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役に立つ薬の情報~専門薬学

ジゴシン(ジゴキシン)の作用機序:心不全治療薬

 

心臓の動きが悪くなると、全身に血液を送り出せなくなります。いわゆる、心不全の状態です。これにより、血液の流れが悪くなってしまいますが、この状態を「うっ血」と呼びます。この心不全によって引き起こされるうっ血がうっ血性心不全です。

 

これにより、全身に浮腫(むくみ)が表れます。血液(水分)の流れが悪いため、全身のあらゆる場所に水が溜まって浮腫が起こるのです。

 

そこで、この状態を改善するために使用される薬としてジゴキシン(商品名:ジゴシン)があります。ジゴキシンは強心配糖体と呼ばれる種類の薬になります。

 

ジゴキシン(商品名:ジゴシン)の作用機序

 

心不全では、心筋の収縮力が弱っています。そのために力強い拍動が起こらず、うっ血性心不全に陥ってしまいます。

 

この心不全を改善させるためには、心筋の収縮力を増大させればよいことが分かります。この時に使用される薬がジゴキシン(商品名:ジゴシン)です。

 

心筋の収縮に大きく関わる物質としてカルシウム(Ca)があります。カルシウムの99%は骨や歯に存在しますが、残り1%は全身に存在します。この1%のカルシウムが記憶形成や神経伝達などの生命活動に関与しています。

 

そして、カルシウムは心臓の収縮にも大きく関わっています。カルシウムの濃度が高まると、心臓の拍動が力強くなるのです。

 

ジゴキシン(商品名:ジゴシン)は心筋細胞のカルシウム濃度を高める働きがあります。これにより、心筋収縮力が増大し、心臓の働きが弱くなっている状態を改善させることができます。その結果、うっ血性心不全を治療できます。

 

ジゴシン(ジゴキシン)の作用機序::強心配糖体

 

このような考えにより、心筋細胞内のカルシウム濃度を高め、心臓の働きを改善させる薬がジゴキシン(商品名:ジゴシン)です。ジゴキシンのように、心臓の拍動を強める作用を強心作用と呼びます。

 

ジゴキシン(商品名:ジゴシン)の特徴

 

古くから使用されている民間薬にジギタリスがあります。ジギタリスは植物であり、ジギタリス葉、末、抽出物などが浮腫を治療するために使用されてきました。そして、このジギタリスから抽出された有効成分がジゴキシン(商品名:ジゴシン)です。

 

ジゴキシン(商品名:ジゴシン)を経口投与すると、投与後15~30分で効果が表れはじめます。また、4~6時間で最大の効果を示すようになります。その剤形としては錠剤、散剤、エリキシル剤(液剤)、注射剤などがあるため、用途によって薬を使い分けていく必要があります。

 

ただし、ジゴキシンの問題点として、有効域と中毒域の間が狭いということがあります。そのため、過量投与になりやすく、量が多過ぎるとジギタリス中毒として心室性期外収縮、房室接合部性頻拍、房室ブロックなどの不整脈が表れてしまいます。

 

また、高血圧、疲労、筋力低下などを引き起こす低カリウム血症に陥りやすい薬でもあります。これら副作用の観点から、慎重に薬を用いる必要があります。

 

なお、一回の収縮力を高めるため、ジゴキシン(商品名:ジゴシン)は心臓の拍動が早くて血液を十分に送り出せない心房細動・粗動などの頻脈も改善します。

 

このような特徴により、心臓の拍動を強めることで心不全を治療する薬がジゴキシン(商品名:ジゴシン)です。

 

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)の効能・効果

 

・うっ血性心不全(肺水腫、心臓喘息等を含む)

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)はうっ血性心不全の治療に使います。心不全とは心臓の収縮力が低下して、血液を全身に循環させることが難しくなって状態のことです。

 

心不全では血液を送り出す能力が低下し、血管内部で血液が進みにくくなります。この状態をうっ血(血液のうっ滞)といいます。うっ血になると血液によって循環するはずの栄養や酸素が全身に行き届かず、さまざまな体調不良が起きます。ジゴシンは心臓の収縮力を強めて、うっ血状態を改善し、うっ血性心不全を治療します。

 

心不全の状態ではうっ血以外にも肺水腫になることがあります。肺水腫とは肺に水がたまった状態です。

 

心臓が健康な状態では血液の循環がうまくいっているため、肺の中に水がたまることはありません。これは、肺とつながっている左心房が正常に働き、肺から血液をしっかり吸い上げるためです。

 

しかし、心不全になると左心房の働きが弱まり、肺から水を吸い上げる力が低下します。すると、肺から水を吸い上げる力よりも肺に水を送る力が強くなります。その結果、肺の中に水が溜まってしまい、肺水腫の状態に陥ります。

 

また、心不全による呼吸困難を心臓喘息と呼ぶことがあります。心不全で肺水腫になると肺胞の中に水がたまり、血液のガス交換(酸素と二酸化炭素の交換)がうまくいきません。

 

酸欠のような状態になり、息苦しくなるため、呼吸困難になります。心臓喘息という名前がついていますが、一般的な喘息である気管支喘息とは全く違う原因でおこります。ジゴシンは心臓の収縮力を高めることで、肺水腫と心臓喘息の症状も改善します。

 

・心房細動・粗動による頻脈

 

