳以上でトラゼンタの血液中の濃度に差はありませんでした。

 

また、海外で70歳以上の糖尿病患者さんにトラゼンタで治療を行った研究があります。HbA1cは0.64%下がり、安全性にも問題ないことが分かっています。そのため、高齢者にも安全に使用できる薬と言えます。

 

小児(子供)への使用

 

小児に対する使用経験はなく安全性は確立していません。また、小児に起こる糖尿病のほとんどが1型糖尿病であり、トラゼンタの使用対象となる糖尿病ではありません。そのため、通常トラゼンタは小児の糖尿病に使用する薬ではないといえます。

 

妊婦・授乳婦への使用

 

トラゼンタの服用にかかわらず、妊娠中に血糖値が高いことが胎児に奇形を引き起こす要因になります。そのため、厳しく血糖値をコントロールすることで、奇形リスクを低下させる必要があります。

 

厳格な血糖コントロールが必要なので妊娠中の糖尿病治療にはインスリン製剤が最も推奨されています。また、トラゼンタは妊娠中に使用された報告はありませんので、胎児の成長に影響があるかどうかはわかっていません。

 

現在のところ、糖尿病治療において高血糖よりも奇形を起こすリスクがある要因は明らかではありません。そこでインスリンを中心として、トラゼンタを含めた適切な薬を使って、血糖値を下げることが最優先されます。

 

もちろん、無駄に奇形のリスクが分かっていない薬を追加することは避けるべきです。治療に必要な場合のみトラゼンタを使用することが重要です。

 

授乳婦に対しても使用された報告はありません。添付文書(薬の説明書)では、トラゼンタを飲む時には授乳を中止するように書かれています。

 

授乳婦の糖尿病の治療にもインスリン製剤が最も適しています。インスリンは母乳に移行しますが、子供の腸管からは吸収されないため、影響がでないと考えられています。また、糖尿病治療薬の中ではオイグルコン(一般名:グリベンクラミド)、メトグルコ(一般名:メトホルミン)、α-グルコシダーゼ阻害剤は授乳しながら使ってもよいと考えられています。

 

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)の効果発現時間(薬物動態)

 

糖尿病は血糖値が高くなり、血液の流れが悪くなるので心筋梗塞や脳梗塞の原因になることがあります。トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)は血糖値を下げることで、糖尿病の治療に使用されますが、作用時間や効果発現時間はどうなっているのでしょうか。

 

トラゼンタを飲んだ後、血中濃度(血液中の薬物濃度)が最高値に達するまで2~8時間ほどかかります。また、半減期(薬の濃度が半分になる時間)は105時間ととても長い薬です。

 

飲み始めた日から効果がでる薬で、24時間以上効果が持続します。また、飲み始めて3日後には効果が安定します。ただ、血糖値の指標であるHbA1cは1~2ヵ月の血糖値変化をみるため、HbA1cの改善には時間が必要です。

 

臨床試験(人に対する効果を確かめた試験)ではトラゼンタを飲み始めて4週間経った頃にはHbA1cが低下し始めることが分かっています。また、18週後まではさらに低下していきます。

 

・トラゼンタの胆汁排泄

 

トラゼンタは体の外に出されるとき、ほとんどが便の中に排泄されます。服用したトラゼンタの内の約80%が便の中に排泄され、5%が尿中に排泄されます。

 

通常の薬であれば肝臓によって処理(代謝)されて、処理がしやすい物質にしてから、便に排泄されます。しかし、トラゼンタは代謝されずに未変化体(トラゼンタそのもの)のまま、胆汁(肝臓で作られる消化液)の中に排泄されます。

 

その後、胆汁が腸の中で便に混ざり、便として体の外に出されます。このように、胆汁を通って排泄されるため、トラゼンタは胆汁排泄型製剤と呼ばれています。トラゼンタは同じDPP-4阻害薬と呼ばれる糖尿病治療薬の中で、唯一の胆汁排泄型薬剤です。

 

腎機能低下患者および透析患者への使用

 

トラゼンタは腎臓の機能が低下した患者さんでも悪くない患者さんと同じ5mgの量を使うことができます。実際に腎機能が低下した患者さんと健康な人がトラゼンタを飲んで比較した試験でも、血液中の濃度に差がないことが分かっています。

 

また、トラゼンタを服用した後の血液中の濃度を、腎臓が正常な人と透析患者さん比べても大きな差はないことが分かっています。そのため、トラゼンタは透析患者さんでも腎臓が悪くない患者さんと同じ5mgを飲むことができます。

 

他の同系統(DPP-4阻害薬)の薬剤は腎機能低下があったり、透析の場合は飲む量を調整したり、飲めない場合もあります。このように、腎臓の障害の程度で量を調整しなくて良いのがトラゼンタの大きな特徴の一つといえます。

 

ちなみに、トラゼンタの透析による除去率(透析性)に関する検討は行われていません。腎臓によって処理される割合が5%以下であり、透析している患者さんでも、体の外にしっかりと排泄できる薬だからです。

 

他のDPP4阻害薬との違いと使い分け

 

