バンコマイシンの作用機序:抗生物質
死因の上位に肺炎があることから分かる通り、感染症は時に命に関わる重篤な症状を引き起こします。この状態を放置すると、さらに状態は悪化していきます。
そこで、感染症を治療するために使用される薬としてバンコマイシンがあります。バンコマイシンはグリコペプチド系抗生物質と呼ばれる種類の薬になります。
バンコマイシンの作用機序
細菌に感染すると、感染症を発症します。感染症から立ち直るために重要な機構は免疫です。体に備わっている免疫が活躍することにより、感染症の症状が治まっていきます。免疫が細菌を退治しなければ、病気が治ることもありません。
ただし、免疫機能が弱っている人などであれば、放っておいても感染症の症状は改善しません。むしろ、症状は悪くなっていきます。
これを改善するため、抗生物質が投与されます。抗生物質は細菌を殺す作用があります。つまり、細菌にとって毒である物質が抗生物質です。もっと詳しく言えば、「細菌には毒であり、ヒトには毒性のない物質」を指します。ヒトにまで毒性を示すのは不都合だからです。
このような作用を実現するためには、ヒトと細菌の違いを利用しなければいけません。
ヒトの細胞には、その周りを取り囲むように細胞膜が存在します。細胞膜によって、細胞の内と外が分けられています。さらに、細菌の細胞膜の周辺は壁が囲んでいます。この壁を細胞壁といいます。細胞壁が存在するからこそ、細菌はその形を保つことができます。
重要なのは、「細菌は細胞壁をもっているのに対して、ヒトは細胞壁がない」ということです。この違いに着目し、細胞壁の合成を阻害する物質を投与すれば、細菌だけに毒性を与えることができます。
このような作用機序により、細胞壁の合成を阻害することで抗菌作用を示す薬がバンコマイシンです。細胞壁がなければ、細菌は生きていくことができません。
より専門的な話をすると、「バンコマイシンは細胞壁を構成するペプチドグリカン前駆体のD-アラニル-D-アラニン部位に結合し、細胞壁合成を阻害する」となります。
バンコマイシンの特徴
抗生物質の中には、細菌を殺すことで「殺菌的」に作用する物質と増殖を抑えることで「静菌的」に作用する物質があります。バンコマイシンは前者の殺菌的に作用する薬です。
抗生物質の使用に当たっては、耐性菌が問題となりやすいです。耐性菌とは、抗生物質が効かない菌のことです。耐性菌によって感染症を発症すると、抗生物質を投与しても症状が改善しにくいです。
これら耐性菌に対して有効な薬として、昔から使われてきた薬がバンコマイシンです。耐性菌に感染したときに使用される薬であり、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの耐性菌にも使用できる数少ない薬です。
細菌の細胞壁に対して立体的に作用するため、従来は「耐性菌が発生しない薬」と考えられていました。しかし現在では、バンコマイシンに耐性をもつ細菌が報告されています。VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)やVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)などは有名です。
腎毒性や聴力障害などの副作用がある薬であり、投与を行う際は慎重にならなければいけません。実際に使用する時は「血液中の薬物濃度を測定する」「60分以上かけて点滴静注する」などの細かい決まりがあります。
なお、バンコマイシンは腸から吸収されないため、一般的な感染症に対しては飲み薬で治療しません。注射によって直接体内へ投与します。
このような特徴により、耐性菌に対抗するために使用されるものの、同時に慎重に投与しなければいけない薬がバンコマイシンです。
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