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役に立つ薬の情報~専門薬学

麦門冬湯の効能:乾燥による咳(風邪)、気管支炎、気管支喘息

 

風邪に使用される漢方薬としては、葛根湯(かっこんとう)が有名です。しかし、場合によっては風邪症状に他の漢方薬を使用した方が適切な場合もあります。その一つが麦門冬湯(ばくもんどうとう)であり、葛根湯と同じように風邪に用いられます。

 

麦門冬湯では、主に咳症状を鎮めるために使用されます。風邪にも症状によって違いがあるため、これを見極めたうえで漢方薬を使用していきます。

 

麦門冬湯(ばくもんどうとう)と体質

 

漢方薬では、その人の見た目や症状を重要視します。検査値だけではなく、患者さんの様子から「どの薬を使用するのか」を決定するのが漢方薬です。麦門冬湯であれば、次のような人が有効です。

 

・体力が中等度以下
・痰が切れにくい
・ときに強く咳き込む
・咽頭に乾燥感がある

 

このような乾いた咳を有する場合に麦門冬湯が有効です。適した症状の人に使用することで、漢方薬は優れた効果を発揮するようになります。

 

これが葛根湯であれば、「比較的体力のある人」「自然発汗がない」「悪寒がある」などの人に有効です。同じ風邪であっても、症状が違えば使用すべき漢方薬が異なるのです。

 

麦門冬湯の作用

 

咳を鎮めたり痰を出しやすくしたりする作用が、麦門冬湯では知られています。これは、麦門冬湯に生薬(しょうやく)と呼ばれる天然由来の成分が含まれていることが関係しています。麦門冬湯には、以下の6種類の生薬が含まれています。

 

・麦門冬(ばくもんどう)
・半夏(はんげ)
・人参(にんじん)
・粳米(こうべい)
・大棗(たいそう)
・甘草(かんぞう)

 

これらを組み合わせることにより、咳症状に対応するのが麦門冬湯です。6種類の生薬のうち、麦門冬を主成分とするので麦門冬湯と呼ばれています。生薬の中でも、麦門冬は喉を潤すことで痰を出しやすくする作用(去痰作用)が知られています。

 

また、半夏は体を温めて発散させることにより、去痰、鎮咳、鎮静作用があります。人参は新陳代謝を促すことで慢性胃腸炎 消化不良、下痢、軟便など胃腸の虚弱状態を正します。

 

粳米は胃腸を整えて口渇(のどの渇き)や下痢に用いられ、大棗は緊張を緩和させたり腹痛をやわらげたりします。甘草には鎮痛、鎮痙、解毒、鎮咳作用が知られています。

 

なお、薬の作用を調べる試験では、麦門冬湯に鎮咳作用や去痰作用が動物実験などで確認されています。また、気管支拡張作用も認められています。

 

ちなみに、高血圧や糖尿病を有している人であれば、麻黄(まおう)という生薬にエフェドリンという交感神経を刺激する物質が含まれているので、血圧上昇や動悸、血糖値以上などに注意が必要です。葛根湯や小青竜湯、麻黄湯には麻黄が含まれています。

 

一方で麦門冬湯には麻黄が含まれておらず、高血圧や糖尿病の人であっても問題なく服用できます。

 

麦門冬湯ではツムラ(29番)、クラシエ、コタロー、オースギなどさまざまなメーカーから発売されています。医療用医薬品から市販薬(一般用医薬品)を含め、ドラッグストアでも購入可能な薬です。

 

麦門冬湯の使用方法

 

麦門冬湯を投与するとき、成人では「1日9.0gを2~3回に分けて、食前または食間に経口投与する」とされています。食間とは、食事中という意味ではなく、食事と食事の間を意味します。つまり、食後から2時間経過した、胃の中が空の状態を指します。

 

ただ、飲むタイミングがどうしても合わない場合、空腹時(食間)に限らず食後に服用しても問題ありません。

 

麦門冬湯の慎重に使用すべき対象としては、「水溶性の痰が多い人」「浮腫(むくみ)のある人」があります。これらの人が麦門冬湯を使用すると、症状の悪化を招く恐れがあります。