トラゼンタはDPP-4阻害薬の中で、国内で4番目に開発された薬です。DPP-4阻害薬には、他にもジャヌビア・グラクティブ(一般名:シタグリプチン)、エクア(一般名:ビルダグリプチン)、ネシーナ(一般名:アログリプチン)、テネリア(一般名:テネリグリプチン)、スイニー(一般名:アナグリプチン)、オングリザ(一般名:サキサグリプチン)などがあります。

 

トラゼンタは肝臓で代謝(排泄しやすい形に処理)されることなく、直接胆汁(肝臓で作られる消化液)に排泄されます。そのためDPP-4阻害薬の中で唯一「腎機能・肝機能の程度に関わらず同じ量を飲むことができる」薬剤とされています。これがトラゼンタの特徴になっています。

 

テネリアも腎機能・肝機能によって調整する必要はありませんが、添付文書では高度肝障害の患者へは慎重投与になっています。一方でトラゼンタの添付文書には、肝機能や腎機能低下による注意は書かれていません。

 

ただ、糖尿病の治療薬として重要な、血糖値やHbA1c(1~2ヶ月の血糖値の平均値)を下げる作用に大きな違いはないと考えられています。それどころか、それぞれのDPP-4阻害薬で血糖値を下げる作用はほとんど差がないと考えられています。

 

その理由として、「DPP-4阻害率を検査する方法がそれぞれの薬でバラバラである」「DPP-4阻害薬は腸で働くため血液中の値は効果にそのまま反映しない」ということが挙げられます。

 

トラゼンタを慎重投与すべき人

 

低血糖を起こすことがあるので、「脳下垂体機能不全又は副腎機能不全」「栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足又は衰弱状態」「激しい筋肉運動」「過度のアルコール摂取者」のような人はトラゼンタを飲む際に注意する必要があります。

 

また、トラゼンタは腸の中で働く薬で、腸閉塞(腸が詰まってしまい激しい腹痛が起こる病気)になってしまうことがあります。そのため、「腹部手術をしたことがある、または過去に腸閉塞になったことがある患者さん」は慎重に飲む必要があります。

 

トラゼンタを過量投与した場合の対処法

 

過剰摂取をしても死に至るような大きな副作用は起きないと考えられています。

 

海外の試験ですが、健康な人で600mg(通常の1日投与量の120倍)を飲んだデータがあります。副作用は起きますが試験に参加した患者さんは十分耐えられる程度との報告があります。

 

トラゼンタの特徴

 

・トラゼンタ(一般名:リナグリプチ)の血糖降下の強さ

 

トラゼンタの「血糖値を下げる能力」を調べた試験があります。トラゼンタを約3ヶ月飲んだ場合、有効成分が入っていない偽の薬(プラセボ)と比べて、空腹時血糖値が19.7mg/dl低くなることが分かりました。

 

また、HbA1cをどれだけ下げるか調べた研究では、トラゼンタを飲み始めて約6ヶ月後には-0.44%になることがわかりました。HbA1cを下げる効果はトラゼンタを飲み始めてから約1ヶ月後から現れ、約4ヶ月後までさらに下がり続けました。また、1年後もその効果が持続することがわかっています。

 

・体重変動

 

トラゼンタはDPP-4という物質の機能を弱くして、インクレチンというホルモンの分解を抑えます。インクレチンはインスリンを介して血糖値を下げるほかに、食欲を低下させる働きが知られています。そのため、トラゼンタは食欲を抑えて体重を減らすのではないかと考えられていました。

 

実際にインクレチンホルモンを体に投与すると体重が減少します。バイエッタ(一般名:エキセナチド)はインクレチンの薬ですが、約6ヶ月間使用したところ、体重が約1.5kg減ることがわかりました。

 

しかし実際には、トラゼンタと体重減少の効果は確認されていません。もともと糖尿病の治療の薬であり、ダイエットで使う薬ではありませんので、体重減少を目的で使用するのは避けたほうが良いでしょう。

 

それどころか、糖尿治療薬には副作用で体重が増加し、太る場合があります。トラゼンタの副作用にも他の糖尿病治療薬と同じように体重増加の副作用が報告されています。また、他のDPP-4阻害薬でも同様に体重増加の副作用が報告されています。

 

そのため、トラゼンタやDPP-4阻害薬は体重を一定、もしくは少し増加傾向にすると考えられています。細かい理由は明らかではありませんが、体重を減少させるほどインクレチンの量が増えない、体重を増加させるホルモンの量を増やすなどと考えられています。そのため、トラゼンタなどのDPP-4阻害薬を服用する際は体重の変動に注意する必要があります。

 

・インスリン抵抗性

 

糖尿病になってしまう原因として、「インスリンの量が少ないこと」と「インスリンが効きにくくなっている(インスリン抵抗性)場合」の2つに分けることができます。

 

インスリン抵抗性はインスリンの過剰分泌が一つの原因として考えられています。SU剤と呼ばれる薬は膵臓からインスリンを無理やり分泌させるので、インスリンの過剰分泌が起こります。すると、過剰になったインスリンに対して、体が反応しにくくなります。

