プロトピック軟膏(タクロリムス)の作用機序:免疫抑制剤
アレルギー反応のうち、皮膚に生じる病気をアトピー性皮膚炎といいます。アトピー性皮膚炎を発症すると、皮疹やかゆみが起こるようになります。
そこで、アトピー性皮膚炎を治療するために使用される薬としてタクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)があります。タクロリムスは免疫抑制剤と呼ばれる種類の薬になります。
タクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)の作用機序
アトピーや喘息など、アレルギーを起こしやすい体質を自分や家族がもっている場合、「アトピー素因がある」といいます。アトピー素因があれば、アトピー性皮膚炎を発症しやすいです。
また、ドライスキン(乾燥肌)である場合もアトピー性皮膚炎を生じやすいです。皮膚の水分が抜けることでバリア機能が薄くなり、そこから細菌などの異物が侵入しやすくなります。これにより、わずかな刺激がくるだけでかゆみが起こるようになります。
これら「皮膚に皮疹やかゆみが起こる」のは、免疫によって炎症反応が起こるからです。病気を引き起こす微生物が侵入したときなど、免疫は体を守るために重要な役割を果たします。皮膚に生じる皮疹は、病原微生物の拡大を防ぐために重要なのです。
しかし、アトピー性皮膚炎の場合、「通常であれば問題ないような刺激」に対しても、免疫が過敏に反応します。つまり、アトピー性皮膚炎は、免疫の働きすぎによって症状が起こるのです。この状態を改善するためには、免疫の過剰反応を抑えればよいことが分かります。
細菌などの異物が侵入したとき、これを直接攻撃する細胞が免疫細胞に存在します。これをT細胞といいます。T細胞が攻撃を始めると、強い炎症反応が起こります。
炎症を生じるのは、T細胞が「炎症を誘発する物質」を放出するからです。この「炎症を誘発する物質」を専門用語でIL-2(インターロイキン2)といいます。そこで、T細胞の働きを阻害することでIL-2などの放出を抑えれば、免疫の働きすぎを抑制できることが分かります。
このような考えにより、免疫反応を抑えることでアトピー性皮膚炎の症状を鎮める薬がタクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)です。
より詳しい話をすると、タクロリムスはT細胞の活性化に関わるシグナルであるタクロリムス結合蛋白(FKBP)と呼ばれる物質と結合します。免疫活性化のシグナルが遮断されるため、結果としてT細胞が働かなくなるのです。
タクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)の特徴
アトピー性皮膚炎の治療には、主にステロイド剤が使用されます。副作用が強いことで有名なステロイドですが、軟膏やクリームなどの外用剤としてステロイドを使用する場合は、ほとんど副作用がありません。薬を皮膚だけに作用させることができるため、有効な作用だけを得て副作用を極力少なくさせることができるのです。
ただ、それでもステロイドの副作用により、使用が困難な方はいます。また、強力なステロイド剤を使用したとしても、症状が改善しない方もいます。そのような場合、タクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)の使用を検討します。
もともと、タクロリムスは臓器移植時などの拒絶反応を抑える薬として利用されていました。臓器移植などで使用されるタクロリムスは、プログラフ、グラセプターという商品名で活用されています。
そこで、タクロリムスによる強力な免疫抑制作用に着目し、これを塗り薬として応用しようと考えた結果、開発された薬がタクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)です。
タクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)は、ステロイド剤にみられるような皮膚障害(皮膚萎縮、毛細血管拡張など)を生じないことが期待されています。また、顔面や頸部(くび)に起こるアトピー性皮膚炎に対して、長期使用(7週間)が可能であったことも分かっています。
小児に対しても使用可能な薬であり、この場合は薬の含有量を少なくさせた製剤を使用します。ステロイド剤など、既存の薬では治療が難しい場合、免疫抑制剤が有効です。
このような特徴により、ステロイド剤とは異なる作用機序によって免疫の働きを抑え、アトピー性皮膚炎を治療する薬がタクロリムス(商品名:プロトピック軟膏)です。
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