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ゼルボラフ(ベムラフェニブ)の作用機序:抗がん剤

 

がんは日本人にとって死因の一位であり、これらがんの一つとして皮膚がんが知られています。皮膚がんにも種類があり、その中にメラノーマ(別名:悪性黒色腫)と呼ばれるものがあります。メラノーマでは、ほくろのようながんを生じます。

 

ただ、ほくろではなくがん細胞であるため、放置すると大きくなっていきます。メラノーマの発症原因は不明であるものの、「紫外線への暴露」や「足底への刺激」などの関与が疑われています。

 

そこで、これらメラノーマを治療するために使用される薬としてベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)があります。ベムラフェニブはBRAF阻害薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

 ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)の作用機序
代表的な抗がん剤では、細胞分裂を絶え間なく行う細胞に対して毒性を与えるように設計されています。これは、がん細胞が無秩序な増殖を行うからです。これに目を付け、増殖速度の速い細胞に対して作用を示す抗がん剤が数多く開発されてきました。

 

ただ、このような作用メカニズムであると、抗がん剤の投与によって正常細胞にまで影響を与えてしてしまいます。例えば、髪の毛や骨髄の細胞は比較的増殖速度の速い細胞です。そのため、これらの細胞は抗がん剤による副作用が強く表れやすいです。

 

そこで、がん細胞だけに出現している特徴的な機構を狙い撃ちするような薬が考え出されました。これを、分子標的薬といいます。

 

私たちの体内には、細胞増殖に関わるシグナルが存在します。がん細胞はこの機構を利用し、「細胞増殖のシグナル」を活性化させます。これにより、がん細胞は積極的に分裂・増殖します。

 

一方、正常細胞では、「細胞増殖のシグナル」はそこまで活性化していません。そこでこの違いを見極めれば、がん細胞に対して特異的に作用できることが分かります。

 

「細胞増殖のシグナル」の一つとして、BRAFと呼ばれるタンパク質(キナーゼタンパク質)が知られています。そして重要なのは、メラノーマ(悪性黒色腫)を有する患者さんの中に、BRAFに変異を有する人がいるという事実です。

 

変異したBRAFを専門用語で「BRAF V600」といいます。これは、「BRAFというタンパク質のアミノ酸配列600番目のバリンが変異している」という意味です。

 

転移性の悪性黒色腫では、約50%で変異したBRAFが認められているという報告があります。そこで、変異したBRAFに対する阻害薬を投与すれば、メラノーマによる細胞増殖のシグナル伝達を特異的に阻害できることが分かります。

 

 

 

このような作用機序により、「メラノーマ(悪性黒色腫)では、BRAFというタンパク質が変異していることがある」という特性を利用し、変異したBRAF(BRAF V600)を阻害することで抗がん作用を示す薬がベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)です。

 

 

 ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)の特徴
がん治療の基本は外科的手術です。がん細胞を物理的に排除することにより、治療するのです。ただ、手術不能な場合は治療が困難を極めます。

 

そこで、根治切除不能な悪性黒色腫を有しており、変異したBRAF(BRAF V600)を有している患者さんでは、ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)を使用することがあります。

 

変異したBRAF(BRAF V600)が検出された方への臨床試験によると、ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)の投与によって、無増悪生存期間(がんが進行せずに安定した期間)が5.32ヶ月であったことが確認されています。また、全生存期間(治療を受けて死亡するまでの期間)は9.23ヵ月でした。

 

ほぼすべての患者さんで副作用が確認され、主な副作用としては関節痛、発疹、筋骨格痛、脱毛症、疲労などが知られています。

 

なお、実際にベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)投与する場合、「BRAF遺伝子が変異しているかどうか」を確認する必要があります。そのため、変異したBRAF(BRAF V600)を検出するためのコンパニオン診断薬を活用します。その後、ベムラフェニブの使用を検討します。

 

このような特徴により、メラノーマ(悪性黒色腫)で特異的に変異している部位を狙い撃ちすることにより、抗がん作用を示す薬がベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)です。

 

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