ジゴシンは心房細動・粗動による頻脈にも使用されます。心房細動と心房粗動はどちらも心房(心臓の部屋)でおこります。頻脈とは脈拍の回数が増える不整脈のことです。

 

心房細動は心房のどこで起こるかわからないのが特徴です。また、同時期に複数の場所で興奮が起こることもあります。興奮のタイミングもバラバラで非常に不規則に発生する不整脈といえます。

 

心房粗動は心房細動と似ていますが、心房の興奮回数の違いで区別され、興奮回数が少ないのが特徴です。また、心房粗動は比較的限られた場所で起こります。

 

共通点としては、どちらの不整脈も脈拍数を増やすタイプの不整脈です。ジゴシンは心臓の収縮力を上げる方向に働きますが、脈拍数は下げる作用があります。ただし、脈拍数を下げる作用は弱いため、頻脈性の不整脈(脈拍の早い不整脈)の治療薬としての効果は低く、第一選択薬となる場合はほとんどありません。

 

・発作性上室性頻拍

 

上室頻拍とは、心房細動・粗動と違い規則的に脈を打つのが特徴です。非常に速く拍動し、長い間不整脈が続きます。ジゴシンは脈拍数を低下させることで上室性頻拍にも使用します。

 

ちなみに、心房および房室接合部をまとめて上室といいます。心房は心臓の部屋のことで、心臓の構造でいうと上半分の部屋のことです。また、下半分の部屋のことを心室と呼び、房室接合部は心房と心室を分ける心臓の中心箇所にあります。

 

心臓は電気信号によって拍動しています。洞結節と呼ばれる場所から電気が発生し、心臓の決まった経路を通って電気信号が心臓全体に伝わります。心臓の拍動を引き起こす一連の電気信号経路のことを刺激伝導系といいます。

 

心臓の拍動回数は刺激伝導系を通る電気の速度を速くしたり、遅くしたりすることで調整しています。電気信号の速度を調整する箇所を房室結節といい、房室結節の次に電気が通る場所をHis束といいます。この心臓の刺激伝導系における房室結節とHis束をあわせて房室接合部と呼びます。

 

・心不全及び各種頻脈の予防と治療

 

手術、急性熱性疾患、出産、ショック、急性中毒では心不全や頻脈が起こるリスクがあります。発症が予想されるときにジゴシンを予防的に服用することがあります。また、実際に心不全や頻脈が起こった際も治療薬としても使用します。

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)の用法用量

 

成人に対してジゴシンを使うとき、急速飽和療法と維持療法の2種類の方法があります。

 

・ジゴシンの急速飽和療法と維持療法

 

急速飽和療法は一度に大量のジゴシンを投与することで、素早く治療効果を引き出す方法です。有効性を優先する場面で使用する方法といえます。

 

一方で維持療法は少量のジゴシンを継続的に投与します。副作用を観察しながら徐々に治療効果を引き出します。急速飽和療法と比べると安全性を優先した方法と言えます。

 

ただ、ジゴシンは効果がでる量と中毒になる量が接近しています。そのため、慎重に薬の量を増やしていかないとすぐに中毒症状が出てしまいます。

 

急速飽和療法では急激に血液の中のジゴシン量が増えるため、中毒になる危険性が高いです。そのため、救急処置が必要な心不全など命の危険がある人に用いられる場合がほとんどです。

 

添付文書(薬の説明書)にも急速飽和療法は過量になりやすいので、緊急を要さない患者には治療開始初期から維持療法による投与も考慮することと記載されています。また、急速飽和療法は、注射によって行われることがほとんどです。

 

また、ジゴシンは中毒になりやすいため、血液中のジゴシンの濃度を測定しながら、患者さんに適した投与量を決定して管理します。これを、専門用語で患者別投与設計(TDM:therapeutic drug monitoring)と呼び、TDMを必要とすることがあります。

 

・急速飽和療法や維持療法での投与量

 

成人に対して急速飽和療法では1回目に0.5~1.0mgを投与します。その後、6~8時間ごとに0.5mgずつを服用し、十分効果のあらわれるまで続けます。通常、飽和量は1.0~4.0mgであり、増量の目安にします。また、血液中のジゴシン濃度を測定しながら、投与量を増やします。

 

維持療法では、1日1回服用します。1回量は0.25~0.5mgです。血液中のジゴシン濃度を測定しながら、適切な服用量を決定します。

 

なお、ジゴシンの一包化に関する詳細なデータはありません。ただ、40℃、湿度75%、光照射によって4週間安定であるとのデータがあります。そのため、一包化可能な薬剤です。また、ジゴシン散も存在するため、粉砕は問題ないと判断できます。簡易懸濁法でもジゴシンは使用できます。

 

また、ジゴシン錠には割線があり分割を行うことができます。錠剤が大きいときや量を調節したいときに割って飲むことができます。

 

もし、飲み忘れた場合は、飲み忘れた分はとばして服用するようにします。服用のタイミングが近いと過量投与になり中毒になる危険性が高いからです。

 

ジゴシンの注射剤については、心房細動が起こっている人の頻脈を抑えるために使用されます。急速飽和療法はあまり使用されず、0.125mgや0.25mgを徐々に、中毒症状を確認しながら投与していきます。

 

ジゴシン注は生理食塩水または5%ブドウ糖で4倍以上に希釈して使います。点滴時間は5分以上かけて行います。急速静注(ワンショット静注)では動脈が収縮することが知られています。心臓に負担を増大する危険性があるので、急速静注は避けたほうが良いでしょう。