 

これら麦門冬湯としては、

 

・痰の切れにくい咳
・気管支炎
・気管支喘息
・咽頭炎
・のどの乾燥感や違和感
・しわがれ声・声がれ(声帯炎)

 

などの症状に有効です。その他、百日咳や肺炎による解熱後の咳などにも有効です。このような特徴により、主に「痰がなかなか切れない、乾いた咳症状」を和らげるために使用される漢方薬が麦門冬湯です。

 

 

麦門冬湯の副作用

 

麦門冬湯は副作用の少ない薬であり、長期間服用しても問題になることは少ないです。ただ、副作用がゼロというわけではなく、確認されている副作用としては「発疹、じんましんなどの過敏症」や「食欲不振、胃部不快感などの消化器症状」があります。

 

体質(証)に合わない漢方薬を服用すると、体調が悪くなるなどの副作用が起こりやすくなります。そこで、麦門冬湯に適した患者さんへ投与する必要があります。

 

また、ほとんど心配する必要はありませんが重大な副作用としては間質性肺炎が報告されています。発熱、咳き込み、呼吸困難、肺音の異常などが表れたら薬の使用を中止します。

 

さらに、麦門冬湯に生薬として甘草が含まれていることから、偽アルドステロン症も重大な副作用になります。血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫(むくみ)、体重増加、低カリウム血症などの症状を引き起こす疾患が偽アルドステロン症です。

 

低カリウム血症に伴い、脱力感、四肢けいれん、麻痺などの運動障害を伴うミオパチーを発症することもあります。また、肝機能障害・黄疸も重大な副作用の一つです。

 

飲み合わせについては、麦門冬湯ではほとんどありません。ただ、偽アルドステロン症や低カリウム血症(ミオパチー)が表れやすくなるため、甘草を含む他の漢方薬との併用は飲み合わせに注意するようになっています。なお、麦門冬湯に禁忌はありません。

 

高齢者への使用

 

高齢者には体力がなく、もともとの虚弱者や病後で体力が落ちてしまっている方がいます。麦門冬湯は虚弱体質の人など、体力が中等度以下の人に用いられます。そのため、高齢者に対しても活用されます。

 

特に加齢に伴って気道が乾燥するようになり、乾いた咳をするようになることがよくあります。こうした空咳や咳喘息を含め、麦門冬湯は高齢者によく用いられます。

 

小児(子供)への使用

 

高齢者だけでなく、小児に対しても麦門冬湯は広く活用されます。小児気管支炎や小児ぜんそくを含め、子供の咳症状に麦門冬湯を使用します。

 

のどのイガイガやカサカサ、乾いた咳、かすれた声・声がれなどの症状が表れたら、小児に対して麦門冬湯が処方されるようになります。

 

このとき、麦門冬湯の小児薬用量としては以下のようになります。

 

・7~15歳未満:成人の2/3
・4~7歳未満:成人の1/2
・2~4歳未満:成人の1/3
・2歳未満:成人の1/4以下

 

成人の量から換算し、年齢から服用量を決定していきます。乳児、幼児など幼い子どもであっても服用して問題ない薬です。

 

漢方薬というと苦いイメージがあります。ただ、麦門冬湯の味は甘いです。人によっては「おいしい」と感じるため、苦い漢方薬を飲むのが難しい子どもであっても、麦門冬湯であれば服用できる可能性があります。

 

また、効果的な飲み方(飲ませ方)としては、お湯に溶かすという方法もあります。このときは水やお茶に限らず、コーヒーやココアなど飲みやすいと感じるものに溶かして子供に飲ませれば問題ありません。市販薬の中には、トローチの麦門冬湯もあります。

 

妊婦・授乳婦への使用

 

妊娠中の人であっても、麦門冬湯を使用して問題ありません。乾燥によるひどい咳を妊娠中に生じるようになった場合、産婦人科などで麦門冬湯が処方されます。

 

妊娠初期での催奇形性を含め胎児に影響はなく、多くの妊婦が麦門冬湯を服用しています。麦門冬湯を飲んでも胎児に悪影響が出ることはありません。流産などの危険性もなく、臨月妊婦を含めて安全性の高い薬だといえます。

