▽薬に頼らないほど健康になれる
私が薬学生だったとき、薬を飲めば病気は治るものだと思っていました。また、薬を活用するほど、健康に過ごせると考えていました。
しかし、実際に薬剤師として活動するようになると、大きな疑問を感じるようになります。それは、薬は病気を治さないどころか、薬なしで生活した方が健康になれるという事実を知るようになったからです。
例えば、生活習慣病は薬が必要ない疾患の代表です。薬に頼らないで症状を改善させる方が適切です。また、医薬品が病気を治すならまだしも、薬によって健康を害することがあります。実際、私は高齢者が薬の副作用によって苦しむ姿を見てきました。
抗がん剤には延命効果はあるものの、がん自体を治すことはまずありません。さらに、抗がん剤の副作用は大きく、むしろ寿命を縮めることが頻繁にあります。しかしながら、実際の医療現場では病気の人には必ず薬を出そうとします。
実は医者などの専門家でさえも、薬を正しく使えていない人がかなり多いのです。
もちろん、いっさいの薬を否定しているわけではありません。薬を必要とする場面もあります。病気の症状が急激に悪化したり、心筋梗塞など命に関わる病気を発症したりしたときは必要です。
急性症状のときは一刻を争います。多少の副作用が表れたとしても、症状を抑えなければ命に関わります。しかしながら、症状がある程度まで落ち着いたのであれば、薬を飲むよりも、生活習慣などを改めたほうが何倍も効果的であることがほとんどです。
薬には副作用があります。そのため、本来は薬の服用をできるだけ少なくして健康に過ごせるように手助けすることが真の医療です。
健康を取り戻すには薬に関する正しい知識を持ち、どうすれば薬なしで健康に過ごせるのかを知ることが大切です。医者任せにせず、あなた自身が薬に関する正しい知識を身につけることが何よりも重要です。本書がそのための手助けになればと思います。
▽本の一部を立ち読み
血糖値を下げると死亡率が高まる(第2章 P.74~77)
「木を見て森を見ず」ということわざがあります。これは、小さなことにとらわれてしまい、全体を見渡せなくなっている状態を指します。医療ではこうしたことが頻繁に起こります。その例として糖尿病が挙げられます。
糖尿病は血糖値が異常に高くなってしまう病気です。糖は脳の栄養素として不可欠な物質ですが、血液中の糖濃度が高すぎると毒性を発揮するようになります。腎臓や網膜などの細い血管に障害を与え、腎症を招いて人工透析が必要になったり、目の血管が傷ついて失明に至ったりします。
人工透析に陥る原因の一位が糖尿病で、失明原因の上位も糖尿病です。他にも神経障害を起こし、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。こうした合併症を防ぐためにも、糖尿病患者は血糖値を抑えようとします。確かに、血糖値を下げることで合併症を予防することは大切です。しかし、薬によって血糖値を下げようと努力するほど、死亡率が高くなります。
これは、米国国立衛生研究所(NIH)の傘下にある組織が行ったACCORD試験によって明らかになりました。このときは、次の2つ分けて実施しました。
・厳格に血糖コントロールを行う群
・通常の血糖コントロールを行う群
血糖値はHbA1cという指標を用いて行います。これは1~2か月の血糖値がどのように変化したのかをHbA1cによって確認することができるからです。食事や間食をすることですぐに変動する数値ではないため、糖尿病の指標として好都合なのです。
HbA1cが6.5%を超えると糖尿病と判断されますが、「厳格に血糖コントロールを行う群」はHbA1c6.0%未満を目標にし、「通常の血糖コントロールを行う群」ではHbA1cの目標を7.0~7.9%に設定して試験を行いました。
当初、「厳格な血糖コントロールを行うことで、死亡率が低くなる」ことを証明しようとしたのですが、結果は逆でした。血糖値を厳格にコントロールした方では総死亡率が22%も増加していたのです。
なぜ、このような結果になったのでしょう。それは、血糖値を薬によって下げ過ぎたことによる低血糖が問題でした。
糖尿病の治療薬の多くは、主にインスリンと呼ばれる物質に働きかけることで作用します。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンです。そこで薬によってインスリンの働きを強めるのですが、インスリンの作用が強くなりすぎた結果、重篤(じゅうとく)な副作用である低血糖に陥ってしまったのです。
低血糖を起こすと動悸や冷汗、手指のふるえが起こり、症状が重くなると昏睡状態に陥ることがあります。厳格に血糖コントロールすると命に関わる重度の低血糖が頻発し、心筋梗塞や脳卒中が誘発されたのです。この結果、当初は5年間の追跡調査による試験が3年半で中止になりました。
いまの医療は薬を使用し、数値を改善することだけを考えてしまいがちです。ただ、それだけにとらわれてしまうと、患者さんの死亡率を高めてしまうのです。血糖値は、ほどほどに抑えることが適切なのです。
それにしても、製薬会社はこうした重要な情報をあまり表には出しません。都合の悪い情報も本来は積極的に発信して、健康に生活できる人を増やすことが使命であるべきです。
個人差を考えない薬の弊害(第3章 P.129~131)
筆者が薬剤師として薬を患者さんに手渡すとき、薬の弊害に気が付くことがあります。例えば、薬の投与量です。
