研究者と言えば、研究室にこもって実験ばかりしているというイメージをもっている方が大半だと思います。実際にその通りであり、外に出るといっても、学会などに行って情報交換をするくらいです。

ただ、本当に必要な情報は「現場」に落ちているものです。論文を読んで情報を集めたとしても、現場で必要とされる情報に勝てるものはありません。

 実際に何が必要とされているのか

私は薬学部出身であるため、創薬や病気を治すことについて興味があります。ただ、製薬企業に勤める多くの研究者は論文や学会などで情報を集めることだけに注力しています。

創薬研究を行っている人の中で、「実際に現場でどのような薬が使われているのか」を知っている人は圧倒的少数ではないかと思います。

そこで、学会や論文だけではなく、少しでも現場に出向いて情報交換を行うだけでも、本当に必要とされる研究というのものが見えてきます。

例えば、私がお世話になった出身研究室の先生がとても興味深い話をしてくれました。その先生が人工透析を専門とする病院に出向いたとき、そこに勤める医師から「インスリンの意外な使い方」を教えてもらったそうです。

インスリンとは、血糖値を下げる唯一のホルモンです。糖尿病患者は血液中に含まれる糖分が多くなっているため、これによって毒性が起こります。その結果、腎機能が悪化して透析が必要になったり、神経障害を引き起こして足の壊死を生じたりします。

これを防ぐため、インスリンを投与して血糖値を下げます。これにより、先に挙げた合併症を防ぐことがインスリンを用いる主な目的です。ただ、インスリンを用いることで、これらとはまったく異なる使い方をするというものです。

答えを言ってしまうと、「傷の修復」のためにインスリンを用います。

前述の通り、糖尿病が悪化すると足の壊死などを招きます。これを放っておくと生死に関わるため、足を切断します。その後、傷の治癒を促すためにインスリンを皮膚に直接塗るようです。

ここまでのヒントがあれば、「インスリンを含ませ、徐々に放出される貼り薬を開発すればどうか」というアイディアを簡単に思い浮かべることができます。現場の医師に話すと、多くの方が賛同してくれるため、協力を得ることは容易なはずです。

こう考えると、アイディアというのは論文などを読んで悩んだところで、一つも思い浮かばないことが分かります。それよりも、現場で働いている人が「何に困っているのか」「どのような不満をもっているのか」を徹底的に調査する方が重要です。

これが、本当の意味で「現場を知る」ことに繋がります。現場を知るとはいっても、実際に現場で働くことは困難です。しかし、現場の人から生の声を聞くことは誰でもできるはずです。

「どのようにすれば素晴らしい研究を行えるか」という問いに対する答えは明確です。それは、「できるだけ多くの人と会う」ことです。

自分が経験できることは少ないです。しかし、多くの人と話せば、それだけたくさんのことを疑似体験できます。これらの情報を元に自分に活かしていけば、いくらでもアイディアを思い浮かべることができます。

 免疫疾患や慢性疲労などの難病を治療する

今現在、私は研究を行っていません。その代わり、ビジネスを行っています。私はビジネスをしている関係上、多くの人と会う機会がたくさんあります。

実業家として活動していると、今まで見たこともないことに挑戦している人に出会うものです。例えば、「病気の治療所」を運営している方がその中の一人です。

医療とはいっても、やはり限界があるのも事実です。薬だけでは治せない病気はたくさんあります。そのような中、薬を使わずに施術を行い、健康管理や食事などから総合的にアプローチしている方です。これまでの治療実績も豊富であり、喜んでいる患者さんは無数に存在します。

自費治療であるにも関わらず、うつ病や免疫疾患を含めて、多くの難病患者さんを抱えています。

話を聞いていると、漢方の考え方と似ていると感じました。漢方は患者さんの体質に注目し、自然に病気を治す力を引き出すことで治癒させようとします。同じような理論により、病気を治療しようというものです。

実は、このようなところに本当の意味で重要なヒントが隠されています。多くの人に会って刺激を受け、今までの常識に捉われなければ、多くの閃きを得ることができます。