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スプリセル(ダサチニブ)の作用機序:慢性骨髄性白血病治療薬

 

白血病にもいくつか種類があり、その中の1つに慢性骨髄性白血病(CML)があります。慢性骨髄性白血病は百万人あたり10~15人程度発生すると言われる稀な疾患です。いわゆる希少疾病(患者さんの数が少ない病気)です。

 

そこで、慢性骨髄性白血病を治療するために用いられる薬としてダサチニブ(商品名:スプリセル)があります。ダサチニブはチロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる種類の薬になります。分子標的薬といわれることもあります。

 

 ダサチニブ(商品名:スプリセル)の作用機序
「がん細胞は細胞分裂を活発に行う」という性質を利用し、古くから使用される抗がん剤は「細胞増殖の速い細胞」をターゲットとしていました。しかし、この方法では髪の毛の細胞など、正常細胞の中でも比較的増殖が速い細胞に対して強い毒性が表れてしまうという欠点がありました。

 

そこで、「増殖が速い細胞」というあいまいな括りではなく、がん細胞だけに存在する特徴的な性質を狙い撃ちする薬が開発されました。これを分子標的薬と呼びます。

 

分子標的薬を理解するうえで、チロシンキナーゼという言葉が1つのキーワードとなります。チロシンキナーゼは酵素であり、細胞増殖のシグナル伝達に関与します。そのため、異常なチロシンキナーゼが作られると、無秩序な細胞分裂を繰り返すようになります。

 

 チロシンキナーゼの作用

 

これが細胞のがん化に繋がるため、チロシンキナーゼの働きを阻害すれば、がん細胞の増殖を抑えることができるようになります。

 

慢性骨髄性白血病の患者さんでは、染色体に変異が起きています。慢性骨髄性白血病で確認される変異した染色体を専門用語でフィラデルフィア染色体と呼びます。

 

フィラデルフィア染色体のDNA情報から、異常なタンパク質が作られます。この異常なタンパク質をBcr-Ablと呼びます。異常なタンパク質(Bcr-Abl)が細胞増殖に関わるシグナル伝達を促進するため、この時に作られるタンパク質を阻害すれば、白血病細胞の増殖を抑えることができます。

 

 スプリセル(ダサチニブ)の作用機序:慢性骨髄性白血病治療薬

 

このような考えにより、異常なタンパク質に存在するチロシンキナーゼを阻害し、細胞増殖を抑えることで慢性骨髄性白血病を治療する薬がダサチニブ(商品名:スプリセル)です。

 

 

 ダサチニブ(商品名:スプリセル)の特徴
Bcr-Ablだけでなく、ダサチニブ(商品名:スプリセル)は複数のチロシンキナーゼを阻害することで慢性骨髄性白血病の治療を行うと考えられています。

 

同じ分子標的薬による慢性骨髄性白血病の治療薬としてイマチニブ(商品名:グリベック)が有名ですが、ダサチニブ(商品名:スプリセル)はイミチニブが効きにくい場合(イマチニブ抵抗性)であっても高い効果を示します。

 

効果の高い薬であり、多くの方が病気の症状がなくなるまで回復します。ただ、病気の症状が消失したとは言っても、病気から完全に立ち直ったわけではありません。ダサチニブ(商品名:スプリセル)の服用を止めると白血病を再発するため、薬は飲み続けなければなりません。

 

細胞毒性を示すことで抗がん作用を示す薬ではないため、ダサチニブによる脱毛などの副作用は少ないです。その代わり、下痢、頭痛、胸水、好中球減少症、血小板減少症、貧血などの副作用が認められます。

 

このような特徴により、イマチニブ抵抗性や再発性・難治性の慢性骨髄性白血病の治療薬として用いられる薬がダサチニブ(商品名:スプリセル)です。

 

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