 

また、授乳中の方も問題なく麦門冬湯を服用できます。咳止めとして麦門冬湯を飲んでも新生児(赤ちゃん)に影響が出ることはないため、授乳中であっても問題なく母乳育児を行うことができます。

 

乳児・幼児を含め何歳からでも麦門冬湯を服用でき、妊婦であっても胎児に影響がないことからも、授乳中に麦門冬湯を服用しても問題ないことがわかります。

 

 

麦門冬湯の活用・注意点と風邪に使用する漢方薬

 

風邪に用いられる漢方薬には、他にも種類があります。例えば、葛根湯(かっこんとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄湯(まおうとう)、参蘇飲(じんそいん)などです。

 

葛根湯は風邪の初期に用いられ、頭痛、発熱、悪寒(寒気)、肩こり、汗の出ない人に対して活用されます。代表的な風邪薬であり、結膜炎や角膜炎、中耳炎、副鼻腔炎、蓄膿症など各種炎症症状にも用いられます。肩こりの薬として処方されることもあります。

 

一方で小青竜湯は痰が多く、湿った咳をする人に用いられます。アレルギー性鼻炎(花粉症)の患者さんでは、水様の鼻水があるので小青竜湯を多用します。風邪というよりも、アレルギー性鼻炎(花粉症)の薬の印象が強いです。

 

麦門冬湯は肺を潤す作用があるため、小青竜湯が適応となる患者さんに麦門冬湯を投与すると症状をよけい悪くしてしまう恐れがあります。同じ咳・クシャミであっても、水分が多いのか乾いているのかなど、その様子によって活用される漢方薬が違ってきます。

 

また、麻黄湯は体力の充実した人に用いられ、悪寒(寒気)や頭痛、ふしぶしの痛みのある人に活用されます。インフルエンザで処方される薬でもあります。インフルエンザでは悪寒や頭痛、関節の痛みがあるため、麻黄湯が適応となります。

 

胃腸が弱く、風邪を引くと長引いてしまう人の場合は参蘇飲を用います。咳、痰、熱、頭痛などの症状を改善させます。

 

医療用医薬品にはなく市販薬だけの取り扱いではありますが、のどの痛みや口渇のある風邪に銀翹散(ぎんぎょうさん)を活用することがあります。クラシエなどから銀翹散が発売されています。

 

なお、漢方薬が効く時間について、麦門冬湯を含めこれらの薬は体質が合えば数時間以内などすぐに効果を表すようになります。即効性がなければ風邪に対してこれらの薬を飲むことはないため、基本的にはすぐ効く薬だと考えるといいです。

 

・咳症状に活用される漢方薬

 

咳喘息を含め、咳症状に処方される漢方薬は他にもあります。例えば、五虎湯(ごことう)は体力があり、黄色で粘度の高い痰が出たり、咳喘息など激しい咳をしたりする人に活用されます。咳、気管支ぜんそく、気管支炎だけなく、痔の痛みにも五虎湯が用いられます。

 

また、粘度の高い痰が出るように調節し、咳を鎮める漢方薬が清肺湯(せいはいとう)です。長く続く症状に有効です。

 

抑うつのように気分がふさぎ、動機やめまい、吐き気などを伴う小児ぜんそく、気管支喘息、気管支炎、精神不安には柴朴湯(さいぼくとう)が用いられます。やせ形で胃腸がそこまで丈夫でない人に適しています。

 

扁桃炎、扁桃周囲炎など喉が腫れて痛む場合は桔梗湯(ききょうとう)です。化膿傾向のある人に活用し、のどの腫れを鎮めます。

 

ぜんそく発作時の小児ぜんそくによく用いられる漢方薬としては麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)があります。ゼイゼイと激しい咳や呼吸困難があり、口渇はあるが胃腸が丈夫な人に活用されます。麻杏甘石湯は百日咳にも有効です。

 

胃腸風邪への対処

 

同じ風邪であっても、胃腸からくる風邪に対して麦門冬湯は使用されません。胃腸風邪では吐き気や下痢、浮腫(むくみ)、めまい、胃痛・腹痛などを伴います。

 

