パルボシクリブの作用機序:抗がん剤
がんは死亡率の中でもトップであり、多くの人にとって関係の深い疾患です。がんを発症した場合は致死率が高いため、すぐに治療を開始しなければいけません。
こうしたがんには種類があり、特に女性で問題になりやすいものとして乳がんがあります。乳がんは乳腺から発達するがんであり、再発したり転移したりすることがあります。
そこで、乳がんを治療するために活用される薬としてパルボシクリブがあります。パルボシクリブは「手術不能または再発乳がん」に活用されます。パルボシクリブはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤と呼ばれる種類の薬になります。
パルボシクリブの作用機序
がん細胞はどのようなものかというと、もともとは正常な細胞の一つです。私たちの細胞は増殖が制御されており、ある程度の大きさになればそれ以上の細胞分裂が起こらないようになっています。細胞分裂が起こるのは、ケガによって傷を負った場所を修復するときなど、特定のときに限られます。
なぜ、細胞増殖が制御されているのかというと、私たちの体を守るためです。勝手に細胞が増殖してしまうと、例えば臓器であれば心肥大、肝肥大などの状態に陥って正常に機能しなくなります。また、細胞分裂をして増殖するときは多くの栄養が必要になります。
ただ、がん細胞ではこうした細胞分裂を制御する機構が壊れてしまいます。その結果、無秩序な増殖を繰り返すようになります。このときは隣にある正常な細胞から栄養を取ってくるなど、あらゆる手段を使って増殖するのです。
それでは、私たちの細胞分裂がどのように進んでいくのかというと、段階を経て進行します。1つの細胞が分裂し、2つになる過程を細胞周期といいます。細胞周期は「S期(DNAを合成している)→G2期(細胞分裂の準備期間)→M期(細胞分裂をしている)→G1期(次の細胞分裂への準備をしている)」に分けることができます。
ただ、ある程度まで細胞分裂が完了したら前述の通り休止しなければいけません。そこで、M期で細胞分裂した後はG1期で細胞分裂がストップしたり、G0期(細胞分裂を休止している期間)になったりします。
しかし、がん細胞ではこうした制御機構が破たんしており、細胞周期がずっと回り続けることで細胞分裂が盛んに行われるようになります。
たとえG0期であったとしても、外から刺激がくることによって細胞はG1期に戻ります。また、G1期に細胞増殖にかかわるシグナルがくることによって、細胞分裂を開始するS期へと移行します。
このとき、細胞分裂を停止しているG1期やG0期の細胞に働きかけることによって、細胞分裂を行うようにさせる物質としてサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)やサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)が知られています。
サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)やサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)が働きかけることによって、がん細胞の細胞分裂が進んでいきます。そこで、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)とサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)の働きを抑えることができれば、細胞分裂を抑制できることが分かります。
このような考えにより、がん細胞の細胞周期に関わっている酵素の働きを阻害することで乳がんを治療する薬がパルボシクリブです。サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6の働きを阻害するため、パルボシクリブはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤と呼ばれます。
パルボシクリブの特徴
世界初の経口サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤がパルボシクリブです。前述の通り、手術不能または再発乳がんに使用されます。
乳がんにはエストロゲンという女性ホルモンが深く関わっており、エストロゲンによって乳がんのリスクが高まるとされています。そのため、乳がんにはエストロゲン受容体(エストロゲンが作用するためのスイッチ)が存在することがあります。
エストロゲン受容体(ER)が存在する乳がんのことをHR+(ホルモン受容体陽性)といいます。
一方、乳がんではHER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)と呼ばれる「細胞増殖に関与している物質」が存在していることがあります。HER2が存在しない乳がんのことをHER2-(ヒト上皮増殖因子受容体2陰性)と表現します。
乳がんにはさまざまな種類があり、その中でもパルボシクリブはHR+HER2-(ホルモン受容体陽性・HER2陰性)の患者さんに対して活用されます。
臨床試験では閉経後進行乳がんの患者さんに対して、レトロゾール(商品名:フェマーラ)を単独で投与したときよりも、パルボシクリブとレトロゾールを併用した方が、優位に無増悪生存期間(PFS:がんが進行せずに安定した状態)が延長されました。
レトロゾール(商品名:フェマーラ)は閉経後の乳がん患者に対して用いられる薬であり、パルボシクリブと併用することで効果を示したのです。
また他の臨床試験では、抗エストロゲン薬などの内分泌療法を受けているものの、乳がんの進行を認めているHR+HER2-進行乳がん(閉経後であるかどうかは関係ない)の患者さんに対してフルベストラント(商品名:フェソロデックス)とパルボシクリブの併用を行いました。
このとき、フルベストラント(商品名:フェソロデックス)を単独で使用するよりも、パルボシクリブと併用させた方が優位に無増悪生存期間(PFS)を延長させました。
フルベストラント(商品名:フェソロデックス)は抗エストロゲン薬であり、乳がんに存在するエストロゲン受容体を阻害することで効果を発揮します。つまり、HR+(ホルモン受容体陽性)の人に対してフルベストラントが有用であるものの、それに加えてパルボシクリブを投与することにより、さらなる効果を得られるようになるのです。
パルボシクリブを使用するとき、1回125mgを21日間連続投与します。その後、7日間の休薬期間を設けます。
パルボシクリブの主な副作用としては好中球減少症、白血球減少症、血小板数減少、貧血、疲労、上気道感染、悪心、口内炎、脱毛、下痢、食欲不振、嘔吐、末梢神経障害、鼻出血などが知られています。
このような特徴により、進行性の乳がんに対して活用されることによって、乳がんの症状を抑える抗がん剤がパルボシクリブです。
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