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)の主な副作用

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)は昔からある薬であり、副作用の頻度を明確にする調査は行われていません。そのため、副作用の発生頻度は不明です。

 

ジゴシンの主な副作用としては、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢などの消化器系の症状があります。また、光がないのにちらちら見える、黄視、緑視、複視などの視覚異常、めまい、頭痛、失見当識、錯乱、せん妄などの精神系の症状も知られています。さらに、発疹、蕁麻疹、紫斑、浮腫などの皮膚症状、女性型乳房、筋力低下が起こることがあります。

 

また、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、Al-Pの上昇などの肝機能や血小板数減少などの臨床検査値異常にも注意が必要です。

 

ジゴシンの重大な副作用

 

・ジギタリス中毒

 

ジゴシンの重大な副作用のひとつとしてジギタリス中毒があります。ジギタリスとは、古くから民間薬として用いられてきた植物のことです。ジゴシンはジギタリスから抽出された成分であり、過量服用になるとジギタリス中毒の症状が発生します。

 

初期症状として悪心、嘔吐などの消化器症状や視覚異常、めまい、頭痛、失見当識、錯乱、せん妄など精神症状があらわれることが多いです。中毒症状が進むと高度の徐脈、発作性心房性頻拍などの不整脈があらわれることがあります。

 

脈がひどく遅くなる、脈が速くなる、脈がとぶ、脈が乱れる、息切れ、急に意識がなくなる、胸が締めつけられる、胸が痛いなどの症状が表れた場合は、命にかかわる危険信号です。重症化しないように初期症状の段階で副作用を発見することが大切です。

 

消化器症状、視覚症状、精神症状があらわれた場合には、薬の量を減らすことや休薬することを検討しましょう。特に「投与量を増やした時」「飲み方を変更した場合」「併用薬を変えた時」に起こりやすいので注意します。

 

ちなみに、ジゴシンが引き起こす嘔吐は脳の中にある嘔吐中枢への刺激が関係しています。脳には「嘔吐中枢に刺激を送る部位」があり、これを専門用語で化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone:CTZ)といいます。

 

ジゴシンそのものやジゴシンによって低下した電解質異常(ミネラル異常)によって化学受容器引金帯(CTZ)が反応します。このときの反応が嘔吐中枢に伝わり吐き気を誘導すると考えられています。

 

・非閉塞性腸間膜虚血

 

ジゴシンは内臓血管の血流を低下させることが知られています。ジゴシンの投与によって腸間膜の血管に血液が行き届かず、腸管が壊死してしまうことがあります。腸が構造的に詰まっていない(非閉塞性)にもかかわらず、虚血状態になるのが特徴です。

 

急激な腹痛、便に血が混じる、発熱、吐き気、嘔吐などの症状があらわれた場合には投与を中止して、適切な処置を行う必要があります。

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)の禁忌

 

ジゴシンを服用するのが禁止されている場合があります。まず、ジキタリス製剤を使って重篤な副作用が起きた人は禁忌です。他にも下記の患者さんには投与禁忌です。

 

・房室ブロック、洞房ブロックのある患者

 

房室ブロック、洞房ブロックは心臓の興奮が伝わらなくなる(または伝わり方が遅くなった状態)です。どちらも脈拍数が少なくなるタイプの不整脈です。ジゴシンによってさらに脈拍数が低下してしまい、これらの不整脈を悪化させることがあるため禁忌となっています。

 

・ジギタリス中毒の患者

 

すでにジギタリス中毒の患者さんが服用すると症状を悪化する可能性があるため禁忌となっています。

 

・閉塞性心筋疾患(特発性肥大性大動脈弁下狭窄等)のある患者

 

閉塞性心筋疾患は心臓に負担がかかり、心臓が肥大する疾患です。左心室から大動脈への出口部分のことを左室流出路と呼びます。この左室流出路が狭くなっている(閉塞している)ことが原因で起こるため、閉塞性心筋疾患と呼びます。

 

左室流出路が狭いと心臓から全身に血液を送り出すのに非常に強い力を必要とします。そのため、心臓に負担がかかり、心臓が肥大してしまいます。

 

ジゴシンは心筋の収縮力を増強することで、心臓の負担を増やすので、心臓の肥大を招いてしまう可能性があります。閉塞性心筋疾患を悪化させることがあるので禁忌となっています。

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)との併用注意(飲み合わせ)

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)には飲み合わせに注意が必要な薬がたくさんあります。他の薬を飲みはじめるときまたは休薬する場合には、ジゴシンの血中濃度の推移、自覚症状、心電図等に注意する必要があります。

 

・カルシウム注射剤、グルコン酸カルシウム、カルチコール注射液等、塩化カルシウム

 

ジゴシンの不整脈を治療する作用は心筋内部のカルシウム濃度に依存します。カルシウム注射剤を静脈投与すると急激に血中カルシウム濃度が上昇します。血中カルシウムの上昇によって、ジゴシンの作用に影響を与えて、毒性が急激に出現することがあるので、注意が必要です。

 

副作用を避けるため、ジゴシンを服用中の患者さんへカルシウム注射剤を投与するときは、急激にカルシウム濃度を上昇させないように、少ない量から徐々に投与していく必要があります。

 

・レラキシン(一般名:スキサメトニウム塩化物水和物)

