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役に立つ薬の情報~専門薬学

金の切れ目が「命」の切れ目

 

 グリベックによる新たな問題
白血病治療に革命をもたらしたグリベックですが、新たな問題を引き起こしたとも考えられています。それは、金銭的な負担です。

 

グリベックはとても高価な薬であり、2001年に承認されて値段がついた時は一カプセル約3500円でした。一日に四カプセル服用しなければいけないため、一日の薬代が約1万4000円になります。これが一ヶ月続くと、薬代だけで月に40万円を越します。医療保険によって窓口負担が3割になるとしても、かなりの額になります。

 

高血圧治療薬でも、一日の薬代は一種類で高くて200円程度です。生活習慣病の薬がいくら高いとはいっても、グリベックに比べると圧倒的に安価です。

 

ただ、日本には高額療養費制度があります。これは、医療費が高額になりすぎてしまった患者さんのために「ある一定額を超えた医療費を払い戻す」という制度です。一般的な所得の方は月に4万4400円の負担で済むようになるため、年に50万円程度の費用で治療を続けることができます。

 

「命に比べると、それくらいのお金なら払える」と思う人が多いかもしれませんが、実際はそう上手くいきません。

 

 経済的負担によるグリベックの中止
国税庁の調査によると、2012年に民間企業で働く人が受け取った給与は正規と非正規を平均して408万円であったことが分かっています。ここからさらに税金が引かれ、家のローンや子供の教育費などでお金が消えていきます。治療費が収入の約8分の1を占めるため、これが大きな負担になります。

 

東京大学医科学研究所の調査によると、約3割の患者さんが「経済的負担によってグリベックの服用中止を考えたことがある」と回答しています。そして重要なのは、その中の約1割の患者さんは実際にグリベックの服用を止めていました。

 

また、グリベックの副作用がいくら軽減されているとはいっても、抗がん剤である以上はさまざまな副作用が表れます。薬の服用によって長期就労が難しかったり、生活がしづらくなったりします。

 

このような背景もあり、グリベックが導入される2000年から2008年の間に慢性骨髄性白血病患者の収入は150万円程度減少し、年間の医療費は22万円も増加していたという報告があります。

 

いずれにしても、「命」と「金」がてんびんにかけられている状態です。「金の切れ目が命の切れ目」というと冷たい印象を与えますが、実際に慢性骨髄性白血病の患者さんはそのような状況にいます。そして、これが刑事事件に発展したこともあります。

 

 医療制度による問題
2009年に東京で77歳の乳がん患者の母親が白血病患者の娘を殺害し、逮捕されるという事件が起きました。両人ともがん患者であり、二人の治療費が月に何十万円もかかるため、母親が将来を悲観したというものです。

 

このように、高額療養費制度が整っていたとしても、経済的理由によって事件が起こることもあります。命を救う薬があるにも関わらず、「薬を服用できない」という現実は日本でも例外なく起こっています。

 

また、医療費制度には他の問題もあります。高額療養費で4万4400円までが限度額だとされていますが、これは一つの医療機関を受診した場合に限ります。

 

少し話が複雑になりますが、複数の医療機関を受診した場合、「一つの医療機関を受診したときの一ヶ月の自己負担額が2万1000円以上」でなければ高額療養費として算定することができません。

 

例えば、高額療養費を受けて治療しているA病院の他に、同じ病気の治療のためにBクリニックを受診しなければいけなくなったとします。この時、Bクリニックでの自己負担額が2万1000円を下回れば、高額療養費として支払っている4万4400円とは別にお金を支払わなければいけません。

 

そのため、病気の治療のために緊急で他の医療機関を受診しなければいけなくなった場合、より多くの負担がのしかかることになります。

 

ちなみに、医療機関を外来で受診して処方せんを発行してもらい、薬局で調剤を受けた場合、薬局での支払いは処方元の医療機関での医療費と合算することができます。医療機関と薬局での医療費を合わせた額で計算するため、この場合は心配する必要はありません。

 

医療制度は変わっていくため、将来はより良い制度になっているかもしれません。ただ実際には医療制度にも多くの問題があり、現状ではこのようにお金にまつわるさまざまな問題が発生しています。

 

それでは、海外ではどのような状況になっているのかというと、先進国の中でも実はイギリス、フランス、イタリアはグリベックに関して患者負担がないとされています。韓国も無料であり、ドイツでは上限が決められていて約2万7000円といわれています。

 

海外とは医療保険制度が異なるために単純には比較できませんが、少なくともグリベックに関していえば、日本では重い負担を強いる制度になっています。

 

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