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ドネペジル物語:日本で生まれた世界初のアルツハイマー型認知症治療薬

 

記憶力がなくなっていくアルツハイマー型認知症は高齢になればなるほど問題となる病気の一つです。

 

徐々に症状が進行していき、高度アルツハイマー型認知症にまで進行すると寝たきりとなります。そして、このアルツハイマー病治療薬には物語があります。

 

 

 

 ドネペジル(商品名:アリセプト)

 

 母への想いで生まれた新薬
アルツハイマー型認知症の治療薬を世界で始めて発見した研究者は日本人であり、名前を杉本八郎と言います。「九人兄弟の八番目に生まれた」という理由から八郎と名付けられ、戦後20年の厳しい時代を母に育てられました。

 

高校を卒業後に製薬企業へ就職した杉本さんは夜間部の大学へ通い、有機化学を基盤として研究を続けていきました。このような中でも、母に対して恩返しをしたいという気持ちがありました。

 

そのような中、母親が脳血管性の認知症を患ったのはその矢先でした。見舞いに行った時、杉本さんの母親は尋ねます。 「あんたさん……、誰ですか?」

 

杉本さんは「あなたの息子の八郎ですよ」と言います。すると、「八郎? 私にも八郎という息子がいるんですよ」と返答したのです。

 

このとき杉本さんはショックを受け、悲しみました。恩返しをしようと思っていたのに、母親が自分を認識してくれなかったのです。

 

それからと言うもの、杉本さんは認知症に対する治療薬の開発を決心しました。それが、母親に対する親孝行であるとも考えていました。

 

 アルツハイマー型認知症治療薬の開発
当時、アルツハイマー型認知症のメカニズムは不明でした。アルツハイマー型認知症に対するいろいろな仮説がある中で杉本さんはコリン仮説に着目し、研究をスタートさせました。

 

記憶は脳で行っていますが、これには神経伝達物質が関わっています。神経伝達物質の中でも、「記憶・学習」を行うものにアセチルコリンがあります。これに着目し、脳内のアセチルコリン量を増やすことでアルツハイマー型認知症を治療しようとする考え方がコリン仮説です。

 

研究を始めた頃、コリン仮説によるアルツハイマー型認知症治療薬は「農薬を作ることしかできない」と言われていました。

 

実際、農薬はアセチルコリンの作用を強めることで殺虫作用を示す種類があります。松本サリン事件で問題となった毒ガスのサリンも「アセチルコリンの作用を強める」という毒性を示します。そのような観点で言えば、毒ガスであるサリンもアルツハイマー型認知症治療薬であるアリセプトも同じ作用機序です。

 

そのため、副作用を抑えて認知症を治療するためには、全身には作用せず、脳に対して選択的に作用させる必要があります。

 

このような難しい研究でしたが、ついに杉本さんは世界初の認知症治療薬の開発に成功しました。それは、母親が他界してから五年後の事でした。

 

自分の母親を治療することは出来ませんでしたが、この研究によって世界で何百万人ものアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる画期的な治療薬を開発したのです。

 

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