 

レラキシンは筋弛緩剤として使用されています。レラキシンは血液中のカリウムの濃度を上昇させて重度の不整脈をひきおこすことがあります。

 

また、血液中のカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンなど)の濃度も上げることがしられています。カテコールアミンは心臓を制御している神経のうち、興奮させる方の神経に働きます。カテコールアミンは心臓に作用(β受容体刺激作用することで、興奮を引き起こし、不整脈を引き起こすリスクがあります。

 

このようにレラキシンには不整脈を引き起こすリスクがあります。ジゴシンと併用することでさらに重篤な不整脈が起きおこす危険性があるので注意が必要です。

 

ジゴシンの作用を増強する薬剤

 

ジゴシンの作用を増強することが知られている薬剤があります。これらの薬剤はジギタリス中毒の症状を引き起こすことがあるので併用に注意が必要です。

 

併用をはじめてから悪心、嘔吐などの消化器症状や視覚異常、めまい、頭痛、失見当識(状況などを正しく理解できないこと)、錯乱、せん妄など精神症状があらわれた場合は減量や休薬、中止を検討します。

 

ジゴシンの作用を強める理由によって、併用注意の薬は以下のように分類することが出来ます。

 

・不整脈治療薬

 

抗不整脈薬はジゴシンの腎臓からの排泄を抑制することで、ジゴシンの血液中薬物濃度を上昇させ、効果を増強することがあります。

 

また、同じような作用や反対の作用を持つ薬を一緒に飲むことで、効果が過剰に出たり、弱くなったりすることがあります。このような薬剤の作用機序によって起こる相互作用を「薬力学的相互作用」と呼びます。

 

不整脈治療薬とジゴシンはどちらも脈拍に作用する薬です。併用によって薬力学的相互作用が起こり、不整脈が起こる可能性があります。以下が代表的な不整脈治療薬ですので、併用には注意が必要です。

 

アンカロン(一般名:アミオダロン)、キニジン、ピルメノール、タンボコール(一般名:フレカイニド)、サンリズム(一般名:ピルジカイニド)、プロノン(一般名:プロパフェノン)、ベプリコール(一般名:ベプリジル) 

 

・ステロイド(副腎皮質ホルモン)

 

ステロイドの服用で血中のカリウム濃度が低下することがあります。血中カリウム濃度が2.5mEq/l以下となると不整脈が起きる可能性があります。ジゴシンによる不整脈を誘導してしまう可能性があります。

 

・利尿剤

 

過度に利尿(おしっこを出す)をすると、血中カリウム濃度が低下してしまうことがあります。血中カリウム濃度が低下すると重篤な不整脈を起こすことがあります。ジゴシンとの併用で不整脈を誘導してしまう可能性があるので、以下の薬剤の使用には注意が必要です。

 

ニュートライド(一般名:ヒドロクロロチアジド)、フルイトラン(一般名:トリクロルメチアジド)、ラシックス(一般名:フロセミド)、ダイアモックス(一般名:アセタゾラミド)など

 

・ビタミンD誘導体とカルシウム剤

 

ロカルトロール(一般名:カルシトリオール)、エディロール(一般名:エルデカルシトール)、ワンアルファ(一般名:アルファカルシドール)などのビタミンD誘導体は小腸や腎臓でカルシウムの吸収を促進する働きがあり、血中カルシウム濃度が上昇します。

 

また、カルシウム経口剤、カルシウム含有製剤、高カロリー輸液などはカルシウムを含む製剤です。ジゴシンは心筋内部のカルシウムの量が増えることで効果を発揮すると考えられています。心筋のカルシウム濃度が高くなるとジゴシンの作用が強くなります。そのため、血中カルシウム濃度を高める薬と併用することで、ジゴシンの毒性が急激に出現することあります。

 

・P糖タンパク質(薬の排泄に関わる機構)の抑制

 

私たちの体には薬を排出する物質が存在し、これをP糖タンパク質といいます。P糖タンパク質は代表的な薬剤排出タンパクのひとつです。ジゴシンはP糖タンパク質によって腎臓の尿細管(老廃物が排泄される管)から尿中に分泌されます。

 

ただ、薬によってはP糖タンパク質の機能が阻害するものが存在します。これらの薬を服用すると「ジゴシンの尿中に排泄される過程」が阻害されるため、ジゴシンの血液中の薬物濃度があがり、作用が増強します。

 

以下がP糖タンパク質(薬の排泄に関わる機構)を阻害する薬剤です。

 

サムスカ(一般名:トルバプタン)、リピトール(一般名:アトルバスタチン)、ノービア(一般名:リトナビル)、インビラーゼ(一般名:サキナビル)、インテレンス(一般名:エトラビリン)、テラビック(一般名:テラプレビル)、ゼルボラフ(一般名:ベムラフェニブ)

 

・ジゴシンの腎排泄阻害

 

ジゴシンはほとんどが未変化体(肝臓で代謝されない)の状態で尿中に排泄される腎排泄型の薬剤です。ジゴシンの尿中への排泄が阻害されると血中濃度が上昇し、作用が増強する可能性があります。以下がジゴシンの腎排泄を阻害する薬です。

 