 

トラゼンタもSU剤と同じようにインスリンの量を増やすことで血糖値を下げる薬です。ただ、血糖値の変動に合わせてインスリンの量を増やすので、インスリンの無駄遣いを防ぐことができます。インスリンを過剰に使用しなくてすむので、インスリン抵抗性が起きにくい薬と考えられています。

 

・トラゼンタの糖尿病性腎症改善

 

糖尿病になると血中の糖の量が増えるので、血液がドロドロになり流れが悪くなります。腎臓の中の血流が悪くなると、腎臓の働きが悪くなることがあります。このように糖尿病によって起こる腎臓の病気を糖尿病性腎症といいます。

 

糖尿病性腎症は糖尿病の人が発生する頻度がとても多い症状です。末梢神経障害と糖尿病性網膜症と並んで糖尿病の三大合併症と呼ばれています。

 

トラゼンタは腎臓を保護する効果があります(腎保護)。もともと腎臓が悪い2型糖尿病患者さんにトラゼンタで治療すると、トラゼンタで治療していない場合に比べて、腎臓がよくなることが分かっています。

 

トラゼンタが糖尿病性腎症に効果があるか確かめた実際の研究では、アルブミン尿を指標として調査しました。糖尿病性腎症などで腎臓が悪くなると尿の中に蛋白質がでる(蛋白尿)ことが知られています。蛋白のなかでも分子量(物質の大きさ)が小さなものをアルブミンと呼びます。

 

蛋白尿で尿中にでてくる蛋白質のほとんどがアルブミンです。ただ、少量のアルブミンは、腎臓が悪くなって他の蛋白質が尿に出てくる前に尿中に出てきます。そのため、アルブミン尿であるかどうかは糖尿病性腎症の早期の発見に役立ちます。

 

尿中にこのアルブミンが出ている2型糖尿病患者さんをトラゼンタで治療したところ、尿中のアルブミン量が約3割減ることが分かりました。

 

また、糖尿病性腎症の患者さんに対して、トラゼンタで糖尿病治療を行った際の効果と安全性を検討した試験(マリーナ試験)があります。マリーナ試験の一番の特徴は、腎障害と心筋梗塞や脳梗塞が発生するリスクが高い患者さん対象としている点です。

 

腎障害や心臓梗塞や脳梗塞リスクが高い患者さんでは、糖尿病治療の選択肢は少ないのが現状です。腎障害があっても薬の量を調整する必要のないトラゼンタで血糖値が管理できるのであれば、治療の選択肢を増やすことができます。

 

また、トラゼンタの腎保護作用は化学構造が関わっている可能性があります。トラゼンタは他のDPP-4にはないキサンチン骨格という構造を持っています。結論からいうと、トラゼンタのキサンチン骨格がキサンチンオキシダーゼと呼ばれる物質の働きを弱くすることで、腎臓を保護します。

 

キサンチンオキシダーゼは体内の酸化ストレスの主な発生源と考えられています。体の中で化学反応を起こし、キサンチンオキシダーゼは活性酸素を発生させます。活性酸素は腎臓をはじめ全身臓器を酸化することで、傷つけてしまいます。

 

このキサンチンオキシダーゼにトラゼンタのキサンチン骨格が直接作用して、働きを弱める可能性が報告されています。キサンチンオキシターゼの酸化する力を弱くすることで、腎臓の障害を抑えて、腎臓の保護をすると考えられています。

 

・心血管イベントに対する効果

 

心血管イベントとは心臓や脳で起こる重大な病気のことで、具体的には心筋梗塞、心不全、脳卒中(脳梗塞、脳出血)などのことです。糖尿病は心血管イベントが起こる可能性を高くする原因になります。糖尿病治療によって心血管イベントの発生率が下がることは明らかになっています。

 

アメリカで行われた試験では、トラゼンタは他の糖尿病治療薬と同じ程度、心血管イベントの発生率を下げることがわかっています。
 
また、日本の2015年脳卒中ガイドラインでは、トラゼンタとSU剤(グリメピリド)を比較した試験で、トラゼンタを飲んだ患者さんの方が心血管イベントの発生した割合が低いことが紹介されています。

 

特に死には至らなかった脳卒中(非致死性脳卒中)の発生率は27%も低いことがわかりました。このことから、トラゼンタは心血管イベントの発生率を大きく下げる可能性がある薬です。ただし、これらの試験の結果は条件や試験目的がバラバラです。どんな患者さんに対してでもトラゼンタを使えば心血管イベントの発生率が下がることを保証した結果ではありません。

 

トラゼンタ(一般名:リナグリプチン)は糖尿病の治療薬として使用されます。他のDPP-4阻害薬と違って、腎臓や肝臓の機能が低下して糖尿病患者さんでも飲む量の調整無しで安心して使用できる薬です。また、心臓や脳の重大な病気を予防する効果もあると考えられています。

 

ただし、低血糖などの副作用リスクもあるので、他の糖尿病治療薬との飲み合わせをしっかりと理解しておく必要があります。

 

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