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ティーエスワン(TS-1)物語:5-フルオロウラシルの工夫

 

 テガフール:5-フルオロウラシルの工夫
昔から使われている抗がん剤として5-フルオロウラシルがありますが、この薬にはいくつか問題点があります。その一つとして、半減期の短いことが挙げられます。

 

5-フルオロウラシルの半減期は約10分です。そのため、そのままの状態では作用時間がとても短いです。薬を服用してもすぐに効果がなくなってしまうため、扱いが難しく何回も投与しなければいけません。

 

そこで、プロドラッグ化を施すことによって半減期を長くしてやります。このような工夫をした薬がテガフールです。

 

 テガフールによる作用時間の持続化

 

テガフールは肝臓の代謝酵素によって徐々にフルオロウラシルへと変換されます。テガフールの半減期は約7.5時間であるため、これだけの時間をかけて少しずつ抗がん作用を示す有効成分へと変化していきます。

 

これによって、抗がん剤の半減期を長くして効果を持続させることが可能になります。

 

 テガフールと5-フルオロウラシルの半減期

 

 ティーエスワン(TS-1):テガフールの工夫
このように、5-フルオロウラシルを工夫したものとしてテガフールがあります。そして、このテガフールの作用をさらに改良した医薬品がティーエスワン(TS-1)です。

 

抗がん剤は副作用が強いことで有名です。これは5-フルオロウラシルも例外ではなく、下痢や悪心・嘔吐の副作用が強いです。

 

また、テガフールによるプロドラッグ化を行ったとしても、それでも抗がん作用を得るための十分な血中濃度を得るには不十分です。

 

そこで、これらの問題点を改善させた薬としてテガフール、ギメラシル、オテラシルカリウム(商品名:ティーエスワン)があります。三つの薬剤が配合されていることにより、「5-フルオロウラシルによる副作用を回避しながら、抗がん剤としての効果も強める」という事が可能になっています。

 

前述の通り、テガフールは5-フルオロウラシルのプロドラッグです。薬をプロドラッグ化することによって、半減期を長くしています。

 

ここに、さらに5-フルオロウラシルの作用を強めるための薬を付け加えます。この作用をする薬剤がギメラシルです。

 

テガフールは肝臓で代謝を受けることによって5-フルオロウラシルへと変換されます。この時、テガフールが5-フルオロウラシルへと変換されると同時に、肝臓に存在するその他の酵素によって分解・不活性化が行われます。

 

5-フルオロウラシルによる抗がん作用はがん細胞に届くことでようやく効き目を表すようになります。そのため、5-フルオロウラシルががん細胞に到達する前に肝臓で代謝されてしまうと、その分だけがん細胞を殺す作用が弱くなってしまいます。

 

そこで、肝臓で5-フルオロウラシルが代謝・分解される過程を阻害します。これによって、5-フルオロウラシルの効果が持続するようになります。

 

 ギメラシルの作用機序

 

なお、この時に肝臓で生成する分解物は神経毒性にも関与しているため、ギメラシルは5-フルオロウラシルの効果を高めるだけでなく副作用を軽減する役割も果たしています。

 

また、細胞増殖の速い細胞はがん細胞だけでなく、「白血球などの血球成分」や「小腸粘膜などの消化管」も増殖速度が速いです。そのため、5-フルオロウラシルの副作用としては白血球の減少や消化管障害による下痢などがあります。

 

この時、5-フルオロウラシルはがん細胞の中に入った後に活性化することで細胞毒性を示すようになります。この細胞毒性が抗がん作用の本体となります。

 

これと同じように、5-フルオロウラシルが消化管に分布した後で活性化すると、消化管障害を引き起こします。血液成分を作る骨髄に分布した後に活性化すると、白血球の減少などの作用が起こります。

 

そこで、例えばがん細胞での5-フルオロウラシルの活性化を抑制することはないが、小腸など消化管の細胞での活性化を抑えるように設計します。すると、5-フルオロウラシルによる副作用を軽減することができるはずです。

 

 オテラシルカリウムの作用機序

 

このように、消化管での5-フルオロウラシルの活性化を抑制する薬としてオテラシルカリウムがあります。消化管細胞での細胞毒性を防ぐことが出来るため、オテラシルカリウムを配合することによって消化管症状の副作用を回避することができます。

 

このように、「抗がん剤としての活性本体であるテガフール」、「5-フルオロウラシルの作用時間を延ばすギメラシル」、「5-フルオロウラシルによる消化管障害を抑制するオテラシルカリウム」の三剤を配合した抗がん剤がティーエスワン(TS-1)です。

 

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