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役に立つ薬の情報~専門薬学

TDMの意義・投与設計(抗てんかん薬)

 

 TDMとは
薬によっては、血液中にどれだけ薬物成分が存在するかを適切に調べる必要があるものがある。そうしないと重篤な副作用が起こったり、薬が適切に作用しなかったりしてしまうからである。

 

TDMは薬物の血中濃度を調べることであるが、これを調べることによって「薬が適切に作用しているか」や「副作用が表れないか」などを判定する。

 

TDMの対象となる薬には次のような特徴がある。

 

・薬の治療域が狭く、治療域と中毒域が近い
・薬が効いているかどうかが分からないもの
・「これ以上であれば副作用が出る」と分かっているもの
・投与量から血中濃度を予測しにくいもの
・過剰投与による危険性が極めて高いもの

 

「薬が効いているかどうかが分からないもの」であるが、例えば予防のための薬がある。頭痛薬なら頭痛が治まれば効いているということが実感できる。しかし、予防の薬では本当に予防できているかどうかを確かめることができない。

 

発作の薬は予防のために飲むが、その薬の血中濃度が本当に治療域に達しているかどうかは実感することができない。そのため、TDMが必要なのである。

 

 投与設計の意義
薬を投与するとき、経験に従って「これくらい投与すれば良い」と考えるのは危険がある。なぜなら、患者によってそれぞれ薬がどれだけ代謝されるか、どれだけ分布されるかなどが異なってくるからである。

 

ある薬物が主に腎から排泄される場合、「腎不全の患者であれば薬が排泄されにくい」ということは容易に想像することができる。しかし、「実際にどれくらいの量を投与しよう」と考えたとき困ってしまう。

 

そのため、患者と薬の情報から投与する薬物量を計算する必要がある。このように、患者情報と薬から投与すべき薬物量を求めることを投与設計という。

 

投与設計において覚えておかないといけないのは、定常状態という概念である。同じ間隔で同じ薬物量を続けて投与していくと、いつかは同じ血中濃度を推移するようになる。これが定常状態である。そして、定常状態では必ず「薬物の投与速度=薬物の消失速度」となる。

 

投与設計をする場合、低い血中濃度から様子を見たいなら、CLtotを低い値で計算してやれば良い。体格の良い大きい体つきをしているならVdの値を高くし、小柄な人ならVdを低い値でとればよい。腎不全や肝不全の患者ではCLtotが低くなることが多い。

 

以下に薬の例を挙げて実際に投与設計を行おうと思う。

 

 バルプロ酸ナトリウム(抗てんかん薬)

 

有効治療域:50~100μg/mL、目標血中濃度:75μg/mL

 

体内動態パラメータ

F:

1.0

Vd:

0.14L/kg(0.1~0.5L/kg)

CLtot:

小児(10~13mL/kg/hr)

大人(6~10mL/kg/hr)

t1/2

小児(6~8hr)

大人(6~12hr)

 

この薬は投与量に従って血中濃度も推移していく。そのため、ただ単に「投与速度=消失速度」の式を作ればよい。投与速度、消失速度はそれぞれ次の式で表わされる。

 

 投与速度 = D・F/τ
 消失速度 = Cp・CLtot

 

そのため、初期投与は「D = Cp・CLtot・τ/F」となる。

 

患者において「体重60kgの大人、24時間おきに投与するとする」という条件で行うとすると、次のようにして投与量を求めることができる。

 

Cp = 75μg/mL
CLtot = 10mL/kg/hr
τ = 24hr
F = 1.0

 

 D = 75μg/mL×(10mL/kg/hr×60kg)×24hr/1.0 = 1080μg ≒ 1.1g

 

維持投与量として、1.1gを投与すれば良い。なお、これは一つの例であり、目標血中濃度や全身クリアランス等の数値を変えることで様々な答えを導き出すことができる。

 

 フェニトイン(抗てんかん薬)

 

有効治療域:5~20μg/mL、目標血中濃度:15μg/mL

 

体内動態パラメータ

F:

1.0

Vd:

0.65L/kg

CLtot:

血中濃度に依存

Km:4μg/mL(1~20μg/mL)

Vmax:7mg/kg/day(5~15mg/kg/day)

t1/2

血中濃度に依存

 

フェニトインは投与量と血中濃度に相関がない。つまり、全身クリアランスは血中濃度によって変化する。そのため、定常状態における式が少し変化する。

 

しかし、変化するのは「投与速度=消失速度:D・F/τ = CLtot・Cp」のCLtotの部分だけである。そして、フェニトインでの定常状態は次の式によって表わされる。

 

 

 

この式の通り、「Vmax / (Km + Cp)」の要素がCLtotとなっていることが分かる。そして、消失速度の式はミカエリス・メンテンの式と全く同じであるということも分かる。ミカエリス・メンテンの式は次のような式である。

 

 

 

このように、フェニトインの消失速度はミカエリス・メンテンの式で表わすことができるのである。

 

患者において「体重60kgの大人、1日おきに投与するとする」という条件で行うとすると、次のようにして維持投与量を求めることができる。

 

Cp = 15μg/mL
Km = 4μg/mL
Vmax = 7mg/kg/day
τ = 1day
F = 1.0

 

 D×1/1day = 7mg/kg/day×60kg/(4μg/mL+15μg/mL)×15μg/mL
 D = 331.57… ≒ 330mg

 

なお、フェニトインを投与する場合、定常状態に達するまで7日以上かかると言われている。そのため、最初の数日は薬としての作用が現れにくくなっている。

 

そのため、いきなり血中濃度を高くさせて薬としての効果を発揮させたいとき、負荷投与を行う必要がある。

 

   

 

それでは、負荷投与の量を計算してみたいと思う。

 

負荷投与量を考えるとき、「定常状態のときの、全身に存在する薬物の総量」を思い浮かべれば良い。ここでは、目標血中濃度を「Cp=15μg/mL」としており、フェニトインの分布容積は「Vd=0.65L/kg」である。つまり、CpとVdの積を取ることで、定常状態のときに体の中に存在する総薬物量を出すことができる。

 

このとき計算した総薬物量を投与してやれば、体の中では定常状態のときと同じ量の薬物が流れるようになり、いきなり定常状態にもってくることができる。

 

 Cp×Vd = 15μg/mL×0.65L/kg×60kg = 585mg

 

計算の結果、この患者は定常状態に達したとき体全体では「585mg」の薬物が全身を巡っていることが分かる。逆にいえば、「585mg」の薬物(ここではフェニトイン)を最初から投与してやれば一気に定常状態までもってくることができるのである。

 

つまり、負荷投与量は「585mg」となる。それぞれの単位を考えれば、負荷投与量を出す式を導き出すのは全く難しくないはずである。
※負荷投与量 D = Cp × Vd

 

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