こうしたとき、胃炎や逆流性食道炎、食欲不振、下痢などに用いる六君子湯(りっくんしとう)を用います。胃腸が弱く、食欲がなくて疲れやすかったり貧血ぎみだったりする冷えやすい人が対象になります。

 

また、利尿作用のある五苓散(ごれいさん)を服用することもあります。五苓散は水毒(体内の水分の滞り)を解消し、むくみやめまい、吐き気、耳鳴りなどを解消します。五苓散は水毒による生理不順やつわり、肌荒れにも有効です。

 

口臭や味覚障害に活用される麦門冬湯

 

のどや口の渇きがあり、痰の切れにくい風邪に対して主に用いられる麦門冬湯ですが、慢性的な口臭や味覚障害に対して用いられることがあります。

 

麦門冬湯は肺にうるおいをもたせる作用によって効果を示しますが、これは口の中に対しても同様です。口の渇き(ドライマウス)によって口臭や味覚障害が起こっている人に対して、麦門冬湯を使用することで唾液分泌を促します。その結果、ドライマウスを改善することで口臭・味覚障害を治します。

 

舌の表面が乾いており、乾燥肌による肌荒れやドライアイ(目の渇き)などがある人の口臭・味覚障害では、体にうるおいを与える麦門冬湯が適しています。

 

西洋薬との併用・飲み合わせ

 

風邪や気管支喘息などに用いられることから、麦門冬湯は西洋薬との併用も多いです。こうしたときは飲み合わせなどが心配になりますが、例えば以下のような風邪薬、頭痛薬、抗アレルギー薬、胃薬などと併用しても問題ありません。

 

抗アレルギー薬:ヒスタミンやロイコトリエンなど、アレルギーを引き起こす物質の働きを抑える

 

アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)、アレロック(一般名:オロパタジン)、ザイザル(一般名:レボセチリジン)、オノン(一般名:プランルカスト)

 

※抗ヒスタミン薬では眠気の副作用があるものの、麦門冬湯を服用して眠くなることはありません。

鎮咳薬:咳症状を鎮める

 

アスベリン(一般名:チペピジン)、メジコン(一般名:デキストロメトルファン)、リン酸コデイン、フスコデ配合錠、レスプレン(一般名:エプラジノン)

抗生物質・抗ウイルス薬:細菌やウイルスを退治する

 

抗生物質:クラリス・クラリシッド(一般名:クラリスロマイシン)、メイアクト(一般名:セフジトレン)

 

抗インフルエンザ薬:タミフル(一般名:オセルタミビル)

炎症を抑える:炎症を鎮めたり、のどの痛みを抑えたりする

 

ステロイド剤:プレドニン(一般名:プレドニゾロン)

 

抗プラスミン薬:トランサミン(一般名:トラネキサム酸)

気管支拡張薬:気管支を広げてぜんそく症状を抑える

 

テオドール(一般名:テオフィリン)、ホクナリンテープ(一般名:ツロブテロール)

去痰薬:痰を切る作用により、痰を出しやすくさせる

 

ムコダイン(一般名:カルボシステイン)、ムコソルバン(一般名:アンブロキソール)

解熱鎮痛剤:発熱やのどの痛み、頭痛などに用いる

 

ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、バファリン配合錠

 

なお、麦門冬湯はビールを含めアルコール(お酒)などと一緒に服用しても問題ない薬ですが、アルコールには脱水作用があって体内の水分が抜けていきます。麦門冬湯とアルコールを一緒に飲むこと自体は問題なくても、アルコール自体の脱水作用によってのどの渇きが促進する可能性があるので注意が必要です。

 

このように、麦門冬湯の特徴について解説してきました。肺をうるおす作用によって、乾いた咳症状を改善する薬が麦門冬湯です。マイコプラズマ肺炎などにも活用され、痰が切れにくい咳症状の場合は麦門冬湯が処方されます。

 

麦門冬湯は体質改善を促す薬ではなく、あくまでも症状を抑える薬です。空咳や気管支炎など多くの咳症状に麦門冬湯が活用されています。

 

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