インドメタシン、ボルタレン(一般名:ジクロフェナク) 、アルダクトン(一般名:スピロノラクトン)、ワソラン(一般名:ベラパミル)、ヘルベッサー(一般名:ジルチアゼム)、アダラート(一般名:ニフェジピン)、ネオーラル(一般名:シクロスポリン)、イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)、バクタ・バクトラミン(一般名:スルファメトキサゾール・トリメトプリム)

 

・心臓に対する作用のためにジゴシンの作用を増強

 

ジゴシンと心臓に作用する薬を併用すると、互いに心臓に対して効果を発揮することで、不整脈を引き起こすことがあります。以下の薬剤はジゴシンの作用を強める可能性があります。

 

インデラル(一般名:プロプラノロール)、テノーミン(一般名:アテノロール)、アーチスト(一般名:カルベジロール)、メインテート(一般名:ビソプロロール)、アポプロン(一般名:レセルピン)、アドレナリン、オルシプレナリン、イソプレナリン

 

・抗生物質製剤

 

抗生物質は腸内細菌に作用し、菌のバランスを崩すことがあります。その結果、ジゴシンの代謝を抑制する可能性があります。また、ジゴシンを細胞から排出するP糖タンパク質(ジゴシンの排出に関わる機構)の抑制により、ジゴシンの血中濃度が上昇します。

 

そのため、以下の抗生物質に注意が必要です。

 

エリスロシン(一般名:エリスロマイシン)、クラリス・クラリシッド(クラリスロマイシン)、ガチフロ(一般名:ガチフロキサシン水和物)、アクロマイシン(一般名:テトラサイクリン)

 

詳細な機序は不明ですが、ジスロマック(一般名:アジスロマイシン)も効果を増強する可能性があるので、慎重に投与します。

 

ジゴキシンの作用を減弱する薬剤

 

・リファジン(一般名:リファンピシン)

 

ジゴシンは細胞から薬を除去する機能をもつP糖タンパク質によって排泄されます。また、メインではないものの、肝臓の代謝酵素によっても不活性化されます。

 

このときの肝臓の代謝酵素を専門用語でCYP3A4といいます。リファジンはP糖タンパク質やCYP3A4の量を増やすことで、ジゴシンの血中濃度を低下させることがあります。

 

・作用機序は不明だがジゴシンの作用を減弱

 

明確には理由はわかっていませんが、下記の薬剤はジゴシンの作用を弱くするので注意が必要です。

 

テグレトール(一般名:カルバマゼピン)、フラジオマイシン、グルコバイ(一般名:アカルボース)、セイブル(一般名:ミグリトール)

 

高齢者への使用

 

高齢者に投与するときはジギタリス中毒が起きやすいので注意が必要です。高齢者では腎排泄機能が衰えているので、ジゴシンの排泄速度が低下して、血中のジゴシンの濃度が高くなりやすいためです。

 

また、高齢者では筋肉量が少ないのも副作用が起きやすい理由のひとつです。ジゴシンは主に骨格筋に分布します。骨格筋内の濃度が高くなり、副作用が起きやすくなります。

 

高齢者の筋肉量は人によって差があり、腎機能の衰え方も違うため、個別に薬の量を設定することが大切です。リスクを回避するために少ない量から投与を開始して、ジゴシンの血中濃度を測定し、心電図を撮り異常が出ないかチェックしながら慎重に投与します。

 

また、ジキタリス中毒の初期症状である悪心・嘔吐などの消化器症状や視覚異常、めまい、頭痛、失見当識、錯乱、せん妄など精神症状をこまめに確認します。また、内服薬としてジゴシンを服用するときは0.125mg以下の服用が勧められています。

 

小児(子供)への使用

 

小児は成人に比べてジギタリス中毒があらわれやすいといわれています。少量から開始し、血中濃度や心電図等を監視するなど、十分に観察しながら投与することが重要です。

 

小児への適応も成人と同じで、うっ血性心不全、心房細動・粗動、発作性上室性頻拍などに使います。ただ、ほとんどは上室性頻拍を抑えることを目的として使用されます。心不全への有用性はかなり限定的であり、第一選択薬として使用されることはめったにありません。

 

小児に対するジゴシンの投与方法にも、急速飽和療法と維持療法があります。

 

急速飽和療法では、通常、2歳以下は1日0.06~0.08mg/kgを3~4回に分けて投与します。2歳以上は1日0.04~0.06mg/kgを3~4回に分けて服用します。ほとんどの場合が注射で行われます。血液中のジゴシン濃度を測定しながら、投与量を増やします。

 

維持療法では、通常、飽和量の1/5~1/3量を服用量の目安とします。乳幼児(7歳未満)は0.0075~0.01mg/kg/日を、学童(7歳以上)は0.005~0.0075mg/kg/日を服用します。血液中のジゴシン濃度を測定しながら、適切な服用量を決定します。

 

小児の治療域は成人と同じで0.5~2.0ng/mlです。治療域とは、「薬としての効果があり、かつ副作用が現れない」という濃度範囲です。この値を超えると副作用の発生頻度が上がり、この値より下だと効果が少ないです。

 

血液の薬の濃度が半分になるまでの時間を専門用語で半減期といいます。乳幼児では成人に比べて半減期が短くなります。成人では半減期が36~48時間であるのに対して、乳児(1歳未満)では20時間、幼児(1歳以上7歳未満)は40時間です。

 

乳児では体内からジゴシンが消失しやすい分、治療効果を出せるように適切な用法と投与量を選ぶ必要があります。特別な理由がないかぎりは、維持療法を選択して少ない量で治療を行うと安全です。

