2014年夏、アフリカ大陸でエボラ出血熱が猛威を振るっています。エボラ出血熱の致死率は50~90%にもなるといわれ、感染すると多くの方が亡くなります。

エボラ出血熱は、エボラウイルスによって起こります。症状が進行すると全身に出血が表れ、吐血や下血によって死んでいきます。

 エボラ出血熱の治療薬

エボラ出血熱の治療薬として、富士フイルムの子会社「富山化学工業」が開発したアビガン(一般名:ファビピラビル)が注目されています。マウスを使った実験では、アビガンによるエボラ出血熱への治療効果が確認されています。これを受けて、米国ではアビガンをエボラ出血熱に使えるように承認を急いでいます。

もともと、アビガン(一般名:ファビピラビル)はインフルエンザの治療薬です。インフルエンザは遺伝子としてRNAをもっています。人間がDNA(遺伝子)を保有しているのと同じように、ウイルスにもRNA(遺伝子)があります。

遺伝子にはすべての生命情報が刻まれているため、ウイルスが増殖するためには遺伝子も一緒に複製しなければいけません。

この過程に着目して、「インフルエンザウイルスがRNAを複製する過程」を阻害します。すると、ウイルスは増殖できなくなります。このような作用をする薬がアビガン(一般名:ファビピラビル)です。

そこで、この作用をエボラウイルスにも応用しようと考えました。インフルエンザウイルスとエボラウイルスを比べると、同じようにRNAをもっています。一本鎖のRNAであり、その性質も似ていることからアビガンを投与したところ、エボラ出血熱を改善させたというものです。

HIV(エイズ)の治療薬がB型肝炎ウイルスの治療に用いられるのと同じように、同じ作用メカニズムの薬が他のウイルスに効くこともあるのです。

ただ、アビガン以外の他の抗インフルエンザウイルス薬では、エボラ出血熱を改善できません。

タミフルなどの抗インフルエンザ薬は「ウイルスが細胞から放出される過程」を阻害します。作用メカニズムがアビガンとは異なるため、同じようには作用できないのです。

また、タミフルはインフルエンザ発症後48時間以内に投与しなければいけません。「ウイルスの放出を抑える」という作用から想像できるように、既にウイルスが増殖しきって体内で暴れている状態で、タミフルを使用しても効果が薄いのです。

一方、アビガン(一般名:ファビピラビル)はインフルエンザ発症後48時間以内に使用しても、症状を抑える効果を有することが知られています。

 使用制限されているアビガン

現在、アビガン(一般名:ファビピラビル)は使用に制限がかけられています。この理由は、「パンデミックに備える」ことがあります。過去、新型インフルエンザの蔓延によってパンデミックが起こり、全世界で何千・何百万人もの方が亡くなったことがあります。

1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜを聞いたことがあると思います。これは、インフルエンザが原因であるとされています。これらの感染症に対抗するため、現在では薬が使用されます。

ただ、これら感染症に起こる大きな問題点として、「細菌やウイルスが耐性を獲得する」ことが挙げられます。微生物が耐性を獲得すると、抗菌薬や抗ウイルス薬を投与しても症状は改善しません。実際、タミフルに耐性をもつインフルエンザウイルスが既に確認されています。

これらの耐性化は抗菌薬や抗ウイルス薬の使用量が多いほど発生しやすくなります。そのため、アビガン(一般名:ファビピラビル)を使用していると、必ず耐性ウイルスが出現することは分かりきっています。

実際にパンデミックが起こったとき、ウイルスがアビガンに対して耐性をもっていると治療は困難を極めます。これを避けるため、アビガン(一般名:ファビピラビル)の使用は制限されています。パンデミックによる大流行が起こったときのため、最後の切り札として取っておくという判断が下されたのです。

こうして、ほとんど使われることがないために儲からない薬になったアビガンですが、エボラ出血熱に効果を有する可能性があるとして再び脚光を浴びるようになりました。

インフルエンザのパンデミック時やエボラ出血熱など、アビガンが対象とする患者数は少ないです。ただし、感染症による大流行で危機に陥ったとき、人類を救う可能性のある薬でもあります。