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役に立つ薬の情報~専門薬学

ファリーダック(パノビノスタット)の作用機序:多発性骨髄腫治療薬

 

多発性骨髄腫は血液がんの一種です。骨の中には骨髄と呼ばれるゼリー状の組織があり、骨髄で白血球や赤血球、血小板などが作られます。

 

白血球にはさまざまな種類があり、その中の一つとして抗体作りに関わるB細胞があります。B細胞は一部が成熟した細胞(形質細胞)へと変化しますが、このときの形質細胞のがん化によって生じたものが骨髄腫です。骨髄腫を発症すると複数の骨が侵されるため、多発性骨髄腫と呼ばれます。

 

形質細胞のがん化によって多発性骨髄腫を発症すると、正常な白血球や赤血球が作られなくなります。その結果、正常な働きを維持できなくなります。

 

そこで、多発性骨髄腫を治療するために用いられる薬としてパノビノスタット(商品名:ファリーダック)があります。パノビノスタットはHDAC阻害薬と呼ばれる種類の薬になります。

 

 パノビノスタット(商品名:ファリーダック)の作用機序
DNAはヒストンと呼ばれる柱のようなものに巻き付いています。ただ、しっかりと柱に巻き付いたDNAの情報を読み取るのは困難であるため、DNAに刻まれている情報を読み取るためには、DNAをヒストン(柱)から剥がさなければいけません。DNAとヒストンが離れると、転写(遺伝情報を読み取ること)が可能になります。

 

しかし、ずっとDNAとヒストンが離れているわけではありません。必要に応じて、再びDNAとヒストンが結合するようになります。このとき、DNAとヒストンの結合に関わる酵素をHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)といいます。HDACが働くと、DNAの機能は抑えられます。そこで、HDACの作用を阻害することで抗腫瘍効果を得ようと考えたのです。

 

それでは、なぜHDAC阻害薬は抗腫瘍効果を発揮するのでしょうか。DNAは細胞分裂にも関わっていることから、HDACを阻害することで「DNAの働きが抑えられる過程」を抑制すると、結果として細胞分裂が活発になりそうな気がします。

 

がん細胞は細胞分裂が異常なほど加速しています。そのため、下手にDNAの働きを強めると、よけいにがん細胞の増殖を招くように思います。

 

ただ、がん細胞では「異常」な状態でDNAとヒストンが離れてしまっています。私たちの体内には、「がん細胞の増殖を抑える遺伝子(専門用語では『p53』という)」があります。がん細胞では、これらがん増殖の抑制に関わる遺伝子の働きが抑えられています。

 

そこでHDAC阻害薬を投与すれば、がん抑制遺伝子について「DNAとヒストンが離れた状態」を維持できるようになります。つまり、効率的にがん細胞を細胞死(アポトーシス)へと導けるようになります。

 

 

 

このような考えにより、がん抑制遺伝子の働きを取り戻させることにより、抗がん作用を発揮させる薬がパノビノスタット(商品名:ファリーダック)です。

 

 

 パノビノスタット(商品名:ファリーダック)の特徴
多発性骨髄腫は10万人に2~3人が発症する病気です。高齢の方に多く、年齢に伴い50歳以降で発症しやすくなります。発症してもすぐに症状が表れず、長い期間にわたって付き合っていく病気です。

 

これら多発性骨髄腫の治療薬としては、他にもボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)という薬が知られています。パノビノスタット(商品名:ファリーダック)とボルテゾミブは作用機序が異なるため、これらを併用することで腫瘍細胞の増殖抑制作用や細胞死(アポトーシス)の増強作用が期待されています。

 

なお、パノビノスタット(商品名:ファリーダック)は再発または難治性の多発性骨髄腫に使用されます。つまり、症状が安定する期間を長くすることによる延命を期待して投与されます。

 

副作用としては、下痢や疲労、悪心・嘔吐が確認されています。また、骨髄に関わるがんを治療するため、血小板減少症、貧血、好中球減少症、リンパ球減少症などの血液学的な副作用も知られています。

 

このような特徴により、遺伝子を制御している酵素に働きかけることによって、がん細胞の増殖を抑える抗がん剤がパノビノスタット(商品名:ファリーダック)です。

 

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