 

妊婦・授乳婦への使用

 

妊婦に対するジゴシンの安全性は確立していません。動物の生殖試験において胎児に催奇形性や胎児毒性もしくは有害作用があることが知られています。

 

人の胎児への影響は確認されていないものの潜在的なリスクが高い薬剤です。「母体の治療上の有益性が胎児への危険性を上回る」と判断される場合にのみ限定する必要があります。

 

ただ、実際のところジゴシンを服用した母親から生まれた子供の調査を行ったところ、142例で先天異常(胎児期に発生する異常)との関連は見られていないという調査結果があります。

 

授乳婦に関しても同様に、有益性が危険性を上回るときに服用することが大切です。国立成育医療研究センターでは授乳中の人でも安全に服用できる証拠が揃った薬のリストを公開しています。その中で、ジゴシンは授乳中に安全に使用できる薬剤として紹介されているので、授乳可能といえます。

 

ジゴシンが母乳へ移行する量はとても少ないことが知られています。授乳婦がジゴシンを通常の治療に使用される量を飲んだ状態で、母乳の中のジゴシンの量は効果が現れる量の3%程度と推定されています。そのため、アメリカの小児科学会でもジゴシンは授乳可能とされています。

 

また、授乳婦に対してジゴシンを使用する場合には、「ジゴシンの量を最低限にする」「赤ちゃんの様子に注意して投与する」などを確認する必要があります。

 

 

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)の効果発現時間:薬物動態

 

ジゴシンを経口投与すると、投与後15~30分で効果が表れはじめます。また、4~6時間で最大の効果を示すようになります。

 

成人における半減期(薬の濃度が半分になるまでの時間)は35~48時間です。非常に長い間、体に作用するので中止や減量をした後も副作用の確認を継続して行う必要があります。また、薬の量を増量や減量による影響も大きいので、慎重に投与量を変更する必要があります。

 

患者別投与設計(TDM:therapeutic drug monitoring)

 

ジゴシンは治療域と中毒域が非常に近い薬です。治療域とは、「薬としての効果があり、かつ副作用が現れない」という濃度範囲です。この値を超えると副作用の発生頻度が上がり、この値より下だと効果が少ないです。

 

ジゴシンの安全性と有効性を確保するために血液中のジゴシンの濃度を測定しながら、患者さんに適した投与量を決定して管理する患者別投与設計が必要になることがあります。

 

ジゴシンの血中濃度が2.0ng/mL以下の場合、94.5%の人で中毒症状は現れません。一方、2.0ng/mL以上の66.6%は中毒がおこり、2.6ng/mL以上では全例 で中毒症状がおきます。そのため、ジゴシンは有効血中濃度が0.5~2.0ng/mlが治療域といわれます。

 

また、臨床では0.5~0.8ng/mlが至適血中濃度として推奨されています。「0.8ng/ml以上での副作用発生が確認されている」「ジゴシンの長期服用で全死亡リスクが高くなる」が理由です。

 

採血は服用後12~24時間が良いとされています。これは、ジゴシンの吸収・排泄が安定し、定常状態(薬の作用が一定になった状態)での値が測定できるからです。もし、そのタイミングで採血が難しければ、少なくとも服用後6時間たってからにします。6時間以内では吸収・分布している途中なので、血中濃度が安定しないからです。

 

ジゴシンと類似薬との違い

 

・β遮断薬とジゴシンとの使い分け

 

β遮断薬は心不全や頻脈性心房細動に使用される薬です。心臓のβ1受容体を遮断することにより、心拍数低下や筋収縮力低下作用があります。

 

代表的なβ遮断薬としてアーチスト(一般名:カルベジロール)、メインテート(一般名:ビソプロロール)、テノーミン(一般名:アテノロール)があります。ただし、テノーミンは心不全の適応はもっていません。

 

心房細動の頻脈に対してβ遮断薬とジゴシンはどちらも使用します。しかし、優先順位としてはβ遮断薬の方が高く、心機能が良好な場合には第一選択薬となります。一方で、心機能が低下している人にはジゴシンの方を優先して使用します。また、β遮断薬で十分な効果が得られない場合には、ジゴシンを追加して併用することがあります。

 

心不全に関しては重症度によって使い分けられています。心不全の重症度は軽い順から「無症候性(具体的な症状が出ていない)、軽症、中等症~重症、難治性)に分けることができます。

 

β遮断薬は無症候性から使用するのに対して、ジゴシンは軽症から使用されます。ジゴシンは比較的重症度が高い人に用いられることがわかります。

 

・カルシウム拮抗薬との使い分け

 

カルシウム拮抗薬は高血圧の治療薬で有名ですが、不整脈にも使用します。心臓の拍動にはカルシウムの流入が関わっています。カルシウム拮抗薬は心筋へのカルシウムの流入を阻害することで、心臓の拍動を遅らせることができます。

 

不整脈に使用する代表的なカルシウム拮抗薬にはワソラン(一般名:ベラパミル)、ヘルベッサー(一般名:ジルチアゼム)、ベプリコール(一般名:ベプリジル)があります。ただし、ヘルベッサーの経口薬は不整脈への適応はなく、注射剤のみ使用可能なので注意が必要です。

 