薬は使い方があらかじめ決められています。添付文書と呼ばれる説明書のようなものがあり、それに従って用いるのです。このとき、どのような人であっても基本的に薬の使用量は同じです。
つまり、体重40㎏程度のやせ細ったおばあちゃんであっても、体重100㎏を超える巨漢の男性であっても、成人として薬の投与量は同じなのです。薬剤師でなくても、この事実は何か変だと感じるはずです。少なくとも、おばあちゃんに薬を投与すると、薬の効き目が強く表れやすいことは
誰でも想像できます。
しかし、医療業界ではこうした個体差をほとんど考えません。全員が一定の薬物量を使用するのが基本です。
ここまで極端でなくても、薬に個体差は意外と表れやすいのです。最もわかりやすい例はアルコールです。世の中にはアルコールに強い人がいれば、ちょっと飲んだだけでも顔が赤くなって倒れてしまう人がいます。この違いはどこにあるのでしょうか。それは、持っている代謝酵素に遺伝子レベルで違いがあるからです。
アルコールに強い人は、アルコールの代謝に関わる酵素の働きが強いのです。一方、アルコール代謝に関する酵素の働きが生まれながらにしてほとんどない人がいます。このような人がアルコールを飲むと真っ赤になって倒れるなど、大変なことになります。
まったく同じことが薬にも当てはまります。肝臓に存在する酵素によって代謝されるという点において、薬とアルコールは同じです。肝臓での代謝酵素は個体差があるため、人によって個人差が大きいのです。
しかし、アルコールの摂取量は個人で調節できるものの、薬の量は勝手に調節できません。前述のとおり、薬の投与量は基本的に全員が同じだからです。
なお、腎臓の機能が悪いことが事前にわかっている場合、薬の量を減らすことはあります。ただ、年齢や体重などを含め、個人差を考慮しないことは大きな問題だといえます。全員が一律の治療を受けなければいけない医療は、副作用被害をもたらす原因のひとつにもなっています。
超高齢地域で医療費と死亡率が減少(第5章 P.201~202)
意識を変えるだけで、医者や薬いらずの生活を実現できます。これについて、財政破たんした夕張市の医療から紐解いていきます。
北海道夕張市は、財政破たんしたことで、様々な公共サービスがストップしました。医療も同様で、夕張市内にひとつだけあった総合病院の病床数は、ほぼ1/10に減りました。CTやMRIなどの検査機器は市内にゼロ、心筋梗塞など大きな病気を発症したときは札幌市までドクターヘリ
で飛ぶしかありません。つまり、救急搬送までに時間がかかります。
さらに、夕張市の高齢化率は45%を超えています。日本の平均高齢化率の約2倍です。
医者の数が激減し、公共サービスがストップして、市民が超高齢であることを考えると、夕張市は悲惨な状況になったのではと想像されます。しかし、現実は逆です。救急車の出動回数や医療費、死亡率など、すべてが減少しました。
例えば、ピーク時に比べると、救急車の出動回数は約半分程度になりました。なぜ、救急車の負担が減ったのでしょうか。これは、医療への考え方の変化によるものでした。
▽いま飲んでいる薬が危ない! もくじ
まえがき
第1章 いま、飲んでいる薬がアブナイ!
1-1 薬があなたの健康を脅かす
1-2 風邪薬はもらわない
1-3 吐き気止め、下痢止めの薬
1-4 睡眠薬
1-5 鎮痛薬
1-6 便秘薬
1-7 高齢者は飲まない方がよい薬
コラム コーヒーやお茶で薬を飲んでも問題ない!?
第2章 細知っていますか? 生活習慣病を治す薬はありません
2-1 薬は病気を治さない
2-2 高血圧の薬で不健康になる
2-3 コレステロールの薬は、病気への貢献度が低い
2-4 糖尿病の治療は、ほどほどがいい
2-5 ガイドラインによって薬が増える
2-6 骨粗しょう症は薬よりも転倒防止に注意を
2-7 認知症の薬は病気を治さない
第三章 副作用による薬の危険性
3-1 「抗生物質」は病気の根本原因に働きかける
3-2 クスリのリスク
3-3 薬害はなぜ起こるのか
3-4 薬の危険性と依存
3-5 漢方薬の安全神話は嘘!
3-6 加齢や病気による体の変化と薬の効き目
3-7 抗がん剤は効くのか?
3-8 緩和医療の重要性
コラム 「覚せい剤」を強壮剤として使用!?
第四章 良い医者と薬剤師を見分ける方法
4-1 医者の正しい選び方
4-2 薬剤師の活用法
4-3 お薬手帳の意義
コラム 薬の点数と医療費
第5章 薬をやめて健康に暮らす
5-1 人間は歳と共に「衰えない」
5-2 睡眠の基本
5-3 痛みと運動
5-4 食事の役割
5-5 サプリメント
5-6 水の重要性
5-7 コーヒーと緑茶が健康をつくる
5-8 病院を頼らない健康への意識改革
あとがき
【著者プロフィール】
深井 良祐(ふかい りょうすけ)
薬剤師。1986年岡山県岡山市生まれ。岡山大学薬学部卒業後、同大学院で創薬化学(メディシナルケミストリー)を専攻し、修士課程を修了。
在学時に薬学系サイト「役に立つ薬の情報~専門薬学」(https://kusuri-jouhou.com/)を開設。月290万PV以上のアクセス数をほこる(2015年6月現在)。難解な学問と思われる「薬学」を一般向けに分かりやすく解説し、情報発信を行う。
医薬品卸売企業の管理薬剤師として入社後はDI(ドラッグインフォメーション)業務・教育研修を担当。独立後、現在は薬剤師だけでなくコンサルタントとして活動している。株式会社ファレッジ 代表取締役。