不整脈の治療には、脈拍数をコントロールするためのレートコントロールと、心臓の電気的興奮を一定に保つためのリズムコントロールがあります。カルシウム拮抗薬とジゴシンはいずれも脈拍数を下げる効果があるため、頻脈性不整脈のレートコントロールを目的として使用します。

 

カルシウム拮抗薬と違う点として、心機能が良好な人にはカルシウム拮抗薬の方がジゴシンよりも優先的に使われます。一方、ジゴシンはうっ血性心不全への効果があります。そのため、心機能低下した心不全の患者さんの不整脈に対してはジゴシンを優先的に使います。

 

一方、カルシウム拮抗薬は心筋の収縮力を低下させる(陰性変力作用)ため、心不全の患者さんには使用を控えるべき薬剤です。添付文書においても、うっ血性心不全の患者さんには併用注意であり、重篤な場合は禁忌の薬剤です。このようにカルシウム拮抗薬とジゴシンは患者さんの心機能が低下しているかどうかで使い分けをします。

 

・ラニラピッド(一般名:メチルジゴキシン)との違い

 

ジゴシンを腸管からの吸収率を高くするように改良した製剤がラニラピッド(一般名:メチルジゴキシン)です。服用後に効果が現れるまでに、ジゴシンでは約15~30分ほどかかりますが、ラニラピッドは約 5~20 分と効果の発現が早いのが特徴です。排出速度は同程度であるため、効果持続時間はほぼ同じです。

 

構造に関して、ラニラピッドはジゴシンの末端にある水酸基を選択的にメチル化した化学構造となっています。効果に関してはほぼ同程度なので、即効性が一番の違いです。

 

また、ラニラピッドはジゴシンよりも吸収率が高く、ジゴシンの投与量の2/3を目安に用量を調整します。例えば、ジゴシン0.5mgからラニラピッドへ切り替える場合には、約0.33mgに減量する必要があります。

 

・ジギラノゲン(一般名:デスラノシド)との違い

 

ジギラノゲンはジゴシンと同じジキタリス製剤のひとつです。心不全と心房細動・粗動、上室性不整脈に使用する点も同じです。半減期(薬の濃度が半分になる時間)に違いがあり、ジゴシンの半減期は35~48時間なのに対して、ジギラノゲンの半減期は2相性になっています。

 

一般的には、薬が体内から消失していく時間はほぼ一定であり、「尿や便によって排泄される過程」で決まることが知られています。

 

しかし、ある種の薬は「体内で吸収される過程」「薬が体中に行きわたる過程」「薬が代謝・不活性化させる過程」による影響により、2種類の半減期をもつことがあります。この2種類の半減期のことを「半減期の2相性」といいます。

 

ジギラノゲンの第1相(分布相)の半減期は24~28分、第2相(排泄相)の半減期は 42~43時間です。また、ジゴシンは錠剤、散剤、注射剤と剤形がありますが、ジギラノゲンは注射剤しかありません。

 

ジゴシンとジギラノゲンはどちらも血中濃度を測定して適切な量を決定する薬剤です。ジゴシンは成分であるジゴキシンの濃度を測定することができます。

 

しかし、ジギラノゲンは成分であるデスラノシドを直接測定することができず、ジゴキシンの濃度を推定する方法になり、正確ではありません。よって、ジギラノゲンはより中毒症状に注意しながら使用する必要があるといえます。

 

ジゴシンの食事やサプリメントとの相互作用

 

セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort,セント・ジョーンズ・ワート)を含んでいる食品を摂取するときは注意が必要です。セイヨウオトギリソウはジゴシンの代謝酵素であるCYP3A4(肝臓の代謝酵素)を増やします。

 

そのため、 ジゴシンの排泄を促進し、血中濃度が低下するおそれがあります。ジゴシンを飲んでいる患者さんにはセイヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意することが大切です。

 

また、ジゴシンとアルコールとの相互作用は特に報告されていません。ただ、一般的にアルコールは心拍数にも影響を与えるため、摂取はできるだけ控えた方がよいでしょう。

 

なお、納豆、グレープフルーツとの食べ合わせは問題ありません。

 

ジゴシンを慎重投与すべき人

 

ジゴシンを服用する際に注意が必要な人について説明します。

 

・急性心筋梗塞の人

 

心臓は自分に血液を送るための血管をもっていて、これを冠動脈と呼びます。急性心筋梗塞では冠動脈がつまってしまい、心臓に血液を送ることが出来ない虚血の状態になります。

 

ジゴシンを投与すると心筋収縮力増強により、全身への血液循環が進みます。その結果、冠動脈への血液循環が進まず、心筋虚血を悪化させる可能性があります。

 

・心室性期外収縮の人

 

ジゴシンの過量服用でジキタリス中毒がおこることがあります。心室性期外収縮は心室で発生する頻拍のことです。中毒によっておこる不整脈と鑑別ができないおそれがあるため、注意が必要です。定期的に心電図をとるなどして注意深く観察することが大切です。

 

・電解質異常のある人

 

電解質異常(低カリウム血症、高カルシウム血症、低マグネシウム血症)がある場合、ジゴシンと併用注意です。

 

ジゴシンの抗不整脈作用は血中カルシウム濃度が高くなると発現しやすくなるといわれています。また、血中カリウム濃度や血中マグネシウム濃度の異常は不整脈を引き起こす原因になります。

 

そのため、電解質異常がある人にジゴシンを投与すると不整脈を誘引してしまう可能性があるので慎重に投与します。

 

・腎疾患の人

 

ジゴシンは腎臓によって排出される薬です。腎臓に障害があると、ジゴシンの血中濃度が高くなり、ジギタリス中毒を起こす可能性が高くなります。そのため、腎機能によって減量する必要があります。

 

内服薬は腎機能を示す指標である血清クレアチニン値(Ccr)によって減量基準が設けられています。通常が「1日1回0.25~0.5mg服用」なのに対して、「Ccr10~50ml/min:1日1回0.125mg服用」、「Ccr<10ml/minおよび腹膜透析:48時間に1回0.125mg服用」、「血液透析:2~4回/週に1回0.125mg」で服用します。

 

・血液透析の人

 

ジゴシンは透析によってほとんど除去できません。そのため、透析患者は血中濃度が高くなりやすいので注意が必要です。また、透析をすると血清カリウム値が低下する可能性があるため、中毒を起こすおそれがあります。

 

ちなみに腹膜透析を平均8mL/分で実施した場合、回収できるジゴシンは平均2%で、血清中の半減期は88時間です。また、血液透析を平均10mL/分で回収できたジゴシンは平均3%未満で、流速500mL/分で血液透析を行った時の回収率は平均15%です。

 

・甲状腺機能亢進症のある患者

 

甲状腺機能亢進症の人では一般に腎排泄機能が高いことが知られています。甲状腺機能亢進症の患者さんがジゴシンを服用すると、健康な人に比べて血中濃度が低くなります。そのため、作用が減弱し、大量投与を必要とする場合があります。

 

また、メルカゾール(一般名:チアマゾール)、チウラジール・プロパジール(一般名:プロピルチオウラシル)は甲状腺機能亢進症の治療に使います。これらの薬で甲状腺機能亢進が改善すると、高くなっていた腎排泄機能が正常にもどり、ジゴシンの排泄は弱くなります。その結果、ジゴシンの血中濃度が高くなり、効果が強くなるので注意が必要です。

 

ジゴシンを過量投与した場合の対処法

 

ジゴシンを過量に服用するとジギタリス中毒が起こることがあります。もし、ジギタリス中毒を発生した場合には下記の対処をすることが重要です。

 

・薬物排泄

 

胃内のジゴシンを排出するための処置が行われます。催吐や吸引と胃洗浄などの処置や活性炭や下剤を投与して排出を促します。特に活性炭がジゴシンの吸収を防止するために有効です。また、クエストラン(一般名:コレスチラミン)の投与でジゴシンの除去できることも知られています。

 

その他、不整脈が出現した場合は抗不整脈薬を使用したり、電解質異常が出現した場合にはカリウムやカルシウムなどの電解質を補給することで改善したりします。

 

ジゴシンの取り扱い

 

室温(1~30℃)で光の当たらないところにおいて保管します。湿気を避けて、ふたのついた容器などに入れて保管します。

 

ジゴシンエリキシル

 

ジゴシンの剤形にエリキシル剤があります。エリキシル剤はエタノールを含んでいるため、アルコール過敏症の人は使用しないようにします。

 

また、アルコール中毒治療薬として使用するノックビン(一般名:ジスルフィラム)やシアナマイド(一般名:シアナミド)との併用には注意が必要です。エリキシル剤に含まれるアルコールと反応して、過呼吸などの反応が起きるので使用してはいけません

 

ジゴシンの心房細動患者への影響

 

心房細動の治療にジゴシンを使用した場合、心血管系による死亡、突然死が多くなることがROCKET AFという試験で報告されています。ROCKET AF試験は、心房細動の人の脳卒中および血栓塞栓症の予防について、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)と ビタミンK拮抗薬の差について比較した試験です。

 

ジゴシンの心房細動に対する効果を検討した試験ではありませんが、ジゴシンの使用で死亡率が上昇しました。このことから、ジゴシンはすべての人の心房細動の治療に使われる薬ではなく、心不全がある場合など患者さんの背景に合わせて使うことが大切です。

 

配合変化に注意する薬剤

 

ジゴシンの注射剤を用いるときに問題になってくるのが配合変化です。以下の薬剤はジゴシン注と混合するとジゴシンの含有量の低下あるいは変色することがわかっているので注意して使用します。

 

薬剤名

24時間後の状態

24時間後のジゴシン含有量(%)

イノバン注 (一般名:ドパミン) わずかに黄色を帯びた澄明 94.0
カコージン注(一般名:ドパミン) 淡黄色澄明 94.8
ガスター注(一般名:ファモチジン) 無色澄明 95.7
ドブトレックス注(一般名:ドブタミン) わずかに黄色を帯びた澄明 89.5
ビソルボン注(一般名:ブロムヘキシン) ビソルボン注(一般名:ブロムヘキシン) 94.7
5%ブドウ糖液100mL 無色澄明 95.5
フルカリック1号 淡黄色澄明 90.3
フルカリック2号 淡黄色澄明 91.7
フルカリック3号 淡黄色澄明 94.2
ポタコールR輸液(5%マルトース加 乳酸リンゲル液) 無色澄明 92.5

 

このようにジゴシン(一般名:ジゴキシン)は心不全や不整脈の治療薬として活用されます。使う人の病気や飲んでいる薬に応じて、調整して使用することが大切です。また、中毒にもなりやすい薬なので、中毒の症状や対処方法を理解しておくことが重要です。

 

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